紅き月の下で

文字数 10,028文字

レミルでのいざこざが終わった。
ここは幻想郷の紅魔館。
その屋上である。
主・レミリアと共にカップに手をかけるファイナル。
フ「落ち着かないな。いつもみたいに自室でゆっくりしてたかったんだが」
レミリア「仕方ないじゃない。あの子(フラン)が暴れてるんですもの」
フ「行かなくてもいいのか?」
レミリア「そのうち…ほら来た」
フラン「あははっ♡いたいたぁ…おね〜さまぁ〜…あ・そ・ぼ・?」
レミリア「仕方ないわね…」
フ「…」
口に広がる苦味。
後から淡い甘みが来る。
苦難の味に似ている。
今宵は紅い月の下でパーティが始まる。
レミリア「…ちょっと、手は貸してくれないの?」
フ「貸すほどか?俺の目には姉妹喧嘩に見えるがな」
レミリア「貴方…頭おかしいんじゃないの?」
フ「だったらこんなにゆっくり珈琲飲んでないさ」
レミリア「…そうね」
フ「ほら、前見ろ。じゃれてくるぞ」
フラン「お姉様ぁ!」
2人の吸血鬼。
空を飛び、殴り合う。
鮮血が飛ぶ。
咲夜「ここにいたのね」
後ろからナイフを押し付けられる。
フ「俺は無関係だぞ」
咲夜「黙って。あなたはこれが終わるまでこうさせてもらう」
フ「好きにしろ。俺はどうでもいい」
暴走するフラン。
誰彼構わず殺す無垢な少女。
『フォーオブアカインド』
咲夜「あれは…」
フ「…さて、どうなる」
レーヴァテインが顔を掠める。
フランの爪が咲夜を狙う。
咲夜「フランお嬢様…っ!」
もう間に合わない。
咄嗟に目を閉じる。
…痛みを感じない。
咲夜「…っ!」
目を開けるとそこには自分に向けられた腕を掴むファイナルが映った。
フ「怪我はないな?」
咲夜「…」
言葉が出ない。
咲夜「…ない」
絞り出した言葉はそれだけだった。
フ「いい子だから…大人しくしてろ…!」
レミリアとフランの分身が入り乱れる戦場へ飛び込んでいく。

レミリア「…退きなさい!人間が吸血鬼に勝てると思ってるの!?」
フ「甘く見るなよ。あと俺は人間じゃない」
レミリア「…?」
フ「

だ」
直後に見た光景は信じられないものだった。
レミリア「フランの攻撃に…ついていけてる…」
フラン「あれれ〜?よそ見はダメだよぉー?お姉さま」
レミリア「…くっ!」
フラン「捕まえちゃったぁ。どうしよっかな〜…きゃああっ!?」
投げつけられる分身体。
フ「離してやれ」
フラン「むぅ…気に入らないなぁ。あなたから先に壊しちゃおうかな?」
レミリア「逃げな…あぐっ…」
フラン「ちょっと黙っててよ」
フ「…」
フラン「ねぇ、お兄さん。わたしと、遊んでくれる?」
フ「ああ。遊んでやるよ」
フラン「やったぁ!すぐ壊れないでね?」
掴んでいた腕が離れる。
赤と青の炎が舞う。
レーヴァテインと神楽。
少しでも気を抜けば死ぬ。
戦場はそういうものだ。
少女とは思えない強さ。
小細工無し、純粋な力。
時に危険となるその力…
彼女の前では皆等しく

なのだ。
フ「っと…」
フラン「それっ!」
拳。
ガンッ!
刀で受ける。
それでも衝撃波で後ろの壁が崩れる。
…ここが屋内じゃなくて良かった。
フラン「うんうん。いいね」
フ「…」
ひとつの攻撃に丁寧に対応したら身が持たない…
少し、本気でやるか。
レーヴァテインで右斜めから左斜め。
次!
そのまま振り上げ!
目線、筋肉の動き、息の付き方…
それである程度は予想できる。
突き。
確実に避ける。
後ろにまわり…首に向けて手刀。
フラン「そ──」
フ「…よし」
崩れた壁は…
フ「直ってる…のか」
咲夜「面倒だった」
フ「そうか」
フランを咲夜に引き渡す。
咲夜「あとは任せて」
フ「ああ」

レミリア「……」
まだ息が苦しい。
顔を覗き込んでくる。
レミリア「鬱陶しいんだけど」
フ「んなとこで寝てっと風邪ひくぞ」
レミリア「別に。気にしないわよ」
フ「仮にもここの主だろが…」
レミリア「一応、礼を言っておくわ。ありがとう」
フ「ただ単に妹を傷つけたくないんだろ」
レミリア「それは…」
フ「グングニルを使わなかったのが証拠だ」
レミリア「…そうよ。あの子にとって私はただの姉…でも、私にとってはかけがえのない大切な妹なのよ…」
妹を傷つける訳には。
フ「一方的に憎まれる存在…それが姉や兄の役目だ。憎まれながら…きょうだい達に愛を分ける」
レミリア「私たちの役目は複雑ね」
フ「ああ。だがそれでいい。愛は与えた分だけ信頼として帰って来るからな」
レミリア「そうね…」
フ「ほら、立てよ」
差し伸べられた手を握る。
レミリア「ありがと…」

フ「…紫」
紫「何かしら」
フ「…何故俺の部屋にいる」
紫「あなたに知らせがある」
フ「なんだって?」
紫「…幻想郷の住民達の

に気をつけなさい」
フ「どういうことだ」
紫「霊夢や魔理沙だけじゃない。聞いた話だとアリスや早苗なんかも…」
フ「わかった。頭に入れておく」
紫「…」
フ「俺の顔に何か付いてるか?」
紫「いいえ。何も」

マイン「…ああ、なんだか暇だな」
フィル「そう…だね…っ」
マイン「気分でも悪いのかな?」
フィル「いや…違うんだ…」
マイン「どうしたんだよ?」
フィル「…胸が、痛い…頭も…あの日を思い出して…」
それは恐らく


燃え上がる豪炎で月が赤く見えた日。
フィル「ぅ…うう…」
マイン「大丈夫か!落ち着け…」
『にい…ちゃ…ん』
『フィル…もう大丈夫だからな…』
顔でなんとなく察せる。
自分はもうすぐで死ぬのだと。
『あり…がと…』
『フィル…!やめろ…それ以上…!』
『お、れ…にいちゃんと、あって…いっしょに、すごせて…たのしかった、よ…』

の姿が霞んでいく。
音が聞こえなくなっていく。
代わりに聞こえるのは死の足音。
暗闇で何かに体を引かれる。
沈みゆく体。
天へと手を掲げる。
赤い月。
燃える月。
心に刻み込まれた憎しみ。
それは消えることは無い。
マイン「やめろ!僕だ!」
目の前のものを壊す。
首を掴む手に力を入れていく。
マイン「っ!…や、め…」
俺だって、半竜人なんだ。
俺は人間なんかじゃない。
義兄さん達と同じ、
この力は…!
マイン「……!」
竜化。
血が滲む翼。
意識が遠のく。

エ「…フィル!?」
ふしゅー、ふしゅー、と、激しい息遣いでこちらを振り向く。
獲物を狩る目。
それと同時に何かに怯える目。
憎悪と恐怖が入り交じった瞳。
『ぐるおおおう!』
エ「…うわっ!」
突き飛ばされる。
「何事ですか!?」
紅魔館に務めるメイドのひとりが駆けつける。
エ「…行く先は屋上か!」
メイド「…っ!」

が通った跡は凄惨なものだった。
四肢が欠損し、
臓器をさらけ出している死体。
壁にはまだ暖かい血が滴る。
メイド「ううっ…!」
エ「…大丈夫ですか?」
メイド「…だい、じょうぶ、です…」
エ「…」
メイド「いき、ましょう…」
フ「無理するな。主人にこの事を伝えにいけ」
メイド「ファイナル様…」
フ「義弟が済まないな。これは俺たちが片付けよう。さあ、行け」
メイド「…はい」
フ「行くぞ」
エ「ああ!」
階段を上る。
エ「兄さん!間に合わないよ!」
このまま紅魔館から離れれば…次は…
エ「先に行くよ!」
翼の具現化が早いエンドが飛んでいく。
フ「…っち…!」
欠損している部分の修復がある分、具現化して飛べるようになるまでは時間がかかる。
壁を蹴る。
この階段は中心部が大きい螺旋階段。
1度中心に出れば後は垂直に飛べばいい。
羽ばたく。
外へ続くドア。
奥からは声が聞こえてくる。
ドアを開け、フィルを押さえつける。
だが、力負けする。
力が増えすぎている。
もう、フィルからは理性を感じない。
エ「皮膚が鱗に…これも竜化なのか…?」
フ「行き過ぎた竜化…異形化だ」
『グガアアアアッ!』
フ「そのまま噛み切ってみろ…!」
エ「兄さん!危険だ!」
一瞬、フィルが正気に戻る。
しかしすぐに本能に引き込まれる。
フ「戻って来い!」
『ウッ…ガ、ガアアア!グギャアアア!』
フ「『サルベージ』…これで」
フィルの体を結晶が貫く。
フ「お前の『死の記憶』がお前を狂わせた…忘れさせはしない。だが、これでもう苦しまないで済む」
ゆっくり、口を離していく。
穴が空いた腕から血が流れる。
フィル「に…いさ…ん」
フ「心配するな。俺はいつも、いつまでも、お前達と一瞬に居る。俺が死ぬその時までな」
腕を引き抜く。
手には何も握っていない。
フ「お前のその力はいつか誰かを守ることが出来る。俺がそれを取り上げることは出来ない」
フィル「…俺が、誰かを…?」
フ「そうだ。そう遠くない未来、お前の近くにいる

…それは未来のお嫁さんかもしれないし、一生を共にする親友かもしれない。焦ることは無い。ゆっくりと、お前の道を歩いていけ」
フィル「…うん」
レミリア「あら。もう終わってたみたいね」
フ「ちょうどさっきな」
レミリア「腕を見せなさい」
フ「大したもんじゃない」
レミリア「いいから見せなさい!」
フ「いっつ…」
レミリア「…やっぱり。無理してたんでしょ」
フ「…これくらいの痛みなら何度も体験したさ」
レミリア「とりあえず来なさい。メイド達のことは許してあげるから」
フィル「…ごめんなさい」
レミリア「いいのよ。残念だけど、彼女達はただ『運がなかった』と言うしかないわ。あなたが気にすることではないのよ」
それでも胸に残る罪悪感は拭いきれない。
エ「フィル、レミリアもそうだけど、他に謝る人がいるだろ?」
フィル「…マイン」

マイン「……」
ベッドの上で息を立てている。
フィル「ま、マイン?」
マイン「…ん」
片目を開けてこちらを見る。
マイン「…ああ、おかえり。大変だったろ?」
いつも通りの言葉。
それが余計に刺さる。
フィル「…ごめん。あんなことをして…」
マイン「別に怒ってないさ。僕も同じようなことをしたしね。これでおあいこだ」
フィル「マイン…!」
マイン「僕は少し寝るよ。また後で起こしてくれ」

キ「んしょ…よいしょっ…」
レグルス「…キルア様?」
キ「あ、レグルス…」
レグルス「あの本を?」
キ「…少し、背が小さいもので」
レグルス「…どうぞ」
キ「ありがとうございます」
レグルス「いえ。当然のことをしたまでです」
キ「…あなたは本当に良かったのですか?」
レグルス「何がでしょう?」
キ「あなたは本来ファイナルに仕えるはずなのに…私なんかで…」
レグルス「キルア様」
キ「は、はい」
レグルス「そんなことをおっしゃらないでください。私の主はファイナル様、そしてキルア様です。私は私の命をキルア様とファイナル様へ捧げているのですよ」
キ「レグルス…」
レグルス「…さあ、ご命令を。貴方様の為なら、なんでも致しましょう」
キ「…私から絶対に、離れないでくれますか?」
レグルス「勿論。このレグルス、いついかなる時も主のお傍におります」
何気ない茶番が心を癒す。
キ「ありがとう、レグルス」

エ「あ〜…疲れた」
サ「お疲れ様です」
エ「何か飲み物はないかな」
サ「ここにジュースなら」
エ「それでいいよ」
サ「どうぞ」
エ「ありがと…おお冷た」
蓋を開け、喉に流し込む。
エ「…ああ〜…生き返る…」
サ「フィルさんはどうなったんです?」
エ「今は落ち着いてるよ。でも兄さんがまた異形化するかもしれないとは言ってたね」
サ「そうですか…」
エ「サクラ、こっちきて」
サ「わかりました」
密かに思いを寄せているとはいえ…
ここまで近いと緊張する。
エ「…サクラは、俺のことをどう思ってる?」
サ「え、と…それ、は……」
『ずっと一緒に居たい』
なんて言ったら彼はどんな反応をする?
ましてや大切な人、などと…
エ「俺はサクラから聞きたいんだ」
サ「それは…どういう…」
頭ではわかっているのに。
思考回路が回りすぎて固まっている。
エ「俺のことが、好きだって」
サ「…ずるいです、そんなの」
エ「…いいじゃないか。俺はそういう性格だ」
息を整え、
彼の目を見つめる。
吸い込まれそうな黒い瞳。
だけどそれを支えてくれる彼の身体。
自分の体を預け、囁く。
サ「すきです。エンドさんが。だから、ずっと一緒にいてくださいね」
エ「ああ。一生そばにいてやる。鬱陶しいくらい」
サ「…それでも、嬉しいです」
部屋で2人きり。
抱き合う2人は時間を忘れて愛し合った。

フ「…」
フィルに噛まれた腕。
包帯を巻かれた腕。
見慣れた、白い腕。
幼い記憶が蘇る。
自分の腕が腕と分からなくなるほどにズタズタに切り裂いたあの日々。
床はいつも血だらけで、
ひたすら痛みと辛さに、そしてヤツら(人間)に怯える泣き声を出して。
『うあああああああっっっっっ!!!!
『何をなさっているのです!?』
『離せ、はなせええっ!!奴らが僕を!僕は!やめろおおっ!』
フ「…くそ」
腕を押さえる。
まだ、痛む。
大切な人を失う痛み。
今まで生きてきてあれほど痛かったものは無い。
『嬉しいな。大好きな君の中で死ねるなんて。』
『約束して。いつかこの国を平和にする、って。』
彼女の全てが妖夢と重なる。
妖夢さえ失ったら…俺はきっと壊れてしまうだろう。
いつしかの声が聞こえる。
『ねぇ。君は幸せかな?私と出会って、見る世界が変わって。君はそれでも自分を責め続けるの?』
『僕、は…』
幸せだ。
誰がなんと言おうと俺は幸せものだ。
信頼し合う親友という存在が居て、
自分が1人じゃないと気付かせてくれた人が居て、
愛し愛し合う人が居る。
これを不幸と呼ぶには難し過ぎる。
思い出すのは彼女の思い出だけじゃない。
忌々しい記憶も呼び覚ましてしまう。
『動くなよ。私はただこいつの悲鳴が聞きたいだけなのだ』
『やめろ!』
『おいファイナルッ!!セロ、止血…』
『そんな暇ある訳ないだろ!』
夜の森。
自分が自分では無くなる感覚。
『自分』という性格が消えていく様な。
でも根本では自分が居る。
溢れる怒り。憎悪。
どんどん増えていく負の感情。
『…辛かったろ、もう大丈夫だ。俺がついてる。もう、泣かなくていいんだ』
人の記憶とは、とても不思議だ。
たった一つの事だけで、何もかもを思い出してしまう。
溢れる涙はただ、包帯を濡らすだけだった。

泣き疲れたのか眠っていたらしい。
目を覚ますと朝日が射し込んでいた。
…にしても、体が重い。
目線を下の方にずらしていく。
フ「…!?」
そこには目を見張る人物がいた。
フ「よ、妖夢!?」
先に白玉楼へ戻っていたはず…
妖夢「おはよう。いい朝だね。」
フ「あ…ああ…」
どうなっている…
まだ夢でも見ているのか…?
…いや待て。妖夢…お前、


刀か!?
しかも俺に突きつけて…
まさか!?
フ「コピー…!」
刀を素手で掴む。
当然、手のひらから血が流れる。
そこまではいい。
刀に何かが塗られている。
力がどんどん抜けていく。
この違和感…何度か味わったことがある。
エキドナで撃たれたあの弾…あれの液体…やはり効果は絶大のようだ。
ダメだ…力が…はいら…な…ぃ…

エ「ふああ…ねっむ」
サ「ん…もう朝ですか…?」
エ「そうだよ。ほら起きて」
サ「朝は苦手なんですよぅ…」
そんなサクラを無理やり起こす。
サ「…むぅ」
崩れた髪型で頬を膨らます。

イ「…おはよ。レイル。よく寝れた?」
レイル「はい!元気いっぱいです!」
イ「朝、得意なんだね。私と一緒だね。」
レイル「そうなんですか!」
イ「私はそこまで元気になれないけどね…」

キ「…ファイナル?」
返事はない。
レグルス「まだ寝ているのでしょうか…」
ドアノブを触る。
鍵が掛かっていない。
レグルス「珍しい…ファイナル様が鍵を欠け忘れるとは」
ドアを開ける。
レグルス「ファイナル様…なっ!?」
妖夢?「…遅かったね」
キ「あなたは…」
妖夢?「教えるとでも思うの?知りたきゃ調べないと。」
妖夢のようで妖夢じゃない。
まるでもう1人の妖夢がそこにいるような。
妖夢?「それじゃあ、今日はこれで失礼するね。」
レグルス「待て!」
窓を突き破って出ていく。
そこから先は見えなかった。
キ「ファイナル!」
レグルス「…これは…不味い…!」
思ったよりも深刻だ。
キ「わ…私は何を…」
レグルス「…エンド様を」
キ「わかりました!」
フ「っあ…れ…るす…」
レグルス「ファイナル様!ここに!」
フ「あ…か…」
赤。
フ「こ…こ…、に…」
指示通りに。
フ「あ、か…あおと、…まぜ…て…」
なるべく早く。
フ「あとは…いい…ほうって、おい…てくれ…」
エ「レグルス!」
レグルス「エンド様」
エ「何とか処置は済んだみたいだね。少し寝かせて永遠亭に行こう」
キ「…大丈夫なのですか?」
エ「死にはしないと思う。だけど絶対ないとは言いきれない。」
キ「そう、ですか…」
エ「影の狙いは常に俺達半竜人だ。だけど力の関係でいつも兄さんから狙われる。兄さんは仕方ないって言ってるけど…本当は俺達も変わってあげたいんだよ…」

レイル「ロッキーさん!」
ロ「あ?」
レイル「…あまり大きな声では言えないんですけど…」
ロ「なんなんだよ」
レイル「紅魔館の中…咲夜さんとは違う気配を感じるんです」
ロ「じゃあ魔理沙じゃねぇの?」
レイル「違うんです…大部分は咲夜さんなんですけど…その他は違うんですよ。」
ロ「…なんだ?じゃあお前は…その咲夜が

だと言いたいのか?」
レイル「そうです」
ロ「でもなぁ。断定は出来ねぇぞ?」
レイル「そうなんですよね…」

レミリア「咲夜。彼の様子はどう?」
咲夜「あれから何事もなく。あと10分程したら永遠亭に向かうそうです」
レミリア「そう。」
咲夜がいれた紅茶を飲む。
完璧な味わい…
の、はず…
レミリア「さ…咲夜!あ、あなた…なにを…!」
咲夜?「おやすみなさいませ、お嬢様」

エ「よし。俺が運ぶよ」
キ「転移門は向こうへ繋がっています。何時でも」
エ「わかった。皆は先に白玉楼に戻っててくれ。兄さんの様子を見てから俺も行く」
キ「わかりました」

博麗神社。
霊夢「ついに、ね」
魔理沙「…ああ。やっと見つけたぜ」
霊夢「私達は模造品じゃない。本物よ。」
魔理沙「たとえ世界が黒く染まっていようと…私は私だぜ。そう、たとえ身体と記憶すらも失っていても…」
紫「準備は出来たわよ。」
霊夢「そう。じゃあ行きましょうか」
魔理沙「早苗とアリスは?」
紫「先に送っておいた。後はあなた達だけよ」
魔理沙「待ってろよ…屑共…!」

フ「…ここは…永遠亭か…」
永琳「さすがに見慣れた?」
フ「迷惑をかけますね…先生」
永琳「ホントよ。もう少し自重してくれないかしら」
フ「出来たら良いんですけどね」
永琳「…基本的に不意打ちで来る相手には難しかったわね」
フ「いつか滅ぼしてやりますよ。あいつらに殺された仲間達の仇です」
永琳「応援してるわ」
フ「俺はもう弱者ではありません。」
守ってみせる。
今度こそ。
全てを。
永琳「…体にも異常なし。いいわよ」
フ「それではまた」

妖夢「ファイナル!」
フ「妖夢…」
違う。

じゃない。
フ「大丈夫だったか?」
妖夢「うん。みんな無事だよ。」
フ「それは良かった。」
妖夢「行こう?」
フ「ああ。」
『待て!』
フ「…誰だ」
「見つけたぜ…ファイナル!」
フ「…は?」
魔理沙「お前に殺された人達の恨み…!」
フ「待て待て。人違いだ」
魔理沙「うるさい。そうやってみんな殺してきたんだろ」
フ「…お前は何を言って…」
話し合いが通じる相手ではない。
魔理沙「殺してやるぜ!」
フ「…もうどうなっても知らねぇからな」
覚醒。
フ「一撃で沈ませる」
魔理沙「やってみろおお!」
あいつらの苦しみとか恐怖なんかに比べたら…
私の怒りや憎悪なんて…
ただのちっぽけな感情だ。
フ「勇敢なんだか、無謀なのか…楽にしてやるよ」
地面を蹴り、走る。
人の目には映らない。
魔理沙「な……」
フ「…失せろ」
霊夢「魔理沙!」
フ「どうする。まだやるか?」
霊夢「っぐ…」
「その必要は無いだろう。」
霊夢の目が見開く。
霊夢「あんた…!」
エ「…あれ…兄さんじゃ?」
フ?「俺を追ってここまで来たか。全く馬鹿な奴らだよな。」
霊夢「…クズが」
フ?「それはどっちだ。彼女を死ぬ直前までこき使って…俺は本来お前達が償うべき罪を償っているだけだ!」
霊夢「だからといって人を殺すなんて!」
フ?「…何も知らない…いや。知ろうとしないクズ共め」
霊夢「それはどっ…」
魔理沙「それはどっちだ!」
フ?「あのな。」
魔理沙「やっぱりお前は殺すしか…!」
フ?「…そうか。なら殺せよ。


霊夢「……」
フ?「…その前に…」
こちらを向く。
フ?「済まないな。」
フ「何がだ?」
フ?「とんだ迷惑を掛けた。俺達は向こうへ帰るとするよ。咲夜やアリス、早苗ももうすぐ来ると思うぜ」
エ「待ってよ。何が何だか分からないんだけど…」
フ?「そうだな。時間もあるし、少し話をしようか」

俺は紫に連れられて幻想郷へ来た。
無論、エンド達も一緒だった。
白玉楼へ行き、何でもない日常を過ごしていた。
ある人を除いて、な。
キルア様だ。
幻想郷に来てから数ヶ月。
疲れが溜まったのか、キルア様は倒れたんだ。
俺とレグルスは三日三晩付き添ったよ。
『キルア様、お体は大丈夫ですか?』
『ファイナル…お願いがあるのですが…』
『? なんでしょうか?』
『わたしを…殺してください…』
『キルア様!?いきなり何を!?』
『戻っても…何も出来ないと言われるのは…もう耐えられないのです…』
『…ファイナル様』
『どうか、お願いします…私の、最後のお願いです』
『キルア様…』
首を締めて殺した。
最後の最後、ありがとうと囁く声で言ったのは脳裏に焼き付いている。
それからは…
『兄さん…!?何をしてるんだよ!?』
誰からも信じられなくなり…
レグルスも…
『どうか…強く…生きてください…ま…せ…』
仲間に殺された。
狂ったのはそれからだ。
よってくる奴らを殺し続けてたら…いつの間にか手遅れになっていた。
目の傷はより広がっていまは首まで届いている。
神楽も血に染ってしまった。
拭っても拭っても血液が滴る妖刀に墜ちた。
生き残っている人を見つけては殺す…
そんな日々に嫌気がさし、この世界で、誰にも気付かれず、死のうと思ったんだ。

フ?「それも今となっては終わる。向こうの世界で俺は死ぬことになるだろう」
エ「兄さん…」
フ?「そんな目をするな。別に恨んだりはしてないさ。」
エ「…また、会えるかな。」
フ?「どうだろうな。でも、もし逢えたら…その時は『ファイナル(兄さん)』じゃなくて…『ルイン(兄さん)』と呼んでくれ。」
霊夢「…行くわよ。ファイナル」
フ?「…ああ。好きにしろ」
スキマへと消えていく。
フ「…不思議な一時だった。」
エ「そうだね…」
フ「…さ、帰ろう。妖夢達が待ってる」
エ「ああ…」
フ「まだ一日は始まったばかりだ。さて、今日も─」
エ「兄さん。」
フ「どうした?」
エ「兄さんは…俺をどう思ってる?」
フ「…そうだな。大切な、ただ1人の、頼りになる弟、だな」
エ「照れるなぁ。過大評価しすぎだよ。」
フ「そんなこと言って。本当はよく思われてないかも…なんて考えてたんだろ?あいつの話を聞いて。」
エ「そう…だけど、さ。」
フ「俺達きょうだいはいつも一緒だ。たとえ誰かがいなくなっても、その魂は、記憶は、覚えている限り無くならない。」
エ「誰かが覚えている限り、俺達は死なないんだ…」
フ「そうだ。たとえ俺達が死んでも、この幻想郷の大地や人々が覚えていてくれる。心配することは無いんだ」
エ「兄さん…」
優しい背中。
頼りになる背中。
小さな頃からずっと追っていた。
そんな壁が無くなる、
そう考えると涙が溢れてくる。
エ「にいさあぁん!」
フ「うぉい…全く…お前ってやつは…」
きょうだいの絆は不滅だ。
この

が…
誰かの道になる。
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