黒く、そして深く

文字数 5,461文字

マイン「が…あっ…う…うあ……」
ゼン「ミレイユ。彼は?」
ミレイユ「見つかりませんでした」
ゼン「そうでしたか。ご存知ありませんか?」
マイン「し…知るか…がああああっ!?」
ゼン「このまま喉を潰してもいいのですよ?」
マイン「…知ってても教えるもんか…誰が…お前なんかに…っ」
視界が曇る。
ゼン「…ふむ。本当に知らないようですね」
マイン「っっ…はあっ……はあっ…」
ゼン「ここで沈んでもらいましょうか」
マイン「…っ」
闇がマインを覆う。
冷たい闇。
一筋の光すら見えることは無い。
少しずつ蝕まれていく精神と体。
マイン(あとは任せたよ…ファイナル。僕はここで脱落みたいだ…)

ゼン「さて…次は…おや?」
エ「さて…今日はどこに行こうかなっと…」
ゼン「失礼。私はゼンと申す者です。失礼ですがお名前を聞かせては貰えませんか?」
エ「エンドですが…なにか?」
ゼン「道をお教えくださいませんか?」
エ「はい…どこへ行かれます?」
ゼン「ここに行きたいのですが…」
エ「ああ、それならここの道を真っ直ぐ行けば行けますよ」
ゼン「そうでしたか!ありがとうございます」
エ「いえいえ」
ゼン「では私は先を急ぐので…」
エ「はい。また……」
どうも怪しい。
エ「ちょっと知らせてくるか…『転移』」

フ「…今日もやることがないな」
妖夢「いいんじゃないの?これが平和でしょ?」
2人の視線の先には熱心に剣を振るう妖羅と妖奈の姿があった。
フ「そうかもしれんがな…」
エ「兄さん」
フ「どうした?何かあったか?」
エ「ゼンってやつがもうすぐここに来る。…多分とてつもなく強いよ」
フ「…そうか。助かった」
エ「一応ここにいるけど…誰か呼んでこようか?」
フ「エンド。無駄に犠牲を増やすな」
エ「まさか1人で?無茶な!」
フ「お前は何も知らないのに全力をぶつけるのか?」
エ「う…」
フ「そら…来たぜ」
ゼン「おや?あなたは先ほどの…」
エ「…」
冷や汗が流れる。
口調は優しい。
だがその(仮面)の下には刃が仕込まれている気がする。
フ「ここに何の用だ」
ゼン「少し…挨拶に」
フ「挨拶だと?」
ゼン「はい。私…『闇』を知る者、ゼンと申します」
フ「ご丁寧に。ファイナルだ。もう一度聞く。何しに来た」
ゼン「単刀直入に申し上げますと…消えて欲しいのです」
フ「断る」
ゼン「仕方ありませんね…実力行使しかありませんか」
突き刺さるような殺気。
仮面を外した。
エ「これは…」
フ「…」
エ「くそ…やるしかないか…!」
妖夢「待って!もう少し様子を…」
妖羅「…母さん。そんな時間はないよ…」
妖奈「少しでも気を抜いたら圧倒される…」
エ「うおお!」
ゼン「無謀な…」
ゼンが手を前に。
ゼン「はあっ…!」
エ「っ!?」
吹き飛ぶ。
エ「な…なんだ今の…」
ゼン「『闇水(やみみず)』…黒い物の中に入れると視認出来なくなる水…不思議でしょう?」
エ「水…」
服が濡れている。
エ「…まさかこの空間」
ゼン「そうですよ。もう闇に包まれています。そしてこんなことも…」
妖羅「…?」
妖夢「雨?でもこんな所に雨なんて…」
フ「これもあの水だろ」
ゼン「ご名答」
フ「そしてその水は視認出来ない…だからこの空に何か仕掛けてもバレない…と」
ゼン「流石ですね」
エ「そんな馬鹿なこと…」
ファイナルが頭上を払う。
巨大な氷塊が砕ける。
ゼン「ほう…まさか見つかるとは」
フ「闇は冷たい。水を冷やして氷にすることも出来る。そしてあんたはその氷も操ることが出来る。なら何故最初から氷を作らなかったか…それはその内

からだろ?」
ゼン「あなたは何者ですかね。私の考えが筒抜けではありませんか」
エ「雨が凍る?それってつまり…(ひょう)?」
フ「そうだ」
ゼン「ならこうしている暇は無いのでは?ですがあなた達は雨が弱点でしたよね?」
フ「まぁそうだな」
ゼン「…?」
フ「この程度…慣れればすぐだ」
視界からファイナルが消える。
フ「お引き取り願おう」
ゼン「!?」
ミレイユ「その手を…!」
エ「邪魔するな」
ゼン「その刀…そうでしたか。偽神刀は…天照はそこにありましたか」
振り向きざまに振りかぶる。
刃はファイナルの顔を掠める。
傷はすぐに塞がる。
ゼン「あなたなら知っているはずですよ。この刀を」
フ「『神刀天照』。俺が持っていた偽神刀はソレから作られた紛い物」
ゼン「よくご存知で」
フ「穢れてるな。すっかり闇に染まってる」
ゼン「とある人から貰い受けましてね」
フ「セリカ・ドラゴン」
ゼン「その通り。あなたのお母様ですね」
フ「それくらい知ってるさ。お前が(反乱軍)を使ってレミルを襲った事も」
ゼン「ふふ…そこまで知っているのですか」
フ「お前を倒す。そしてその刀を返してもらう」
ゼン「出来ますかね?あなたに」
フ「やってみせる」
ゼン「面白い。実に面白い!ミレイユ。行きますよ」
ミレイユ「はい。お父様」
ゼン「また、会いましょう。その時は全力で─潰します」
ゼンが消える。
同時に白玉楼を覆っていた闇が晴れる。
エ「兄さん…」
フ「立てるか?」
エ「ああ…なんとか」
妖奈「お父さん」
フ「怪我は?」
妖奈「ううん。誰もしてないよ」
白玉楼の中に目をやる。
異変を感じで待機していた他の皆がいた。
ロ「…こっちも大丈夫だ」
フ「ゼンの狙いは幻想郷だ。ここを闇に染め、自分のいいようにするんだろう」
エ「影もいるし…どうするのさ」
フ「何言ってる。あいつと影は敵同士だ。一方的にあいつが利用してるだけ」
エ「え…でもさっき」
フ「確かにあの時は協力していた。ただそれだけだ。目的のためなら影もあいつを捨てる」
エ「そうだったのか…」
フ「気をつけろよ。お前も命を握られてるんだ。それどころか幻想郷の住人の命すらも握っている。今の幻想郷はあいつの手のひらの上だ」
妖夢「ちょっと…それじゃ…」
フ「いつ、どこで、誰が狙われるか。捕まったら最後、駒にされるか、殺されるかだ」
妖奈「……」
妖羅「駒…か」
フ「今夜からは震えて眠ることになりそうだな」
エ「なんでそんなに客観的に捉えてるのさ…」

マイン「…どうする気だい?僕を駒にするか?」
ゼン「そんなことはしませんよ」
マイン「覚えてろよ…いつか必ず…」
ゼン「そういうのはもう少し力をつけてから言うものですよ」

夜が来た。
妖奈「もう帰ろ?お兄ちゃん」
妖羅「んあ?うわっ、もうこんな時間か」
翼がはためく音が聞こえる。
妖羅「ん?」
ミレイユ「…見つけた」
妖羅「こいつ…今朝の」
ミレイユ「お父様の邪魔をする奴らは…消す」
妖奈「やるしかないよ、お兄ちゃん」
妖羅「ああ。行くぞ妖奈」
ミレイユ「無駄…わかってるんでしょ?」
妖羅「おりゃあ!」
雨が降る。
妖羅「また雨…そこか!」
ミレイユ「甘い」
妖奈「捉えたっ!」
ミレイユ「っ!」
空へと羽ばたく。
ミレイユ「……」
妖奈「…」
妖羅「何をする気だ…?」
ミレイユ「すーっ……」
息を吐く。
それは炎となって妖羅達に襲いかかる。
妖奈「っとっと…」
ミレイユ「今度はこっちの番」
妖奈「!?」
抱きしめられる。
暖かく、冷たい不死鳥の翼に。
妖羅「妖奈!」
妖奈「…はっ」
ミレイユ「チッ」
妖羅「…」
ミレイユ「これはどう?」
炎の檻。
ミレイユ「ふふっ。これでおしまいかな?すーーっ………」
さっきよりも勢いよく吐き出す。
妖羅「逃げられな…」
妖奈「『強化結界』!」
妖羅「妖奈…」
妖奈「ほら…お兄ちゃんも…!」
妖羅「…『強化結界』!」
結界はすぐに溶け始める。
妖羅「妖奈、ちょっと頼むよ…」
妖奈「うん…」
妖羅「これに掛ける…『クロスバースト』!!
檻を砕き、豪炎を貫く。
ミレイユ「そんな!?」
妖羅「…ははっ。どうだ…!」
ミレイユ「…一旦退く」
妖羅「…甘く見すぎだぜ…!」
妖奈「お兄ちゃん…早く行こう…また来るかもしれない」
妖羅「…そうだね」

ゼン「…まさか負けるとは」
ミレイユ「お父様…ごめんなさい」
ゼン「謝らなくても良いのです。あなたが無事なら…あなたはリトが遺したただひとつの宝物ですから」
ミレイユ「…」
ゼン「お礼はしてあげますよ。沢山、ね…」

レミル
ゼン、襲来。
力丸「ファイナル!早く!」
フ「分かってる!」
ジェイ「これ以上は…退け!退くんだ!」
爆発が起こる。
『うわあああああっっっ!!!』
チノーテ「く……」
キャメノ「無理しないで!」
ヴェーデ「おい!急げ!奴が…」
ゼン「殺してあげましょう」
ヴェーデ「うぐ…っ」
キャメノ「ヴェーデさんっ!」
ヴェーデ「き…キャメノ…!俺とチノーテを置いて逃げろ…!はやく…!」
キャメノ「そんなこと…」
チノーテ「いいから…いきなさい!」
押される。
(ヴェーデさん…チノーテ…せんぱい…)
キャメノ「せんぱぁぁぁああい!!」
ゼン「おやおや。逃がしてしまいましたかならここも…破壊してしまいましょう」
水の槍。
たかが水。
されど水。
チノーテ「これで…第3部隊と第4部隊は全滅…ね」
ヴェーデ「未来ある奴らは…ここで死ぬべきじゃないからな…すまん、ボルン。
お前よりも先に逝くなんてよ…後、頼むぜ…」
チノーテ「私達はまだ負けてない。覚えてなさい。レミルは…闇なんかに染まりはしないわ」
ヴェーデ「はっ…たまには、いいこという…じゃねぇか…チ、ノー…て…」
チノーテ「たまに、は余計よ……ヴェーデ」
槍が建物を壊していく。
体から力が抜けていく─死が近い。
チノーテ「いきて…みらいを…おねがい。キャメノ…しんじてる、からね」

マーク「無理するな!自分の命を優先しろ!」
ゼン「はっ!」
マーク「ぐっ!」
ボルン「ぬおおお!」
ゼン「む」
マーク「おおおおあああ!」
ゼン「…むぅ」
「隊長!俺も戦います!」
マーク「やめろ!」
ゼン「貫け。天照」
マーク「なあっ…」

血飛沫が弾ける。
たった数分でどれだけの命が消えた?
ゼンは微笑む。
「まだ立ちますか」
と。
「お前を殺すまでは死ねない」
今にも倒れそうな体。
最後の力を振り絞る。
「うぉおおおあぁああああ!!!!」
「今度こそ、楽にしてあげますよ。ファイナル様」
歪む視界。
気力だけで理性を保っている。
自分の息づかいと心臓が動く音がハッキリと聞こえる。
それは時計。
いつか必ず止まる、電池交換なんて出来ない時計。
死の足音。
それを振り切るように走り出す。
「まさに獣…竜とは程遠い」
湧き上がるこの感情。
久しぶりに味わうこの怒り。
爆発させろ。
存分にぶつけろ。
フ「『覚醒』ッ!!!!」
ゼン「…」
結晶を蹴って加速する。
フ「…ろあああっ!」
ゼン「…っ!」
視界には映らない。
フ「だあああ!」
全身が砕けてもいい。
フ「ウオらアアア!」
ここで命が尽きても構わない。
だか、せめて。
フ「せめてお前だけはアアアアァァッッ!!」
ゼン「ぐ…っ」
ガギン!
ゼン「おのれ…っ!」
ゼンが退いた。
覚醒が解ける。
感情が雨に溶けていく。
肩で呼吸している。
全力を出した。
それでも適わない。
レミルが、崩れていく。
街が、壊れて行く。
建物から炎が立ち上がり、人々の嘆きが木霊する。
また、無力を嘆くのか。
そんなことはしないと決めた。
だから、俺は──
「約束、したんだ」

フ「…神楽が、死んだ」
折れた刀。
それはついさっきまで


フ「…」
刀を納め、空を見上げる。
黒く、そして深い雲。
フ「また、消えた。意志が、記憶が、あの水に流された。だが…」
拳を天に。
フ「まだ負けていない。たとえ身体が闇に染まろうと…お前を殺してやる…!」
雨が体を冷やしていく。
嘆きと怒りが混ざり合う叫びは雨音に掻き消されていく─

力丸「─犠牲は」
キャメノ「…

では…第3部隊、第4部隊共に全滅…第5部隊も約半数が死傷…っ!」
力丸「……」
ジェイ「力丸。向こうの負傷者も聞き終えた。第2は3分の2が死亡、第1は10名が死亡…だそうだ」
力丸「…後は」
ジェイ「重傷者がほとんどだ」
力丸「…この戦いは…なんだったんだ…」
空いた穴があまりにも大きすぎる。
力丸「あの時もっと早く退いていれば…あの場所にいた奴らだけでも重傷者は少なくなったはずだ…ジェイ…教えてくれ…俺は正しい事をしたのか…?」
ジェイ「…お前が正しいと思えばそうなる。自分を責めるな」
力丸「…」

エ「兄さん」
フ「何も言うな…言わないでくれ…」
鞘を傍に掛け、魔鉄鋼を取り出す。
フ「お前は死なせん…死なせるものか…!」

ぶっ続けで3時間。
形が出来た。
魔力を流し込んでいく。
屑が剥がれる。
フ「あとはこいつに…」
魔法具を突き刺す。
刀に命が宿っていく。
外に出る。
フ「答えろ…『神楽』!!
魔法具を引き抜く。
刀身は輝き、蒼炎を纏う。
フ「…ありがとう、神楽。こんな俺がマスターですまない」
穏やかに揺れる炎。
エ「…本当に生きているみたいだ…もしかして神羅も…?」
まさか、とは思う。
だが…誰かの声が聞こえたのは気の所為だろうか?
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