新たな力

文字数 10,677文字

幻想郷、白玉楼にて。
レグルス「ファイナル様」
フ「どうした」
レグルス「実は先日、この本を見つけまして」
フ「先日…ってお前。昨日はずっと城内の清掃と壊れた建物の処理だったろ」
レグルス「私は図書館の方でしたから」
フ「そうだったか。で、その本はどこに?」
レグルス「こちらになります」
フ「…」
レグルス「かなり昔のものらしいですよ?」
フ「そうだろうな。この文字。古代語だろコレ」
レグルス「…読めるのですか?」
フ「一応な」
レグルス「てっきり読めないものかと…」
フ「えーとなになに…『初代半竜王』だって?」
レグルス「あ、そうでした。鍵はこちらに…って」
フ「ん?あんなものもう開けたぞ?」
レグルス「…いつの間に」
フ「ほー…『憑依』…霊体の力を引き出す…?」
長々と書いてある召喚術。
フ「レグルス。外行くぞ」

フ「さて。始めるか」
魔理沙「おーい」
レグルス「魔理沙様。お疲れ様です」
魔理沙「おう。なあ、アレなんだ?」
レグルス「先日見つけた本です」
魔理沙「あれから魔力を感じる。ファイナルと似てるな」
レグルス「何となく分かります」
フ「…よし。あとはこれで成功するか、だ」
魔法陣が縮小する。
魔理沙「お…ん?…ありゃ…失敗か?」
レグルス「いや。成功かと」
『…あなたが封印を解いたのですね?』
フ「まさかとは思ってたが…本当に初代だとは」
『私は初代半竜王エルゼ・ドラゴン。この本を見つけ、封印を解いたということは…そのつもりなのでしょう?』
フ「俺は5代目半竜王、ファイナル・ドラゴンだ。憑依というものが気になってな」
エルゼ『それについては聞くよりも実際身につけた方が早いでしょうね』
フ「ほう?」
エルゼ『ちょっと、体を借りますね』
身体が言うことを聞かない。
エルゼ『なるほど…私の体とよく似ている。これなら大丈夫』
フ「ん…?体から力が溢れてくる…」
エルゼ『これが憑依。私のような霊体をその身に宿し、2人の力を限界以上に引き出す。ただ…』
フ「ただ?」
エルゼ『私とあなたの場合…身体が似すぎているのです。その場合注意しなければならないのが…引き出しすぎて身体が耐えられなくなる場合です』
フ「器に水をめいっぱい入れてもこぼれてしまうのと同じでしょう?」
エルゼ『簡単に言えばそうです』
フ「分かりました。それには気をつけます」
エルゼ『少し、動いてみては?いきなり実戦では無理があるでしょう』
フ「そうですね。そうさせてもらいます」
魔理沙「ここからでも分かるってすごいな。あの力」
レグルス「大きさが計り知れません。それこそ幻想郷を消し飛ばすのは軽いのかも知れない…」
魔理沙「そんな事しないだろ」
レグルス「まず有り得ないでしょう」

ゼン「ミレイユ。今、白玉楼には誰がいますか?」
ミレイユ「西行寺幽々子、魂魄妖夢、霧雨魔理沙、魂魄妖奈、魂魄妖羅、ファイナル・ドラゴン、エンド・ドラゴン、イゼ・ドラゴン、サクラ・キョウカ、キルア・フリッツ、ロッキー・シャンバール、レイル・メルド、レグルス・ドラグナー。以上、13名です」
ゼン「おやおや。まさかイレギュラーまでいるとは思いませんでしたよ。…まあいいでしょう。あの方達が存分に戦えるステージを作ってあげましょう…『球体結界(ドーム)』」

フ「…なんだ?」
半円の結界が白玉楼とファイナル達を包む。
魔理沙「結界?でもこんなのは知らないぞ…?」
ロ「あの野郎…ついに殺しに来たか」
フ「魔理沙。白玉楼に行って幽々子様を頼む」
魔理沙「…わかったぜ。…死ぬなよ?」
フ「俺がそう簡単に死ぬと思うか?」
魔理沙「…いや。思わないぜ」
ゼン『迷宮(ラビリンス)
壁がせり上がる。
エ「完全に遊ぶ気だね…」
イ「どこからくる…?」
サ「どんな方法で消してくるのか…」
レグルス「…血に染まるのは…私達でしたか」
レイル「それは嫌ですよ」
幽々子「ちょっと…何が起きてるのよ!?」
妖羅「幽々子様!!外に出ないで!!
妖夢「ほらっ…行きますよ…っ!」
幽々子「嫌よ。彼らが私の為に戦っているのに黙って見てられるものですか」
妖奈「それでも今はダメです!早く建物に隠れましょうよ!」
幽々子「……」
今ここで何か言わないと彼らがどこかに行ってしまうようで。
何も出来ない。
なすがままに白玉楼へと引きずられていく。
フ「…エルゼ様」
エルゼ『わかってますよ』
魔理沙「おいおい…こりゃあ不味いんじゃねぇの…?」
ゼン「お待たせしました。ゲーム、『隠れ鬼』、スタートです」
ゼンが指を鳴らす。
それと同時に全員が別々の場所にワープする。

イ「に、逃げるしかないよね…!」
ここは箱庭。
狭く、広い庭。
そこで始まる恐怖の隠れ鬼。
見つかれば─
ゼン「見つけましたよ」
イ「─っ」
なんとも言えない恐怖が全身を駆け巡る。
道を右へ左へ。
ゼン「苦し紛れにしかならないのに─でも良いでしょう。付き合ってあげますよ」
死にたくない。
そんな考えが浮かんでは消える。
すぐ後ろにあいつが居る。
離せない。
ゼン「チェック・メイト」
イ「…来ないで…」
ゼン「大丈夫ですよ。すぐに夢から覚めますから」
腹部に1本、ナイフを刺す。
イ「いっ…」
四肢に1本ずつ、
最後は首を掻き切るように。
ゴロン。と、首が転がる。
苦痛の表情で固まった顔。
磔にされた身体。
滴る血液。
ゼン「次」

サ「さっきから体の震えが止まらない…」
レイル「大丈夫?」
サ「うん…行こう」
ゼン「逃がすとお思いで?」
サ「で…出た…っ!」
レイル「早く!」
サ「うんっ!」
ゼン「足掻きますねぇ」
刀を投げる。
それは深々とサクラの胸を貫いた。
サ「かっ…はあっ……」
レイル「サクラさん!」
サ「にげ…て…は…やく…」
ゼンが歩いてくる。
背中の持ち手を握り…
一気に引き抜く。
サ「っ……」
ゼン「私としたことが…急所を外してしまうとは」
まだ、生きている。
だがそれは新たなる絶望への扉。
容赦なく突き刺さる刃。
「あ……っう…」
息絶えるまで、何度も、何度も…
「……………」
息絶えてからも。飽きるまで。
ゼン「次は…そこにいるお嬢さんですね?」
レイル「ひうっ…」
逃げようとする。
その方向にゼンは動いた。
ゼン「逃がしませんよ」
レイル「うああっ…!」
既に肩を刺されていた。
ゼン「じっくりと料理してあげましょう」
「いやああああああっっっああああ!!!!!うぁぁぁぁ!!」
全身を針が貫く。
無慈悲な事に即死につながる神経や血管は全て避けて。
ゼン「…まだ、味わえますね?」
「っい…い…やだっ…ゆるし…」
突き刺さる。
「うぁぁっ…もう…ころして…おねがいします……」
ゼン「仕方ないですね」
首に切れ込みが入る。
声帯が切れ、血が流れ始める。
ゼン「それでは」
『待って…』
声にならない声を上げて懇願する。
『殺して─』
失血死。
残された道はそれだけだった。
痛みに耐えながら、いつ死ぬかも分からず、自分より先に死んでいく仲間の声を聞きながら─死ねというのだ。

フ「キルア様!」
キ「ファイナル…」
フ「どうされました」
キ「あ、足を…」
フ「…少々お待ちを…」
応急処置だけする。
フ「歩けますか?」
キ「はい…ありがとう」
フ「いえ」
ゼン「見事な関係ですね」
フ「…来たな」
ゼン「すぐに消して差し上げましょう」
キ「…!ファイ…!」
フ「キルア様…!?」
氷漬けにされたキルアがそこに居た。
ゼン「ククク…」
フ「お前…!」
ゼン「次はあなただ」
フ「こんな所で死ねるか…!」
ゼン「ほう。初めてだ。向かってくるなんて…」
フ「だあっ!」
刀はゼンをすり抜ける。
ゼン「ホント、馬鹿ですねぇ」
壁に打ち付けられる。
フ「があっ…」
ゼン「…ではこちらから」
キルアの方へ矛先を向ける。
フ「させるか…」
庇う。
ゼン「クク…フハハ!そこまで綺麗に引っかかってくれるとは!」
2体の氷像が立つ。
ゼン「…」
パチン。
氷像は消える。

ロ「…」
レグルス「…見たのですね?」
エ「…ああ、見たよ」
ゼン「何を、ですか?」
レグルス「エンド様!」
エ「えっ?」
水槍が地面を割る。
ゼン「おや。外してしまいました」
ロ「…どうせ死ぬんだ。潔く死んでやろうじゃねぇか」
ゼン「…見事」
斜めに一振り。
エ「ロッキーさん!?」
レグルス「行けません。もうダメでしょう」
ゼン「あなた達はどうします?」
レグルス「…私は」
エ「レグルス。もういい。ただ1つだけ…良いかい?」
レグルス「エンド様…」
エ「俺と一緒に死んでくれ。みっともないが…とても独りじゃ死ねない」
レグルス「…分かりました。このレグルス、あなた達の為なら何処へでも行きましょう」
ゼン「覚悟は決まったようですね」
刃が2人を突き刺す。

ゼン「これで全員…次のステップに行きましょう」

エ「…あ、あれ?」
レグルス「これは…」
ゼン「お目覚めですか?」
キ「ゼン…!」
ゼン「今のはただの幻影。これからが現実ですよ」
フ「俺たちに『死』を体験させたと」
ゼン「その通り」
フ「悪いがまだ死ぬつもりは無いからな。返り討ちにささてもらう」
ゼン「はて…出来ますか?」
フ「やって見せる」
ゼン「む…その刀」
フ「こいつは(神楽)死なない。いや、死なせない」
ゼン「…もう一度叩き折るまで」
フ「…エルゼ様」
エルゼ『行くならば全力で。ですが限界には注意を』
フ「『憑依』」
ゼン「ぬぅ…」
フ「覚悟しろよ」
まだ対処できる…
だがこれ以上は無理だ…
そっちがその気なら…
ゼン「全力を出してみましょうか」
刀を素手で受け止める。
フ「…っ!」
ゼン「私の力は…こんなものでは無い!」
地面に叩きつける。
反動で跳ねた身体に追い討ちをかける。
フ「うがあっ…!」
エ「この…!」
イ「ダメ!」
エ「うっ!?うああっ!?」
ゼン「良い度胸ですね」
ロ「くっそ…」
引き金を引く。
ゼン「そんな玩具が私に通用するとでも?」
エ「うあああ…」
ゼン「今度こそあなた達を…」
ファイナルの刀がゼンのすぐそこまで迫る。
ゼン「…危ないところでした」
フ「そろそろ終わらせようぜ?」
ゼン「そうですねぇ。丁度退屈してきたんですよ。決着は次ですね」
ゼンが消え、結界も解ける。
魔理沙「お…行ったのか?」
幽々子「…みたい、ね」
フ「皆、わかってるな?」
キ「はい」
イ「うん!」
エ「もちろんさ。兄さん」
フ「…頑張ろう」
『おー!』

決着の機会はすぐに訪れた。
次の日。
広い平原。
光と闇が相見える。
ゼン「さあ、今日こそはどちらかの命が尽きるまで…楽しみましょう」
フ「死ぬのはどっちだろうな」
ゼン「さあ?それは誰にも分からないでしょう」
フ「…そうだな。始めよう」
ゼン「最初から全力で行きますよ」
ファイナルとゼンがぶつかる。
中央に結界が貼られる。
霊夢「間に合ったわね」
魔理沙「間一髪だぜ」
霊夢「さすがにあいつらが本気でやり合ったらここら辺も無事じゃないでしょうね」
魔理沙「だな。さて、私達もやるぜ」
エ「霊夢…」
霊夢「ぼさっとしてたら殺されるわよ?」
エ「あ、ああ……」
ミレイユ「たとえ増えようと…私は私のことをするだけ!」
穢れた不死鳥が翔く。
ロ「行くぞお前ら!」
『おおおおおおおっっ!!』
ミレイユ「焼き尽くす…!」

ゼン「フフ…これで存分に戦えますね?」
フ「そうだな…!」
ゼン「…闇よ!私に力を…!!
フ「『憑依』…行くぞ!」
ゼン「無駄なことを!」
刀がぶつかれば火花が散る。
互いが互いを斬り合う。
ただ、一心不乱に目の前のものを斬り続ける。
ゼン「うおおおあああ!」
フ「ぐあ…っ…」
少しずつ力を解放していく。
器はもうすぐいっぱいになる。
なら、広げればいい。
エルゼ『何を考えているのですか!?』
フ「…『竜化』…」
エルゼ『…あなたという人は!』
器にヒビが入る。
フ「負ける訳には行かない…!」
ゼン「ふ、フフ。フハハハハハ!」
より一層暗い闇が包む。
始まってから5分。
その5分がとても永く感じる。
ゼン「ぬああっ!」
力と力が交差する。
フ「まだまだ…」
押しのける。
ゼン「甘い!」
背後に回られる。
結晶の壁が破られる。
フ「…っ!」
刀が身体を斬った感覚。
まだ傷は浅い。
ゼンに向かって飛び込んで行く。
ゼン「馬鹿なことを…頭でも狂いましたか?」
振りかぶる。
避ける。
すぐに結晶を創り、それを蹴って加速する。
後はすれ違いざまに斬る。
ゼン「…なるほどっ」
どんどんペースを上げる。
自分が反応できるギリギリまで神経を尖らせる。
ゼン「う…ぐっ…うおおおおおお!」
フ「これで!」
ゼン「そこか」
避けられる。
がら空きの腹を蹴られる。
そのまま結界の壁にぶつかる。
フ「いっ…つ…」
ゼン「フン!」
追い討ちを受け止める。
ゼン「いい加減…死んで欲しいのですが…っ!」
フ「うっせぇ…黙ってろ…っての!」
ゼン「ぬう…」
壁を蹴る。
フ「焼き尽くせ!神楽!」
蒼炎を纏う神楽。
ゼン「…面白い」
斬った。
ゼン「何倍にもして返してあげましょう!」
フ「なあっ!?」
カウンター。
一瞬意識が途切れる。
何とか着地する。
フ「ぐ…」
頭が震える。
ゼン「さあ、ここからが本番ですよ」
フ「……」
エルゼ『!?そんな馬鹿なことする訳…』
フ「『覚醒憑依』!!
エルゼ『!?!?』
フ「『やるからには本気で』って言ったのは誰だ」
エルゼ『っく…』
フ「今だけ黙って言うことを聞いてくれ」
エルゼ『…分かりましたよ』
フ「ありがとう、エルゼ様」
空っぽだった身体に湧いてくる力。
負の感情でもない。
純粋な、透明な水。
器を満たす。
フ「これで終わらせる…!」
ゼン「かかってこい…いくらでも受け止めてやる…!」
刀を構える。
青い炎が刀に纏わる。
目を閉じて、暗闇の中で独り、立つ。
フ「『煉獄閃(れんごくせん)』…!」
一閃。
ゼン(み…見えなかった…)
傷口から噴き出す炎。
ゼン「なぬっ!?…ぐおお…!」
フ「止めだ!」
ゼン「…なーんてね」
フ「うぐ…!」
ゼン「反撃だ」
力を乗せた重い一撃。
フ「がっ…はあっ…!」
ゼン「その首、貰った!」
風を切る。
フ「っ!」
距離を取ってもすぐに詰めてくる。
体や顔を掠る刃。
フ「…せやあ!」
刀をかちあげる。
ゼン「ぬぐぅ…!」
そのまま蹴り飛ばす。
フ「…ぐっ…もう駄目か…」
体力の限界はとっくに超えている。
フ「次で勝敗が決まる…」
魔法具に力を貯める。
アルマゲドン。間違いなくファイナルが放つ技ではトップクラスの破壊力だ。
フ「耐えてくれよ、神楽」
魔法具を刀に差す。
魔力がコーティングされ…
刀身は輝く。
フ「アルマゲドンの力を持った斬撃…どうなるかな。俺自身も分からない」
ゼン「っ…ぐ…」
フ「この戦いを、終わらせる」
ゼン「…影は消えない…光がある限り…闇は潰えない…」
フ「…いい加減目を覚ましやがれ!」
全ての力を乗せて。
全力で斬る。
その斬撃は黒い空と闇と血が混ざった壁を斬り裂いた。
ゼン「あ、…が……っ……」
フ「流石、霊夢の結界だ…強いな…」
ゼンの体から何かが出ていく。
「いい身体だった。もう一度使いたい程だ」
ゼン「っぐ…う…」
フ「なるほどな。やっと分かったぜ。ゼンが何度も『全力を出す』と言って…なぜ俺を殺さなかったのか。…それはお前じゃなかったんだな。ゼン?」
ゼン「う…ファイナル、様…」
フ「立てるか」
ゼン「…ありがとうございます…」
フ「ほら。これ使え」
ゼンが結晶を砕く。
ゼン「このご恩は必ず…返します」
フ「…そう言うのはあいつを消してからだな」
ゼン「…そうですね」
幼い頃、殺されかけていた所を助けてくれた半竜王。
名前も、顔すらも知らないであろう自分を助けてくれた恩。
ゼン「…行きましょう。ファイナル様」
フ「ああ。行こう」
竜化。
今の体力だとこれが限界だ。

結界の外。同時刻。
ロ「オイオイ…やっとあの鳥をやったと思ったら今度はそれよりもすげぇやつが来やがったぜ…」
霊夢「きっとあの子も本心では戦いたくなかったんでしょ?」
ロ「あの影に操られていた、って訳か」
霊夢「多分ね」
ロ「えげつない事をするな、奴ら」
霊夢「そういう奴らでしょ?」
ロ「まあな。…霊夢、手伝ってくれ。俺はあいつがなんだか許せねぇんだ」
霊夢「あら、奇遇ね。私もよ」
エ「というか…ここにいる皆そう思ってるよ」
サ「ええ。私も頭に来てますから」
ロ「…うし。1発やってやろうぜ?」
魔理沙「ああ!」

フ「…外でも始まったな」
ゼン「…申し訳ない事をしました…この刀は必ずあなたのお母様にお返しします」
フ「別にいい。母上にとってはそんな刀より俺たち子供の方がよっぽど大切だったんだろうよ」
ゼン「……」
フ「気持ちだけ貰っておく。ただ飾って朽ちていくより…お前に大切にされた方がその刀も幸せだろう」
ゼン「っ…本当に…申し訳ない……」
フ「泣くのは後だ。そうだろ」
ゼン「…ええ。そうですね」
「ぬははははは!無謀にも挑んでくるか!愚か者め!」
壁を作る。
ゼン「愚か者は…」
フ「そっちだ!」
ゼンが一撃で崩す。
「何だとっ!?」
すかさずファイナルが斬る。
「ぬぐおおっ!?」
フ「お前みたいなクズには慈悲も要らないよな?遠慮なく行くぞ」
ゼン「今までの借り返しです。どうぞ受け取ってください。勿論、拒否権はありませんが」
もう一度、刀をコーティングする。
さっきとほぼ同じ力。
ゼン「長い間操られていたおかげか…私自身で闇を扱えるようになりましたよ。これで葬ってやりましょう」
刀に闇を流す。
「ま、待て!」
『黙れ』
殺意の籠った言動。
「っ…」
2人の刃が影を切り裂く。
「ぐおおおおおおおおおお…………」
結界が破れる。
闇は2つ同時に消えた。
ゼン「…ミレイユ!」
ミレイユ「ぱ、ぱ……」
イ「…本当に幼かったんでしょうね」
レイル「ですね…許せない」
レグルス「これで、一件落着ですが…影はもう次の手を打ってくるでしょう」
ロ「その時はまた潰してやるだけだ!だろ、ファイナル?」
フ「…ええ、そうですね」
ゼン「…?…こ、これは…羽…あの日溶けた…まさか」
「ゼン!」
ゼン「あなた達は…!」
エ「おお、鳥人族。まさか幻想郷にまで来るなんて」
鳥人族「すまない…ゼンが迷惑をかけたみたいで」
エ「いや。気にしてないからいいんだ」
鳥人族「もし…レミルが危険な時は、俺達も戦うよ。レミルには昔受けた恩もあるからな」
エ「ありがとう」
鳥人族「ほら、ゼン!行くぞ。みんながお前を待ってる。あと…リトもな」
ゼン「リトが…?」
空へと上がっていく。
フ「…俺たちも行こう」
妖夢「…大丈夫?大分疲れてるみたいだけど…」
フ「あ、ああ…多分、大丈夫だ」
エ「本当に?」
フ「…一応、永遠亭に行くよ」
ロ「そうか。俺達は先に帰ってるからな」
フ「はい」

エ「…やっぱり兄さんおかしいよ」
フ「…そう、か?」
イ「さっきからフラフラだし…息も途切れ途切れだよ?」
妖奈「急いだ方がいいかも…」
エ「そうだね。妖羅、兄さんの肩を持ってあげて」
妖羅「分かりました…っしょっと」
エ「よし、急ごう」

永遠亭の目の前まで来た時、ついに恐れていたことが起こる。
エ「ちょ…兄さん?」
返事は無い。
エ「兄さんっ!?」
妖夢「ち、ちょっと先生を…!」
妖羅「父さん!!」
妖奈「あわ、あわわわわ…」
エ「と、とりあえず運ぶよ!手伝って!」

永琳「うーむ……やっぱり力の使いすぎが原因としか思えないわね…でもこれは…度が過ぎている…わね」
エ「に、兄さんは…?」
永琳「…今は、自然に起きるのを待つしか…」
エルゼ『それが1番確実で安全でしょう』
妖羅「…?」
エルゼ『まずは自己紹介からですね。私は初代半竜王、エルゼ・ドラゴンと申します。肉体はとっくの昔に滅びましたが…今は霊体としてここにおります』
永琳「あなたさっき『確実で安全』って言ってたけど…他に手はあるの?」
エルゼ『あるにはありますよ。どれもリスクは高いですが』
エ「…一応聞こう」
エルゼ『1つ。大量の魔力を直接送り込んで瞬間的に覚化、もしくは竜化させる方法。そしてもう1つ。私が憑依して半強制的に目覚めさせる方法』
エ「……」
エルゼ『おすすめはしませんよ。どれも下手をすれば本人が死にます』
サ「エンドさん…」
エ「大人しく、待とう」
永琳「だったら白玉楼で寝させてあげたら?」
エ「…だね」

白玉楼
エ「…よし」
幽々子「…相当きつかったのね」
エ「でしょうね…あの兄さんが昏倒するなんて」
幽々子「妖夢達も目に見えて落ち込んでるし…」
エ「幽々子様。俺は明日レミルへ行きます」
幽々子「…あら?何しに?」
エ「力丸さんやジェイさんにも伝えておきたいし…前の襲撃で亡くなった兵士達の慰霊もまだなので」
幽々子「…そう。行ってきなさい。紫には言っておいてあげる」
エ「ありがとうございます…」

エンドの部屋
エ「…兄さん」
サ「珍しく落ち込んでますね」
エ「そう、かな」
サ「見て分かりますよ。他のみんなを見てても」
エ「まさか兄さんが…なんて思わないだろ?」
サ「私だってびっくりですよ」
エ「その割にはいつも通りじゃないか」
サ「こんな時に落ち込んで何になるんです?ファイナルさんが起きたらきっと馬鹿にされますよ?みんな」
エ「…」
サ「それに、私はエンドさんのそんな顔を見たくありませんし」
エ「?それはどういう…」
サ「…教える訳ないじゃないですか」
目を逸らしたサクラの頬が染まっている。
エ「…まあ、そうだね。確かにいつまでも落ち込んでたら兄さんに馬鹿にされるよね。目が覚めたよ。ありがとう、サクラ」
サ「いや…そんな」
エ「ねぇ、サクラ。明日レミルに行くけど…」
サ「…行きますよ」
エ「うん。わかったよ」

レミル:城内
力丸「なるほど…そんな事が」
ジェイ「無理をしすぎるのがあいつらしいな」
力丸「ジェイ。馬鹿なことを言うな」
ジェイ「…すまん」
「隊長。これはどうすれば?」
力丸「向こうに運んでくれ。…あいつらは?」
「向こうで走り込んでます」
力丸「そうか」
エ「…今のは?」
力丸「あいつはガフ。ファイナルの教え子だ」
エ「へぇ…兄さんの…兄さんの!?」
力丸「あいつちまちま来ては教え込んでてよ。せっかくだしって事でゼロ部隊に迎えたんだ」
ジェイ「そうそう。後新兵が2人だな」
力丸「言い方は悪いが補充だ。それでも新兵のトップ2と3だ」
サ「トップ1じゃだめなんですか?」
力丸「ゼロ部隊は少数精鋭。今のトップ1の奴はちょいと戦闘面が心配だったからな」
サ「そうなんですか」
力丸「ローズとバートだ。覚えておいてやれ」
エ「了解…ところで、お墓はどこにあるかな?」
力丸「向こうにある。案内するぜ」

城から少し離れた場所にある墓地。
力丸「聞いたか?ヴェーデとチノーテのこと」
エ「…戦死したとだけ」
力丸「…それを知っていればいい」
ジェイ「力丸。ここだ」
2つの墓。
『CHINOTE』
『VEDE』
手を合わせ、目を閉じる。

力丸「もう良いだろう。戻るぞ」
エ「…はい」


ある店に一人。
エ「…」
「お待たせしました」
エ「ありがとう」
サ「結構長かったですね」
エ「まぁね」
サ「でも指輪なんてどうしたんです?あ!まさか…心に決めた人でも?」
エ「まぁ…そうだね」
サ「で、誰なんです?」
エ「…今ここで言うの?」
サ「え、良いんですか?」
エ「別にいいけど…後悔しても知らないよ?」
サ「…そんなにびっくりする人と?ますます気になってきました!教えてください!」
エ「しょうがないなぁ…もう」
片膝を付き、
指輪ケースを差し出す。
エ「サクラ。好きだ」
サ「えっ…ちょっと…冗談ですよね?」
エ「そんな訳ない」
サ「え…本当に、私に?」
エ「ああ。ずっと好きだった。結婚してくれ…なんて飛び抜けた話はしないけど…付き合って、くれるかな?」
サ「…もちろん、です…」
指輪を受け取る。
サ「むしろ今結婚してもいいくらい幸せです、エンドさん…」
エ「あはは…早すぎだって…」
「おめでとうございます!エンド様!」
「大胆だねぇ!」
道行く人も祝福してくれてくれた。
サ「恥ずかし過ぎて倒れそう…」
エ「ちょっ…困るよそれは…」

力丸「よう。未来のご夫婦さんよ」
ジェイ「ばっちり見てたぜ。おめでとう」
エ「からかわないでくださいよ…」
力丸「ははっ。いい事じゃねぇか」
ガフ「聞きましたよ。エンドさん」
エ「うう…」
バート「なぁ隊長!エンドって人はどこにいるんですか!」
力丸「そこにいるだろ」
バート「おお!あなたがファイナル隊長の弟様ですか!俺はバート!よろしくな!」
エ「お、おう…」
ローズ「バート…テンション上がりすぎ。ごめんなさい、エンド様。私はローズ。最近ゼロ部隊に入ったばかりですが、よろしくお願いします」
エ「…うん。よろしくね」
ガフ「ついでに僕も。ガフです。ファイナルさんは僕の師匠です」
エ「師匠…兄さんが聞いたらどうなるんだろ」
サ「暴露してみます?」
エ「面白そうだね、ソレ」
力丸「…何二人でやってんだか。いつ戻るんだ?」
エ「あと数時間で」
力丸「中々早いな」
エ「兄さんが心配なんで…」
力丸「心配することはねぇと思うが…頼んだぜ、あいつのこと」
エ「はい。任せてください」
ジェイ「何かあったら連絡してくれよ?」
エ「はい」
部屋を出る。
エ「さて、戻ろうか、サクラ」
サ「戻りましょうか」
闇は消え、花が咲いた。
不穏な風はどう吹くのか。
様子を見る判断は吉と出るか、凶と出るか。
今、言えることは…
俺は幸せだ、という事かな。
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