力の代償

文字数 12,265文字

エ「まだ起きない?」
妖夢「…ええ。まだ」
エ「もう今日で1週間…明日か明後日に起きなかったら…強制的に起こす方法も考えよう」
妖夢「そうですね…」

エルゼ『…』
レグルス「…どうか、なされましたか?」
エルゼ『いえ…あなたを見ていると…私の従者を思い出してしまいまして…』
レグルス「確か…ヘリカトル様でしたかね」
エルゼ『ええ…あの方は私の娘…アルナの従者でもありました…』
レグルス「残念ながら…記録には何も」
エルゼ『わかっています。でも…今もどこかで生きていたら、と思ってしまうのです』
レグルス「…その気持ち、とても分かります」
エルゼ『あなたも…?』
レグルス「ファイナル様をロッキー様にお送りしてから10数年…竜の国(レミル)ではずっと『ファイナル一行は死亡した』と聞かされ…その時は私も死んでやろうかと思いました」
エルゼ『…』
レグルス「あの日…たとえ姿が変わろうと…私はすぐに分かりました。ファイナル様だと」
エルゼ『…良い信頼ですね』
レグルス「ありがとうございます。ヘリカトル様については何かしらの情報が入ればすぐにお伝えしますよ」
エルゼ『本当ですか。ありがとうございます』

幽々子「ロッキー。聞きたいことがあるの」
ロ「どうした」
幽々子「あなた、最近マインを見た?」
ロ「…いいや。そういえばどこに行ったんだ?」
幽々子「分からないわ。他のみんなに聞いても見てないみたい」
ロ「でもよ。マインがどうかしたのか?」
幽々子「この一週間…影の襲撃もなく…また何かの驚異が現れたりもしてない。確かに平穏なのはいいけど…まだ何か隠れてる気がするの」
ロ「否定はしない」
幽々子「あなたも?」
ロ「ゼンに取り付いていた闇…

?」
幽々子「…なるほどね」
ロ「…俺は明日にでも崩れると思うぜ。この平穏は」
幽々子「嵐の前の静けさってやつね」
妖夢「ゆ…幽々子様っ!!
幽々子「どうしたの?そんなに慌てて…」
ロ「…おい、あれは何だ!?」
妖夢「かっ…影が…影の大軍がここに…っ!」
ロ「あいつら…!」
幽々子「ロッキー。お願いしてもいい?」
ロ「やるしかないだろ。妖夢」
妖夢「皆ももう集まってる」
ロ「白玉楼には指1本触れさせんぞ。思い切り攻めに出る」
妖夢「わかった」
飛び出していく。
幽々子「…気をつけて」

「…に…い…ゃ」
エ「…誰だ…?初めて見る気はしないけど…」
イ「兄様っ!」
エ「おふっ…!?」
どつかれる。
さっきまで立っていた場所に雷が落ちる。
イ「もう…」
エ「ごめん」
「ね……ん…」
雷を纏う刀。
マインの黒雷に似ている。
エ「来るよ、イゼ」
イ「分かってるよ、エンド兄様」

ロ「うおらぁ!」
レイル「ロッキーさん!」
ロ「レイル!お前も手伝え!」
レイル「そんな事…言われなくても!」
キ「行きましょう、レグルスさん」
レグルス「仰せのままに」
蹴散らされる影の軍勢。
人の形をして、喋り、意思を持ち、戦う。
まるで…人間のような生物。

妖夢「2人共、頑張ろうね」
妖羅「ああ。みんなと一緒なら…なんでも出来る気がするんだ」
妖奈「ひとりじゃない…よね?お母さん」
妖夢「私はいつまでも一緒にいるよ。みんなと一緒にね」
妖奈「…ありがとう、お母さん」
妖羅「ほら、妖奈。来るぞ」
妖奈「行こう、お兄ちゃん」
妖夢「私も居るからね」
影「死ねやああっ!」
妖羅が受け止める。
妖奈と妖夢が一閃。
妖羅が仕上げに斬り捨てる。
妖夢「まだまだ!」
素早く、着実に仕留めていく。
妖羅「負けてられないね!」
複数をまとめて斬る。
妖奈「私だって!」
舞う斬撃と血飛沫。
ファイナルに教えてもらった剣の腕。
誰にも負けはしない。
妖羅「邪魔すんなぁ!」
妖夢「せあああっ!」
妖奈「えーい!」
数を減らしていく影。

次々と襲いかかってくる。
レグルス「キルア様。私にお任せを」
キ「いえ。私にも戦わせてください」
レグルス「…ファイナル様が聞かれたらどう答えるのでしょうかね?…とりあえず、『無理はしないように』、お願いします」
キ「はい!」

エ「…あいつめ…」
イ「だい…じょうぶ?」
エ「何とかね…」
サ「にしても…なんだかなぁ」
イ「思うように攻撃出来ない…」
「は……れて…」
雷がまた落ちる。
エ「…イゼ、サクラ。一気に決めよう」
サ「任せてください」
イ「うん。兄様に合わせるよ」
エ「よし…!行くぞ!」
「どう……て…」
エ「そぉれ!」
サ「せい!」
イ「やあっ!」
「……」
エ「消し飛べっ!『アルマゲドン』ッ!!
魔法具を突き出す。
影が消えていく。
勝利。
ロ「終わったか…」
レイル「つ…疲れた…」
幽々子「み…みんなっ!」
キ「どうかしたのですか?」
幽々子「ふ…ファイナルが…っ!」
その言葉に全員が反応する。
幽々子「…いないのよ」
ロ「んだとおっ!?」

レグルス「キルア様。そちらは」
キ「ダメです…」
レグルス「ふむ…」
エ「こっちもダメだったよ…」
イ「…白玉楼にはいないのかな?」
その時、微かに感じる魔力があった。
エ「……!」
妖夢「え…エンドさん?」
エ「…イゼ?」
イ「考えてる事は多分同じだよ」
エ「行ってみる?」
イ「行くしかないでしょ」
走り出す。
糸を辿るように。

「ふ……あ……に……ち…」
やっぱりだ。


影「今がお前を殺せる絶好のチャンスなんだ…逃してたまるか…!」
拳を握る。
高まる怒りの感情。
覚醒。
影「怯むんじゃねぇぞ!」
4人がかりで襲いかかってくるのをまとめて粉々に斬り伏せる。
人間への憎悪。
それすらも燃え上がる炎となる。
影「この…化け物が!」
首筋を深く抉る。
影「っ…」
斬り付ける度に生温い返り血を浴びる。
影「…野郎!」
打ち合い。
ただ、それも一瞬の出来事に過ぎない。
心臓を貫く。
傍から見ればただの虐殺にも見える。
それでもただ刀を振るうのみ。
影の全てを斬り捨てた。
「に…い……ん…」
エ「兄さんっ!!
イ「危ないって!」
「く…る…な…!」
フ「だ、そうだ」
エ「兄さん…」
フ「さっさと目を覚ませ。フィル」
頭を撫でる。
フ「お前も俺を殺すなんて事したくないだろ」
「う……あ……あ……」
妖羅とほぼ同じ背の高さ。
抱きしめて優しく頭を撫でる。
フ「戻ってこい。

?」
「あ…にい…ちゃ……」
フ「…そうだ。お前の、義兄ちゃんだ」
腕が背中に伸びる。
「お…おれっ…義兄さんになんてことを…っ!」
フ「気にするな」
イ「兄様…」
ふと、風が吹く。
羽織っていた布が落ちる。
エ「…変わったね、兄さん」
フ「そら1週間も寝たきりだったんだ。こうなるのも無理はない」
エルゼ『やれやれ…やっと見つけましたよ…』
ロ「全くだぜ…」
フ「お久しぶりですね」
エルゼ『そうですね』
フィル「……うう…」
フ「大丈夫か」
フィル「多分…僕の中にある闇が…っ」
フ「吐き出せ。俺が消してやる」
フィル「う、うう…うがああああ……」
フ「さて、やるか」
イ「もちろんっ!」
エ「ああ!」
フ「『覚醒憑依』」
エルゼ「ばっ…馬鹿ですか!?」
フ「この前ので使い方はわかってる」
あたりの雰囲気が変わる。
ファイナルの炎が黒く染まる。
エルゼ『ちょっと…これは』
フ「『黒炎』…滅びを示す火。全てを飲み込んで燃え上がる負の感情が詰まった炎」
闇「…(ニヤリ)」
不意打ち。
フ「効かないねぇ。出直して来い…もっとも、そんなことが出来ればの話だが」
縦に一閃。
闇が消える。
エ「フィル、起きて」
フィル「う……ん……」
フ「エンド。頼んだぞ」
エ「…マインかな?」
フ「…因縁(ケリ)を付けてくる」
エ「止めはしないよ。じゃあね」

フ「……」
エルゼ『何故憑依を解かないのですか』
フ「ダメですかね」
エルゼ『そんな事は誰も言ってませんよ』
フ「黒炎が想像より心地よくてですね」
エルゼ『…よく分かりませんね』
フ「でしょうね…いたいた」
パーティ会場のような場所。
テーブルがあり、椅子がある。
どことなく小さな頃に過ごした場所に似ている気がしなくもない。
…俺にとっては最悪の場所。
あいつにとっては最高の場所。
マイン「ふぁイ…なル…き、きミは…ナゼ、ボクを…タ、たすケに…」
フ「…来いよ、マイン。お前の全部を俺にぶつけてこい」
マイン「ナンで…ぼクナんかを…ドうシて…」
フ「…俺が、お前の親友だからだ」
マイン「し…ん、ユウ……う、ぐ…うぁぁぁ、うウウオオオアアアアアア!!!!」
部屋を黒雷が走る。
弾ける黒炎。
黒と黒が混ざり合う。
エルゼ『可哀想に。相当溜め込んでいたのですね…』
フ「…救ってやるよ、マイン」
お前が俺にしてくれた様に。
あの頃みたいに。
確かな覚悟が体を支える。
刀を握る手に力が入る。
炎が蒼く燃え上がる。
フ「いくぞ、マイン…!」
マイン「…キナよ、ファいなル!!
刀が軋む音。
音が歪む。
テーブルを雷が割り、炎が焼く。
ここは2人が出会い、育った場所。
その思い出をファイナルは壊すように。
マインは守るように。
フ「いい加減…戻ってこい!」
マイン「グあっ…!」
フ「俺は…お前にとって…

なんだろ!」
不意に頭をハンマーで殴られたような感覚がする。
マイン「僕、は…」
だが直ぐに忘れてしまう。
フ「っおおお!」
マイン「う…グゥっ……」
死なない程度に攻撃する。
マイン「ふ…ファイ…ナル…」
手を差し伸べる。
フ「戻ってこい」
手を取ることができない。
体が動かない。
思考もできない。
マイン「ファイナル…」
霞む意識の中で、言う。
マイン「僕を、止めてくれ。」
ファイナルが何を言ったかは分からない。
だが、口の動きで分かる。
『任せろ』
これで…いい。
もう、復讐なんて、どうでもいい。
僕は…
君と共に影を切り裂く刃となろう。

マイン?「ぉ前を…こロす…まで、は……シネ…なイ…!」
フ「…お前はよく頑張ったよ。もう、静かに寝てな」
?「き、さ…ま……!」
フ「一撃で沈めてやるよ」
?「おの…れぇ…!!…」
フ「『煉獄閃(れんごくせん)』…!」
ずり落ちていく身体。
?「おれ、は…ただ……

……」
フ「……」
マインの復讐の想い。
フィルの再開の想い。
混ざりあって出来た複雑な想い。
フ「…それでも、いいんだろ。マイン?」
マイン「……」
フ「伸びたフリしたって無駄だぞ」
マイン「…あはは。やっぱり適わないね、君には」
フ「何言ってんだ。お前が勝とうなんざ百年早いっての」
ぐちゃぐちゃになったパーティ会場が崩れる。
そこはエキドナの小さな丘。
見下ろせは街が一望できる。
おおきな木が一つだけ、佇んでいる。
フ「懐かしいな、ここも…っと」
昔良くしていたように…木の幹に体を預け、目を閉じる。
マイン「…ここはもう無いからね」
立ち上がったマインのコートから写真が落ちる。
マイン「あ…」
ファイナルが取るのが早かった。
フ「よく残してたな」
写真に映るのは刀を抱いた2人の子供。
十数年前、正にここで撮った写真だ。
フ「…返す。これ以上見てたら俺が耐えられない」
マイン「ああ、ありがとう…」
フ「やめろ。お前がそんな言葉を口にするのが想像できない」
マイン「仕方ないじゃないか」
フ「…どうとでも言え」

エ「で、お前はどうするのさ?」
フィル「もちろん義兄さん達について行くよ!」
イ「って言ってるけど?」
エ「はぁ。これは何言ってもダメだね…」
フィル「なあ、良いでしょ?」
「まあ。良いんじゃないかな?」
フィル「ん?…あ!あーっ!お、お前!」
マイン「…やあ」
フィル「死んでなかったのかよ…」
マイン「簡単に死ねるか…」
フィル「ね、ねぇ!ファイ義兄はこいつも連れて行くの?」
フ「やめろ馬鹿…そのつもりだが」
フィル「なら僕だって…」
マインが急に頭を下げる。
マイン「今まですまなかった。もちろん謝って許されることじゃない…あれは僕がどうかしていたんだ…許せなんて言わないよ。斬ってくれたって構わない」
フィル「な…なんだよ急に…さ…」
フ「…許すか許さないかは自由だ。お前の手に持ってるのは飾りじゃないぞ」
フィル「…顔を上げろよ。僕はお前のそんなとこ見たくない」
マイン「…どういうことだい?」
フィル「…

よろしくね、マイン」
マイン「ああ。力になろう」
フ「さて、帰るぞ」
フィル「義兄さん!」
フ「ん?」
フィル「僕達を助けてくれてありがとう!」
フ「…ああ」
今度こそお前を守って見せる。
…なんて、言えるかよ。

マイン「…素朴な疑問なんだが」
フ「なんだ」
マイン「霊夢と君…どちらが強いのかな?」
フ「霊夢だろう」
マイン「即答したね」
フ「俺はあいつには勝てねぇよ」
マイン「ほう…なぜ?」
フ「超えることの出来ない壁だ。上に手は着くがそれ以上は行けない」
マイン「そういうものなのかねぇ」
フ「俺達が本気でやったらそれこそ幻想郷が滅びるぞ?向こうには先代巫女の残存霊力もある」
マイン「…幻想郷には人間の化け物が多いと思わないかい?」
フ「全くだ」

翌日。
力丸「すまねぇ、急に呼び出しちまって」
フ「気にするな。で、問題は

か?」
力丸「その通りだ」
フ「…封印の通りだな」
力丸「だろ?」
フ「まだ何も来てないんだろ?それなら様子見でいいと思うが」
力丸「だから今こうして監視してるんだろ。というか…」
妖夢「…」ペラペラ
妖羅「落ち着かないな…」
妖奈「よねー」
魔理沙「にしてもさみーなここ」
霊夢「仕方ないじゃない。外がアレだし」
力丸「なんでこいつらがいるんだよ!?」
フ「来たいって言うから。仕方なく」
力丸「仕方なく、じゃねぇよ!」
レグルス「ファイナル様。失礼致します」
フ「終わったか?」
レグルス「やはりアレは2代目半竜王の封印と全く同じものです」
フ「極寒の封印…か」
レグルス「敗北の証として捧げられた王とその側近達が今も居るみたいです」
フ「そうか…なら、来るやもしれんな」
レグルス「その可能性が高いかと」
フ「話し合いで済めばいいがな…」

「アルナ様。あれが現代の…

150

程先の竜の国です」
「ほう…あれですか」
「どうされますか」
「明日にでも面会と行きましょうか」
「御意」
レミル周辺に突如現れた氷漬けの旧王都。
周辺の気候は一晩でレミルを銀世界に変えてしまった。

魔理沙「おおーっ!雪なのぜ!」
霊夢「はしゃぎすぎよ…」
イ「幻想郷じゃ降らないんですか?」
霊夢「そんなに降らないわよ」
マイン「おかしくないか」
フ「おかしいな」
普通なら人の体温で溶けるはず。
だがこの雪は溶けるどころかたちまち凍ってしまう。
フ「早めに解決しないと、ここもカチコチになるな」
マイン「だねぇ。止む気配もないしね」
衛兵「司令!」
フ「んあ?」
衛兵「貴方にお客様が」
フ「…城から遠いのにご苦労だな」
衛兵「これも司令のためです」
フ「マイン、行こうぜ」
マイン「分かってるさ」
転移。
衛兵「そこのお部屋です」
ノック。
フ「失礼する」
そこに居たのは2人だった。
眼鏡を掛けた若い男性。
その横に座っている小さな女の子。
マイン「とりあえず座ろうか」
フ「名前を伺いましょう」
男性「私はロウセツと申します」
女の子「私は半竜王、アルナ・ドラゴンです」
フ「私は5代目半竜王、ファイナル・ドラゴン。ファイナルとお呼びください」
マイン「僕はマイン」
ロウセツ「あなたがファイナル様ですか」
フ「あの旧都はあなた達の?」
アルナ「はい。私は150年前、人間との戦争に負けました。その時、私の側近、ロウセツとヘリカトルが人質にされ、「返して欲しいなら貴様の命を捧げろ」、と。結果、ヘリカトルは殺され、私とロウセツは共にあのコピーされた国に封印されてしまいました。今回、何故封印が解けたのかは分かりません。でも…穏便に済ませたいのです。どうか、私達と協力を…」
フ「…分かりました。私達としてもこの異常な降雪は何とかしたいので」
ロウセツ「…ありがとうございます、ファイナル様」

フ「…お前はどう感じた」
マイン「ロウセツって奴に違和感を感じたかな」
フ「俺もだ」
マイン「闇かも、ね」
フ「そうだな…」

霊夢「…ねえ?なんで私達まで駆り出されるのよ」
サ「だって!こんなに広い場所私達だけでできる訳無いんですもん!」
霊夢「…あのねぇ。ちょっとは努力しなさいな」
サ「むぅ…」
ジェイ「口を動かす暇があるなら手を動かしてくれないか…」
サ「手がかじかむんですよ!」
ジェイ「お前だけじゃないんだからよ…」
ジェイの手は赤くなっている。
サ「むむむぅ…!」

マイン「戻ったよ」
力丸「おう、おつかれ」
フ「……ふふ」
力丸「お?どした?」
フ「昔に戻ったみたいな気がしてな」
マイン「ゼロはいくつになってもゼロさ。それは僕達も同じだろ?」
フ「はっ…そうだな」
ソル「ファイナル、済まない。今すぐに来てくれ」
フ「分かりました」
ソル「部屋で待っている」
フ「んじゃ、行ってくるぜ」
マイン「ああ。行ってきなよ」

ソル「すまないな…」
フ「簡潔に終わらせましょう」
ソル「うむ。実はな…」
5分後。
フ「…はぁ。エキドナとの衝突ですか」
ソル「あの国の国王がそんな事をするはずは無いのだが…」
フ「国王が変わったんでしょう。影に」
ソル「うーむ……」
フ「エキドナとはどんな状況ですか?」
ソル「一触即発だ…下手に動けば一瞬で戦争になる」
フ「ふむ…今はそれよりも優先的に解決するべきものがあります…エキドナについてはどうしても後になりがちです」
ソル「…ゼロ部隊には警戒をして欲しい」
フ「分かりました。以前より行っていた見回りを強化しましょう」
ソル「…助かる」
フ「いえ。これも全てこの国の為、あなたの為です」
ソル「…君がいてくれる事、感謝する。今頃私はどうなっていたか…」
フ「キルア様が心配していましたよ。たまには顔を見せてはどうでしょう?」
ソル「…次に来る時に考えておこう」
フ「きっと喜びますよ。では」

フ「…ということがあった。という訳で、見回り警戒を行う」
マイン「エキドナにいた時にずっとやっていたことだね」
ジェイ「そう言うな。確かにそれとほぼ変わりはないが」
フ「2人以上で行動するようにな」
力丸「あいよ」

ロウセツ「うぐっ…そろそろ…限界ですかね…」
落ち着かない足元。
ぐるぐると回る視界。
真っ白の思考。
ロウセツ「せめて…完全に堕ちる前に…うあっ!」
転ぶ。
フ「大丈夫か」
ロウセツ「ふ…ファイナル、様…」
フ「見れば分かる。喋るなよ。少し眠ってろ」
ロウセツ「あ、ありがとう、ございます……」
フ「さて、どこだ…」
アルナ「ロウセツ!ロウセツはどこですか!」
ロウセツにナイフを刺すファイナルの姿が映る。
アルナ「ロウセツッ!」
フ「近づくな!」
アルナ「ロウセツ!離れなさい!」
フ「ち…エンド!」
エ「しょうがないなぁ…よいしょ」
腕を掴む。
エ「ほら、ロッキーさんも持ってよ」
ロ「わーったよ…ったく」
フ「ここか」
影「私は…あの人に幸せを…」
フ「…」
敵意を感じない。
影「頼む…どうか我が身を混沌へ沈めてくれないか…」
フ「…あんたがそれを望むなら」
影「助かる…」

闇へと沈んでいく。
フ「珍しい奴もいるもんだ」
ロウセツ「…う…っぐ…」
フ「終わったぜ」
ロウセツ「そのようですね…」
フ「…いや、まだだったか」
?「あなたも…そうなのね」
ロウセツ「ヘリ…カトル…」
ヘリカトル「ここで死になさい」
フ「おっと。そうはいかないぜ?」
ヘリカトル「無駄な抵抗ね。あなたも蝕んであげましょう…」
ロウセツ「ファイナル様…あれは」
フ「液体生物…だろ?」
ロウセツ「ご存知でしたか…しかしいつ?」
フ「ゼロ部隊ってのはよく資料を見るんだよ。それが機密情報でもな。液体生物についてはエキドナにいた頃…だったかな。人に寄生する液体。簡単にすればこうだったはずだが…違ったか?」
ロウセツ「お見事です」
フ「さて。やるか」
エ「俺もやるよ、兄さん」
フ「お前…アルナは」
エ「そこで寝てる」
フ「仮にも半竜王だぞ…」
ロウセツ「アルナ様についてはお任せを」
ロ「俺たちの誤解も解いといてくれよ」
ロウセツ「はい…何とかしましょう」
ヘリカトル「アル…っ…」
ロ「おおっ!」
ヘリカトル「っ!」
ロ「っち。斬れねぇ」
フ「簡単にはやらせてくれないだろうよ」
エ「でもさ、様子がおかしくない?」
ロ「言われてみれば…確かにそう見えるな」
フ「今のうちに退散しよう」

アルナ「うう…ん…」
ロウセツ「アルナ様」
アルナ「ロウセツ…!無事でしたか…!」
ロウセツ「彼らは私を救ってくれたのです。私の内にあった闇を…」
アルナ「闇…?」
ロウセツ「アルナ様に何一つお伝えしなかった事、お詫びします…」
アルナ「いや…いいの。ごめんね、はやとちりして」
ロウセツ「いえ…悪いのは私です」
半竜王といえど年齢はまだ10歳ほど。
仕方の無いことだ…

フィル「よし!今日は終わりだ!」
ドアを開く。
霊夢「あら。ちょうど用があったのよね」
フィル「ひぃああああ〜〜!!!!」
霊夢「何よ!幽霊でも見た反応して!」
フィル「だってすっごいびっくりしたんだもん…で、用ってなに?」
霊夢「あんたについてよ」
フィル「…へ?俺?」
霊夢「1度死んだのにいまは何も無かったかのように過ごしてる…幻想郷じゃ不思議じゃないけど、一応聞いておきたいのよ」
フィル「ああ。その事ね。確かに俺は1回死んでる。でもその時に魂が分離したんだ。その魂はマインに押さえつけられ、後に俺が願った体を闇が作った」
霊夢「作った…ってことはあんた人形なの?」
フィル「まあ、実質的にはそうなのかな。でも普通の人形とは違うんだ」
霊夢「見ればわかるわよ…ありがとう。今日はもういいわ」
フィル「そう?じゃね〜」

フ「戻ったぞ」
力丸「おう。災難だったな」
フ「全くだ」
霊夢「お疲れ様ってとこね」
フ「なんでお前がここにいるんだよ」
霊夢「ちょっと確かめたいことがあってね?」
力丸「おまっ…マジでやるのか?」
霊夢「当たり前じゃない。どっちが強いのかが手っ取り早く分かるし」
フ「…俺と?お前が?」
霊夢「そうよ。ほら、早く行くわよ」
フ「ちょい…やめっ…離せっ…!」
霊夢「楽しみね〜」
ガチャン
力丸「あ、おい…」
ジェイ「どうせあいつに何言っても無駄なんだ。聞く耳なんて持たねぇよ」
力丸「そら…そうかもだけどよ…」
マイン「面白そうだから見てこようかな」
ジェイ「巻き込まれんなよ〜」
マイン「十分気をつけるさ」

霊夢「さて…始めましょうか」
フ「はぁ…分かってんだろ?俺はお前に勝てねぇって」
霊夢「やってみなきゃわかんないじゃない」
フ「…わかったよ。やるよ…やってやるよ」
霊夢「いいわねぇ。その目よ」
フ「手加減はしないぞ」
マイン「待った。その前に…」
ドーム状に広がる結界。
マイン「これで存分に暴れられるだろう?」
フ「お前な…」
霊夢「さってと…

…始めよ!」
刀を振るう。
霊夢の御幣(ごへい)がそれを受け止める。
切れ込み1つ入らない。
霊夢「甘いわね」
フ「そうとも限らんぞ?」
霊夢「何言って…っ!?」
視界から姿が消える。
霊夢「うしr…」
フ「残念」
霊夢「そんなっ…」
蹴り飛ばす。
フ「とりあえず先手は打ったぜ」
霊夢「なるほどね…やるじゃない」
フ「そりゃどうも」
攻防が始まる。
お互いに攻撃したらやり返される。
下手な一撃は悪手となる。
霊夢「ふっ!」
衝撃でバランスを崩す。
霊夢「せあっ!」
フ「ぐあっ…」
受け身。
霊夢「まだまだ行くわよ!」
真っ向から迎え撃つ。
大気が震える。
霊夢「負けてられないわね」
フ「なーに言ってんだか…」
攻めと攻めのぶつかり合い。
お互いに防御は最小限に抑え、限界まで攻撃に転じる。
霊夢「そこ!」
避ける。
フ「はっ!」
斬りあげる。
ガチン!
止められる。
霊夢「どうしたのよ…遠慮してる?」
フ「…マジで本気でいいのか?」
霊夢「あったり前よ」
フ「…どうなっても知らねぇからな」
言い終えると同時に力任せに振り上げる。
霊夢「っ!?」
瞳に刃が映る。
止めようとする。
遅い。
腕から垂れる血液。
霊夢「…これがあんたの本気なのね」
高速で飛び回るファイナル。
目が合う。
霊夢から感じる力はさっきまでの比じゃない。
マイン「…ついにだねぇ」
武器をぶつけ合えば地面が抉れる。
2人のひとつひとつの行動が確実に結界内を壊していく。
そして決着はすぐに─着く。
ファイナルがバランスを崩した瞬間。
御幣が首元に向けられる。
フ「…参った」
既に結界内は面影残さずに壊れている。
マイン「さて、戻すよ」
指を鳴らす。
割れた地面が元に戻り、倒れた木々は何事も無かったかのように立っている。
霊夢「楽しかったわよ、ありがとね」
フ「そうか。それは何より」
マイン「…信じられないね、君があんなにあっさり負けるなんて」
フ「魔理沙や妖夢には勝てるにしても…霊夢だけはな。壁が高すぎる」
霊夢「案外そうでもないかもよ?私結構焦ってたし」
フ「まだ余裕だろ?」
霊夢「まぁね」
フ「だろうと思ったぜ」

魔理沙「おいおいおいおい……!これはちょっと不味いんじゃないのか…?」
力丸「急げ!少しでも多く溶かせ!」
衛兵「とっ…溶けません!」
力丸「何だと!?」
「おーおー。忙しそうだナ。ん?」
力丸「誰だ!」
「オレか?オレはリオート。あいつらの監視役、そしてあの国を凍らせた張本人、というとこか」
ジェイ「そう言えば…アルナ達は?」
リオート「ン?こいつ達かな?」
力丸「な…」
リオート「我ながらよく出来てると思うぜ。どうだ?」
氷像。
リオート「おっと。動くなよ?」
動いたら壊す。
そう言っている。
このままだと…何も出来ない…
リオート「フフフ…このまま…」
フ「何してるんだ。お前」
リオート「何って…こいつ達おおっ!?」
組み伏せる。
フ「お前、影だろ」
リオート「なんでわかんだよ…!」
フ「なんとなくな。雰囲気でわかる」
リオート「ちいっ…!」
力任せに解く。
リオート「もういい…一旦退いてやる…覚えてろ!」
フ「…さて。お前達はそっち頼むぜ」
力丸「お、おう…」
ファイナルが像に触れる。
すると氷が溶けていく。
フ「よかった…まだ生きてたか」
ロウセツ「申し訳ない…私がいながら…」
フ「気にするな。ゆっくり休め」
ロウセツ「……行きましょう、アルナ様…」

妖夢「う…ん…!」
妖奈「お母さん、いっぱい本読んでるね」
妖羅「これ…どんな本なんだ?」
妖夢「んー?ああ、ファイナルの本棚にあったから適当に読んでるだけだよ。つい没頭しちゃったね」
妖羅「殆どが物語だね…あれ、絵本だ…『わたしをさがして』?」
妖夢「それは…ファイナルが1番気に入ってるやつだね…私にも話してくれたよ」
妖羅「でもこれ…殆ど焼け焦げてるよ」
妖夢「私もびっくりしたよ。文字も読めないんだもん」
試しにページを開いてみる。
妖奈「ホントだ…」
絵はまだ見える。
だが文字だけ綺麗に読めなくなっている。
妖羅「何があったんだろう…」
最後のページには、ただ、『ありがとう、████』と書かれていた。

リオート「来たなァ…待ってたぜ」
フ「人間がここまでの力を持つなんてな」
リオート「はっ。ただ封印してた訳じゃねぇよ」
少なくとも2代目とロウセツを屠れる力。
フ「それでも…俺には遠く及ばないな」
リオート「…アァ?」
フ「弱い、って言ったんだ。分からないか?」
リオート「調子乗りやがって…てめぇも氷漬けにしてやるよ!」
幾分かの時間が経つ。
リオート「ちくしょう…なんでオレが負けるんだ!」
フ「力に任せるだけの戦い方。よくここまで生きてたな」
リオート「てめぇ…」
フ「来るか?相手になるぞ」
リオート「望むところだァ!!
フ「お前じゃ勝てねぇよ」
リオート「オラァ!」
単調な攻撃。
怒りに任せ、ただ単に突き出すだけ。
フ「黒炎!」
リオート「チッ!」
足場の氷を溶かす。
リオート「めんどくせぇことしやがって!」
フ「この国を滅ぼした罪…裁きを受けろ!」
リオート「っ!?」
鎖が手足に絡まる。
リオート(こいつは…初代の…!)
フ「『ジャッジメント』」
リオート「うぐおおおお…っ!」
絡まった鎖が体や腕を締め付ける。
審判の結果は黒。
エルゼ『死を持って償いさない』
リオート「お、のれ…ぇっ…!」
鎖を断ち切る。
リオート「オレは…オレはなあっ!てめぇら半竜が気に入らねぇんだよおっ!」
エルゼ『…』
リオート「ぶっ殺すらァ!!
フ「馬鹿が」
リオート「オレは唯一の良心すら凍らせたんだ…たった1人のためによォ!」
フ「半竜王の名において命ずる…」
リオート「てめぇなんかに分かるかぁ!大切な奴の命がなくなる瞬間が!」
フ「その命を炎に捧げろ」

人の形を微かに残した灰。
風が灰を飛ばす。
氷が溶けていく。

アルナ「…」
フ「…あなたはどうする」
アルナ「ここに残るつもりです」
フ「そうですか。それでは」
アルナ「待ってください!」
フ「…なんです?」
アルナ「…ありがとうございます」
フ「…では」
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