愛し愛されること

文字数 10,594文字

フ「…」
ここは永遠亭。
時刻は午前2時を回った。
出産が始まってまだ30分。
一分一秒がとても長く感じる。
フ「……ん」
スマホが鳴る。
『あ、兄さん?今どこに居るの?』
フ「永遠亭だ」
『え、なんで?』
フ「妖夢が産気づいた」
『…ほんとに?』
フ「ああ」
『そっか…気づかなかったよ。ごめん』
フ「たまたま俺が近くにいて良かったよ」
『じゃ、またね』
フ「ああ。あまり遅くまで起きてるなよ」
『うん。もう寝るよ』
切れる。
フ「はぁ…頑張ってくれよ、妖夢」
ロ「よう」
フ「うん…んん!?」
ロ「驚くなって。幽々子に言われてきたんだよ」
フ「そうですか…」
ロ「今どれぐらい経った?」
フ「まだ30分しか経ってません」
ロ「30分だぁ?マジか…」
フ「まあ、座って下さい」
ロ「にしても…寒いなここ」
フ「毛布要ります?」
ロ「ん?あるのか?」
フ「ここに」
ロ「んじゃ1枚」
フ「どうぞ」
ロ「せんきゅー」
フ「1枚じゃそんなに変わりませんが…ないよりはマシでしょう」
ロ「そうだな…」
フ「幽々子様に言われたって言いましたよね…なんて言われたんです?」
ロ「単にお前の話し相手になって来いってよ」
フ「んな雑な…」
ロ「まあいいじゃねぇか」
フ「そう…ですかね」
ロ「なあ、最近どうだ?」
フ「最近ですか。最近は…」
時間はチクタクと針を進める。
1時間半後。
赤子の産声が上がる。
ロ「お」
フ「よし…」
ロ「ひとまずの山場は越えたな」
フ「そうですね」
ロ「あと一人だったか?」
フ「はい」
ロ「よーしよし…」
フ「というかなんでロッキーさんがそわそわしてるんですか」
ロ「うるせ。俺も昔は家庭を持ってたんだよ。赤ん坊が生まれる時は誰だってこうなるさ」
フ「…それは否定しませんけど」
ロ「だろ?」
フ「待つしか出来ないのがもどかしいですね」
ロ「そうだな…」
3時間が経過しようとたその時。
再び赤子の声が聞こえた。
フ「よかった…ロッキーさん?」
ロ「……やったな!」
フ「うお…」
ロ「ハッハ!」
フ「…うん。良かった。本当に…!」

永琳「見るかしら?」
フ「是非」
妖夢「あ…ファイナル…」
フ「お疲れ様。よく頑張ったな」
妖夢「うん…元気に生まれてきてくれたよ…」
小さな手が指を掴む。
ロ「名前は決めてるのか?」
フ「決めてます」
ロ「ほう?どんなだ」
フ「姓は魂魄。名は妖羅(ようら)妖奈(ような)
ロ「…ほう。お前の名前は使わないんだな」
フ「…この名前にロクな運命が回ってくるもんですか。俺と同じような道を辿るなら…俺の名前は使いません」
ロ「まあ、いい名前だと思うぜ。後は何事もなく育ってくれるだけだな」
フ「そうですね。何事もなく…」
ロ「俺は行くぜ。じゃあな」
残されたのは2人と兄妹だけだ。
妖夢「ねえ、顔見せてよ」
フ「ん?ほら」
妖夢「…かわいい」
フ「ああ。本当に」
この時、あんな事が起きるなんてことは思いもしなかった。
あんな最悪な事になるとは…

母子共に無事に退院したその翌週。
最悪な事はこの日の夜だった。
エ「兄さん」
フ「うん。行こう」
部屋を移動する。
妖夢「まだ居る?」
フ「白玉楼の周囲だ。囲まれてるな」
イ「狙いは…絶対この子達だよね」
フ「だろうな」
エ「外で何人かが見回りしてるけど…まずいかもしれない」

キ「…」
眼前には影。
キ(あれから猛特訓したんです…竜の力だって使いこなしてみせます…!)
レグルス「無理はなさらずに」
キ「れ…レグルスさん?」
レグルス「これも貴方とファイナル様のため。…行きますよ」
キ「…はい!」

ロ「お、居るな」
レイル「私達だけでやれますか?」
ロ「行ける行ける。余裕だ」
レイル「ほ…本当にそうですか?」
ロ「レイル」
レイル「は、はい?」
ロ「強くなりたいなら意志を持て。覚悟を決めろ。戦いでは一瞬の迷いが命を落とす原因になる」
サ「そうですよ〜レイルさん。ほら、リラックスリラックス」
レイル「サクラさん…」
サ「それに。レイルさん一人で戦ってるんじゃないですよ。どこに居ても、私達の心はひとつです」
ロ「珍しくいいこと言うじゃねぇか」
サ「ちょ…酷いですね!」
ロ「喋ってるとやられんぞ?」
サ「え?うわ!?もう来てる!?」

イ「…来る!」
フ「指一本触れさせるか!」
エ「出ていけぇ!」
フ「こいつら…!」
妖夢「みなさん!」
イ「後ろからも…」
5分後。
フ「終わった…のか?」
イ「あ…あ…嘘…」
フ「どうし…た…」
エ「馬鹿な!ここには誰一人入れてないぞ!?」
フ「…エンド、行くぞ」
エ「…検討は?」
フ「大体。最悪妖羅と妖奈の魔力さえ掴めれば良い」
エ「分かった。早く行こう」

夜の道を走る。
少しだけ感じる魔力の糸を手繰り寄せるように。
エ「兄さん!前!」
フ「失せろぉっ!!」
途切れそうな糸を引く。
距離は縮まっている。
あの二人はまだ子供だ。
魔力もそんなに多くない。
となると…
フ「そこか!」
前に向かって銃を撃つ。
フ「ビンゴ」
2人。
エ「姿を消して逃げるとか…面倒だね。でも、俺達なら関係ない!」
影「クヒャヒャ…」
フ「人みたいだが…あれは違うな」
エ「話は通じなさそうだね」
フ「なら存分に斬れる」
エ「頼むから2人まで斬らないでね?」
フ「誰が斬るか」
エ「冗談だって」
影とファイナル、エンドが正面からぶつかり合う。
…と言っても決着はすぐだった。
影「アア…ァ」
フ「…良し。無事だな」
エ「こっちも無事だよ。危うく首が折れるとこだったけど」
フ「気をつけろよ…まだ座ってないんだから」
エ「へへ…ごめん」

フ「戻ったぞ」
妖夢「良かった…」
フ「妖夢。話がある」
妖夢「…うん」
フ「向こうで紫と幽々子様が待ってる。イゼ、この子を頼む」
イ「分かった…よーしよし、いい子いい子…」

紫「…来たわね」
妖夢「…」
幽々子「妖夢…」
紫「あの子供たちの事だけど。ここままじゃいつか攫われるのがオチよ。そこでだけど…影から隠す為にあの子達を別の次元へと預ける事を進めるわ」
フ「だけどそこは幻想郷とは流れる時間が違う」
紫「そう。大体で言うとここでの1週間が向こうでの1年ね」
幽々子「とんでもなく早いわね…」
紫「仕方ないのよ。他のところは影の手が入ってるから」
妖夢「…」
フ「妖夢。どうする」
妖夢「私は…」
あの子達を危険な目に合わせたくない。
だから、せめて自分で自分を守れるくらいには成長して貰いたい。
だけど…その間は中々会えなくなる。
妖夢「私は…預けるよ」
フ「…よく決めた」
幽々子「良いのね?」
妖夢「はい…」
紫「決まりね。じゃあまた明日、9時頃にここで」

翌日
フ「…」
紫「お別れは済んだ?」
妖夢「また会いに行きますから」
紫「そうね。1週間毎に来てあげる」
妖夢「ありがとうございます…」
紫「この子達の世話は向こうでやってくれる人がいる。会いに行きましょ」

「お待ちしておりました、紫さん」
紫「まだ幼いけど…お願いできる?」
「お任せを。何とかしてみせましょう」
フ「…お願いします」
見た目は若年の夫婦だ。
「名前を聞いてもいいですか?」
妖夢「妖奈と妖羅です」
「分かりました。この子達は責任をもって預からせてもらいます」
妖夢「あの…名前を聞いてもいいですか?」
ジン「これは失礼しました…僕はジンと申します」
メイ「私はメイです」
妖夢「ジンさん、メイさん。どうか…よろしくお願いします…」
メイ「はい。任せてください」
この場所は秘境(ひきょう)と呼ばれる場所だ。外部から侵入される心配はない。
だが、時間の流れが大きく違い、数年単位で動く秘境もある。
その日からは1週間毎に秘境へ顔を出して行った。
見に行く事に変わりゆく我が子を見つめて思う。
この成長をすぐ側で見てやりたかった。と。
あっという間に15年という月日が流れてしまった。
「もういいでしょう。この子達もこんなに大きくなりましたし」
フ「…ですね」
「そばにいられなかった分、とことん愛してあげてください」
フ「そのつもりです。これからは家族で…過ごせるんです」
「嬉しいですね…おや?」
フ「どうか?」
「あれは…なんでしょう?」
それを見て目を見開く。
フ「なぜ…何故だ!?」
エ「に、兄さん!?」
「…ファイナルさん?」
フ「今すぐ逃げて!早く!」
「わ、分かりました!さ、行こう」
エ「…あれ、影だよね」
フ「ああ…」
妖夢「ごめん、遅れちゃった…」
フ「まだ始まってない。これからだ」
影「ハッハッハ!ついに見つけたぜぇ?逃がさねぇぞ!いけぇ!」
フ「命知らず共が」
エ「呆れるね…」
妖夢「油断しないでね」
フ「…500?」
エ「そんなに居る?」
フ「兵士の量産なら向こうに分がある。だけどな…兵士の質なら圧倒的にこっちが勝ってる」
妖夢「来るよ!」
フ「死ぬなよ」
エ「もちろんさ」
「ハッハー!ショーの始まりだぜぇ〜!!
フ「うるせぇな…」
「オラオラァ!どけぇ!」
フ「…戦うのが馬鹿らしく思えてきた」
「殺すぞ!?」
フ「ほれ」
蹴る。
「あがぁ!?」
フ「…お前何しに来たんだ」
「う、うるせぇ!お前ら!殺っちまえ!」
フ「数だけは一流だよな、お前ら」
斬りかかる前に影は粉微塵になる。
「はぁ!?」
フ「どうする」
「この…!」
フ「おっと」
「死ねぇっ!」
フ「ふっ!」
「おぐっ!」
フ「そら!」
「ああっ!」
フ「ほら、早く失せろ。気が変わらん内に」
「お…覚えてろ!」
フ「さて…遊びもここまでにしよう」
斬って斬って斬りまくる。
服が赤くなろうが関係ない。
フ「次は誰が死にたいんだ?」
刃を滴る血。
あの目で見つめられると本能が逃げようとする。
フ「…誰でもいい。かかって来い」
「う…うらああああ!」
すぐに鮮血が飛ぶ。
フ「…逃げも戦いもしないか。臆病者」
「ぐ…」
フ「待つのも終わりだ。こっちから行くぞ」
1分もしない内に壊滅。
フ「妖羅…妖奈…待ってろ…!」
走り出す。

「妖羅…やめろ…」
妖羅「このまま黙って見てられるか…!」
影「死ね!」
「危ないっ!」
「あなた!」
妖羅「…嘘だろ?」
「だい…じょうぶ、か?」
妖羅「そんな…俺を庇って…なんで…」
「血は繋がってなくても…俺はお前の親だ…15年もそばにいたんだ…これくらいしてやらないと、な…!」
妖羅「やめてくれ…それ以上…」
「…沢山、愛されろよ。本当の親に… 」
妖羅「……くそ…俺のために…」
妖奈「お兄ちゃん…」
妖羅「妖奈、行くぞ」
妖奈「で、でも…」
「…行きなさい。ここももうすぐバレる。あの人がそうしたように…私も体を張ってみるわ」
妖奈「お母さん…」
「このまま真っ直ぐ行きなさい。そこにお父さんとお母さんが居る」
妖奈「お母さん…!」
「こら、泣かないの。私達からあげられる愛情はこれで終わり。でもあなた達にはもっと愛情をくれる人がいる。さあ、走りなさい。後ろを振り返らず、ひたすら真っ直ぐ。走るのよ?いい?」
妖奈「うん…」
妖羅「妖奈!早く!」
「…愛情なんて、本当は誰からでも貰える。でも、親の愛なんて言うものは、本当の親からしか貰えない」

妖奈「……」
妖羅「走れ!」
妖奈「前!前に!」
妖羅「な…」
「見つけたぞ…」
妖羅「く、くそ…」
剣は教えて貰ってる。
妖奈「お兄ちゃん!?戦うなんて無茶だよ!」
妖羅「死にたいのか!?」
妖奈「う…」
妖羅「戦うしかないんだよ…俺達だけで…」
妖奈「うう…」
「ガキが…2人で何ができるってんだ」
妖羅「はああ!」
振り下ろす。
「ん〜?痛くも痒くもないなぁ?」
妖羅「バカな…うっ!?」
「どうやって殺して欲しいか言ってみろ。おん?」
妖奈「こんのおっ!」
後ろから斬りかかる。
「邪魔だ」
妖奈「ああああっ!?」
妖羅「妖奈!」
「自分の心配をしたらどうだ?」
妖羅「ち…!」
ここまで、なのか?
父さんにも、母さんにも会えずに…
ここで死ぬのか?
俺は──
「死ね!」
フ「させるかああっ!」
「何っ!?」
フ「うおらぁ!」
ガードした腕ごと斬り落とす。
「うおおおおっ!」
フ「大丈夫か?」
妖羅「父さん!危ない!」
「潰れろおおっ!」
フ「邪魔だ」
巨体が真っ二つになる。
妖羅「……」
その光景に唖然とする。
目標とする背中は上が見えない壁だった。
フ「立てるか?」
妖羅「ああ、うん」
フ「妖奈は何処だ?」
妖羅「確か向こうに…妖奈!」
妖奈「ここ…だよ〜…」
フ「ほら、そこで寝てると風邪引くぞ」
妖奈「ん〜…ん!?お父さん!?」
フ「そんなにびっくりすることは無いだろ…」
妖奈「あ…」
フ「あ?」
妖奈「会いたかったよ〜〜!!
抱き締められる。
妖羅「妖奈!?」
フ「ちょ…おま!あ、ああ、うあああ!?」
盛大に転ぶ。
それでも妖奈は離さない。
フ「わかっ…分かったから!一旦離せ!」
妖奈「あっごめ…」
フ「はぁ…先が思いやられる…妖羅、来い」
妖羅「うん」
2人まとめて抱きしめる。
フ「これからは一生に暮らせるんだ。これ以上の幸せは無い」
妖羅「父さん…」
フ「甘えていいんだぞ?」
妖奈「本当に?」
フ「当たり前だろ」
妖奈「じゃあずっと一緒に居てくれる?」
フ「もちろんだ」
妖羅「…父さん」
フ「ん?」
妖羅「俺に…俺達に戦い方を…」
フ「そうか。教えてやる。付いてこいよ?」
妖羅「…うん!」

フ「ただいま」
妖夢「おかえり。妖奈、妖羅。ちょっと来て」
フ「ほら、行きな」
数分後。
妖夢「ねぇファイナル、見て見て!」
フ「お?」
妖羅「すっげぇ動きやすい」
妖奈「か…かわいい…」
フ「…妖夢1人で?」
妖夢「うんっ。つい…ね」
フ「似合ってるじゃないか」
妖羅「そ、そうかな?あんまりこういうのって着なかったから…」
エ「おかえり兄さん…って妖羅達も来てたのね」
妖羅「エンドさん…お久しぶりです」
エ「久しぶり。元気だった?」
妖羅「はい。特に病気とかもなく」
エ「そりゃあよかった」
フ「妖羅、向こうで待ってるからな」
妖羅「うん。すぐ行くよ」
エ「全力で行きなよ。待ってくれると思うけど…置いてかれないようにね」
妖羅「頑張ります。妖奈、行こうぜ」
妖奈「うん。頑張ろうね」

妖羅「…」
フ「取れ!」
木刀を二本、投げる。
妖羅「っと」
妖奈「あぶ…」
フ「俺は1回しか攻撃しない。一撃、当ててみろ」
妖羅「俺が先にやる」
妖奈「頑張って」
構える。
フ「来い」
妖羅「はあっ!」
攻撃を仕掛ける。
当たる感触はない。
木がぶつかる音が聞こえる。
フ「ふっ!」
妖羅「うわっ」
足元を掬われる。
フ「まだまだだな。でも基礎は出来てる」
妖羅「…ありがとう」
フ「妖奈!お前もやるか?」
妖奈「うん!」
フ「ちょっと休憩してろ」
妖羅「そうする…」
間髪入れずに妖奈の攻撃が始まった。
2人の実力はほぼ同じ。
妖奈「えいっ!」
横に振り払う。
フ「残念」
後ろに。
妖奈「うむぅ。やっぱり強いなぁ」
フ「よくやった方だ」
妖奈「そうかなぁ…」
フ「そう落ち込むな。俺だって最初は何も出来なかったんだから」
霊夢「ちょっと失礼するわよ」
フ「久しぶりだな?どうした?」
霊夢「ちょっと厄介な奴が目覚めようでね。手伝って欲しいのよ」
妖奈「…あ!霊夢さんだ!」
霊夢「あら。すっかり大きくなっちゃって。何年ぶりかしら?」
妖奈「えっと…覚えてない!」
霊夢「ふふ。可愛いわね」
フ「それで?目覚めそうな奴ってのは?」
霊夢「白夜(びゃくや)。一日中日が落ちないようにする能力を持ってる」
フ「ほう。そんな奴も居るのか」
霊夢「とりあえず来て欲しいわ」
フ「分かった。行こう」
妖羅「ま、待ってくれよ」
霊夢「どうしたの?」
妖羅「お…俺達も行っちゃダメ…か?」
霊夢「…まあ、良いんじゃない?」
フ「気をつけろよ」
妖羅「…うん」
フ「人は俺達4人だけか?」
霊夢「いえ。魔理沙がいる」
フ「となると5人か」
霊夢「十分過ぎると思うけどね…」
フ「まぁいい。行くぞ」

魔理沙「よう。間に合ったか」
霊夢「今にも封印が解けそうね」
フ「来るぜ…!」
白夜が鳴く。
人々の記憶は塗り替えられる。
『太陽は沈まない』と。
フ「早いとこ封印するぞ」
霊夢「そうね」
周りには何も無く、ただ封印石がぽつりと置かれた森。
魔理沙「行くぜ!」
霊夢「馬鹿ね…こんなとこじゃ弾幕なんて…」
魔理沙「おりゃあ!」
フ「…無茶なことしやがって」
箒に乗りながら拳や蹴りで戦っている。
霊夢「援護するわよ」
フ「了解」
地面を蹴る。
木々を掻き分け、白夜を捉える。
『…!!
閃光。
フ「ぐ…」
魔理沙「おいファイナル!後ろだ!」
フ「なんだt…」
地面に落ちる。
フ「あいつ…自分に攻撃するやつに向かって

戦ってるのか…」
妖奈「大丈夫!?」
フ「心配するな」
霊夢「喰らいなさい!」
フ「合わせるか」
霊夢が居る上方向に攻撃してる…
フ「今なら!」
切り裂く。
!?!?!?
霊夢「なるほどね…」
太い大根のような腕が伸びてくる。
妖羅「そいや!」
!?
魔理沙「喰らえ! 恋符「マスタースパーク」!!
『!!』
魔理沙「ええっ!?おわあっ!!」
フ「弾幕に関しては完全に無効化かよ…」
魔理沙「ったく…危ねぇなぁ…」
妖奈「えい!」
妖羅「そこだ!」
『!?…!!』
霊夢「もう一撃!……っ!?」
動きが早くなった。
魔理沙「なんだアイツ…」
木々にぶつかり、速度が上がる。
フ「こいつ…こんのっ!」
『!?』
フ「周りが見えてない…という事は」
もう一度突撃してくる。
フ「強化結界!」
『!!』
ドリルのような形になる。
フ「叩き込め!」
霊符 「夢想封印」
恋符「マスタースパーク」
『くぁw背drftgyふじこlp;@:「」』
フ「ぐ…」
『……』

霊夢「ふぅ…何とか封印出来たわね」
魔理沙「太陽も元の位置に戻ったな!これで一件落着だぜ!」
フ「…果たしてそうかな」
妖羅「どういう事?」
フ「日が落ちたら博麗神社に集合だ。このメンバーでな」
霊夢「…何となく察したわ。また後で」
魔理沙「あ、おい待てよ!教えてくれたっていいじゃねぇか!」
フ「俺たちも行くぞ」
妖奈「お父さん?何があったの?」
フ「今は少しでも体を休めろ」

日が沈む。
静寂の夜が訪れる。
博麗神社も闇に包まれる。
かろうじて顔が認識できる程暗い。
魔理沙「移動しなくていいのか?」
霊夢「時期に来るわよ」
フ「今に来る。もうすぐそこまで来てる。感じるだろ?博麗神社の長い階段を上る寒気を」
妖羅「…確かに感じる」
妖奈「体が…震えるよ」
霊夢「油断するんじゃないわよ。あいつは白夜よりも確実に強い」
フ「ああ。下手をすれば命を持っていかれる」
ついにそれは姿を現した。
球体。
足や手は無い。
それはファイナル達を見つめる。
視線が光る。
フ「やっぱりな。白夜の封印が解けるならこいつもな」
霊夢「『極夜(きょくや)』…私達だけで封印できる?」
フ「やってみないと、な。そればっかりは分からない」
夜は深く、深淵に。
月は高く、闇を照らす。
満月の瞳が彼等を見つめる。
黒い球体は眼球。
光る瞳は月。
その名は極夜。
霊夢「行くわよ!」
正面、左右へ別れる。
フ「はあ!」
傷は付かない。
だが怯んではいる。
霊夢「これならいける…」
月の瞳が形を変える。
三日月。
球体が震える。
フ「っ!」
皮膚を切り裂かれる。
鋭い痛みが走る。
フ「月の形がその攻撃範囲…ってか?」
妖羅「…」
霊夢「魔理沙!」
魔理沙「ああ!」
真ん中に穴が空いた月。
霊夢「がふっ…」
魔理沙「んなあっ…!」
満月。
フ「…狙いは俺か?」
目を見開く。
それと同時に腹部に強烈な衝撃が来る。
フ「がごふっ!?」
妖奈「せあっ!」
妖羅「うおお!」
突き刺す。
球体は消え失せる。
妖羅「や、やった…のか?」
フ「けほ…よ、妖羅!今すぐ…離れろ!」
妖羅「え…?」
妖奈「お兄ちゃん!」
妖羅「うわっ…!」
何かに飛ばされる。
妖奈はファイナルの方へ飛ばされる。
妖奈「きゃっ!」
魔理沙「あ、ありゃあ…うさぎか?」
霊夢「私達がよく知ってる月兎…とはいかないわね」
赤い、細い目。
規格外の大きさ。
後はよく知る兎だ。
霊夢「これが…極夜…」
魔理沙「…やるぞ、霊夢」
霊夢「…もちろん。負けないわよ」
妖羅「ちくしょう…黙って見てられるか!」
フ「だい…じょうぶ、か?」
妖奈「お、お父さん!」
フ「行ける、な?」
妖奈「…うん」
フ「ならじゅうぶんだ。いくぞ」
魔理沙「くらえ!」
ひたすら弾幕を放つ。
多少は聞いている。
だが…それまでだ。
魔理沙「くそっ…あんまりやりたくたいけど…やるしかないか…!」
ミニ八卦炉から握り手と刃が飛び出る。
刃は魔理沙自身の魔力で作られたものだ。
魔理沙「スパークソード…なんてな」
箒が加速する。
魔理沙「斬ってやるぜ!」
斬った。
あの兎に傷をつけた。
魔理沙「このまま…うわあああっ!」
殴り飛ばされた。
霊夢「ま、魔理沙ーっ!」
フ「仕返しだ」
振り下ろす。
致命傷とはならない。
妖羅「これはどうだ!」
首元に刀を差し込む。
その瞬間兎が大暴れする。
フ「でかしたぞ…!」
妖羅「絶対落とされないからな…!」
フ「…行くぞ。斬り刻んでやる」
兎に向かって飛ぶ。
刀を構え…
斬る。
すぐさま空気を結晶に変え、蹴る。
それを素早く繰り返す。
それでも兎は倒れない。
『マスター…』
フ「…妖羅!離れろ!」
妖羅「分かった!」
『スパァーク!!!』
フ「霊夢!封印の用意!」
霊夢「もうしてる!」
兎が小さくなる。
フ「今だ!」
封印。
霊夢「や…やった…!」
魔理沙「よっ…しゃあ…!」
フ「倒れるのは早いぞ」
魔理沙「へっ。これくらいでへばるかよ」
フ「よくやった。よく休めよ」
魔理沙「あーあ。帰ったらしばらく寝ようかな」
フ「そうしろ」
妖羅「勝った…」
妖奈「やったね!お兄ちゃん!」
霊夢「流石、あいつの子供ね。それなりの素質はあるじゃない」
妖羅「でも…父さんには遠く及ばない」
霊夢「そうとも限らないわよ?」
妖羅「え?」
霊夢「今のあんたなら食いついていけるわよ。秘められた力はエンドに匹敵すると思うわ」
妖羅「エンドさんに…?」
霊夢「妖奈、あんたもよ」
妖奈「私も?」
霊夢「これからが楽しみね」
そう言って神社の奥の方へと歩いて行った。

妖羅「疲れた…」
妖奈「ゆっくり休もうよ…」
2人の部屋。
妖羅「明日は何もしたくないな…」
妖奈「そうだね…ふわあ…」
妖羅「寝るか」
妖奈「うん」

妖夢「まだ起きてる?」
フ「入って来い」
妖夢「何してるの?」
フ「刀を作ってる」
鍛治とは全く違う技術。
フ「あいつらのな」
妖夢「これ…岩?」
フ「鉄。魔力を秘めた鉄。俺達は真鉄鋼(まてっこう)なんて言ってる」
妖夢「真鉄鋼…」
フ「そろそろいいかな」
片方を持つ。
フ「よしよし、出来てる」
妖夢「でもこのままだと邪魔になるよ?」
フ「まぁ見てろって」
手をかざす。
真鉄鋼が淡く反応する。
その場所からボロボロと邪魔な部分が剥がれ落ち…ない?
破片は空に浮く。
それはファイナルの手のひらへ。
握りしめる。
もっと強く。
フ「これでよし、と」
魔鉄鋼は跡形も残らず消えた。
もう片方も同じように。
フ「出来た」
2本の刀。
フ「『心刀 鏡月(しんとう きょうげつ)』と、『心刀 蒼竜(しんとう そうりゅう)』」
妖夢「…鏡月と…蒼竜…」
フ「…本当は心刀や鏡刀が感情を読み取るなんてことは無い。誰かがでっち上げた話を勝手に信じ込んでるだけだ。使い方を覚え、本当に心が刀と通じあっているのなら、どんなものでも斬れる。刀を信じ、

。その関係はどんな刃物でも切れない」
妖夢「え…あれ嘘なの?」
フ「真っ赤な嘘だ」
妖夢「じゃあ…その名前は」
フ「ただの形に過ぎない。だがな」
ファイナルの目が妖夢を見据える。
フ「刀には想いが宿っている。感情云々が嘘だとしても…信頼し合える関係になれば無限の強さになる」
妖夢「信頼…」
ふと自分の刀の事を思う。
フ「心配しなくてもいい。あの2本は妖夢を信頼しているさ」
妖夢「なんでわかったの…?」
フ「何となく」

朝。
フ「さて…こいつらが日の目を浴びる時だ」
妖奈「おはよ…おとーさん…」
フ「やけに起きるのが早いな」
妖奈「うん…なんだか寝付けなくて」
フ「それは仕方ないだろうな」
妖奈「…ちょっと目を覚ましてくる」
フ「行ってこい」
妖羅「父さん」
フ「おはよう。眠れたか?」
妖羅「うん」
フ「ちょっと渡したいものがある。妖奈が来るまで待ってろ」
妖羅「うん?」
妖奈「っはぁ!」
フ「今の時期は冷たいからな、水」
妖奈「おまたせ」
フ「入れ」
2人を座らせ、奥に向かう。
フ「…さあ。これだ」
妖羅「これは…刀?」
妖奈「私たちに?」
フ「妖羅。お前の刀の銘は「蒼竜」だ」
妖羅「…蒼竜。これが…俺の刀」
フ「妖奈の刀の銘は「鏡月」。大切にしてくれよ」
妖奈「うん!もちろんだよ!」

フ「そろそろ来るだろ。影」
マイン「動きは活発になりつつある。明日には来ると思うよ」
フ「…バレるなよ」
マイン「それはもうバレてる。いつか殺されてもおかしくない」
フ「…ほう。それでもお前は影に留まるのか?」
マイン「抜けてやるさ」
フ「そうか。お互い、無事でな」

続く
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