第13話 恋愛マスター決定戦!

文字数 2,455文字

 3人が各自の部屋に帰った後、私はホテルに備え付けられた机に向かって考えている。
 もちろん恋文を書くためだ。
 恋愛マスター決定戦は、詐欺集団の採用試験の恋文となった。

 私は書くべき恋文について考える。

 私の恋文は誰宛に書くべきか?

 ミシェルとエレーヌに勝つためには架空の誰かに対する恋文ではダメだ。
 ロベールに宛てた恋文であれば、二人に勝てそうな気がする。

 本人に見られると恥ずかしいけれど、私のロベールへの想いをこの恋文にぶつけることにした。私は机に向かって恋文を書き始めた。

 **

 まず、時節の挨拶は欠かせない。

『拝啓 今年は例年になく冷え込む秋になりました。貴方はお変わりなくお健やかにお過ごしでいらっしゃいますか』

 まぁ、ちょっと硬いがこれくらいでいいだろう。恋文は普段とは違う自分を出すものだし、読み手(ロベール)も「へー、改まって話があるんだな……」と思ってくれるはずだ。

 次に、私とロベールの出会いを書こう。

 メガネを無くしたロベールが、私に「家まで連れて行ってほしい」と頼んだのだっけ……。最初は空気の読めない男の子だと思っていたけど、実は家族や友人思いの好青年だった。
 そして私がヘイズ王立魔法学園で1位を争っていた「ロバート」。私が敵対視していたライバルが実はロベールだったのよね。同じRobertだもの、気づかなかったわ。
 それからもいろいろあったわね……

 私はロベールとの出会い、今までのやり取りを個人情報が特定されないように注意しながら恋文に書いた。


 そして、愛の言葉だ。

「愛しています」とストレートに書くべきか?
 それとも、少し文学的な表現を使うべきか?
 迷うところだ。

 どこかの文豪は「愛しています」を「月がきれいですね」と表現したらしい。
 よほどの読書家を除いて、この表現を理解できる人はヘイズ王国ではほとんどいない。
 ロベールはうまく意図を解ってくれるか不安が残る。「えっ、月なんて出てないけど」とか言われたらどうしよう……

 どうしようかな……迷うな……あ、眠くなってきた……ふぁぁ……ZZZ……


 ***

「お嬢様、起きて下さい。朝ですよ!」

 ミシェルの声が聞こえる。

 ――ああ、朝か……。そういえば、修学旅行に来ているんだったわね

 朝が弱い私を起こしに来てくれたのだ。
 修学旅行中なのに申し訳ない、と私は思いながらミシェルに話しかける。

「おはよう、ミシェル」

 私は部屋のカーテンを開けるミシェルに言った。

 そうだ、今日は恋愛マスター決定戦。
 恋文を詐欺集団の採用試験に提出し、面接官に採点してもらって、誰が最も優れているかを競う。
 そういえば……私の恋文は……

「ぬぉぉぉぉ!!」

 私の奇声を聞いたミシェルが怪訝な顔をする。

「お嬢様、どうしたんですか?」

 恋文を書いている途中で寝てしまったことに気付いた私。今から書いて間に合うだろうか?

「寝てしまった……不覚にも」

 ミシェルはニヤニヤしながら私の方へ歩いてくる。

「ははーん。私に負けるのが怖いから、そんな言い訳をしているわけですね。なんて往生際の悪い」
「違うわよ。後もう少しだから、すぐに書き上げるわ」
「時間が無くて実力が出せなかった、と言いたいわけですね」

「違うって……私は恋文を書いてしまうから、ミシェルは先に朝食に行ってて!」
「いいですよ。ゆっくり悔いのないように仕上げてください。まぁ、無駄だと思いますけどね」
「うっさいわね! 早く行きなさいよ」
「はいはい」
「「はい」は一回!」
「ちっ……」
「舌打ちするのやめなさい!」
「はいはーい。じゃあ、先に行ってますね」

 ミシェルが部屋から出ていったから、私は恋文を書き始めた。
 時間が迫っているから、長々とは書けない。

 今から書くとしたら……愛の言葉だけ。

 “好き”

 私は最後の一言を書いて、恋文の封をした。

 ***

 ホテルでの朝食を済ませた私たちは、採用試験のために詐欺集団のアジトへ訪問した。
 採用試験は2段階に分かれていて、まずは書類審査が行われる。書類審査を通過した者だけが面接試験に進むことができるのだ。私たちは書類審査のための必要書類(恋文も含む)を提出した。

 採用担当者から「書類審査は1時間で結果が出ます」と言われたから、私たちは一旦ホテルに戻って、1時間後に再度訪問した。

 私たちが受付に着くと、採用面接のための部屋に案内された。
 別室ということは……書類審査は通過したのではないだろうか。そんな期待を持って私は部屋に入った。

 私たちが部屋で待っていると採用担当者が入ってきた。これから、提出した恋文の採点結果が私たちに伝えられる。

 いや、これは恋愛マスター選手権の結果発表だ!

 採用担当者は事務的な説明をした後、エレーヌに「書類審査の結果を伝えます」と言った。

「まず、エレーヌさん。あなたの恋文ですが……採点の結果、3点です」

 耳を疑うエレーヌ。本人は当然もっと高得点だと思っていたらしい。

「3点? ちなみに何点満点ですか?」
「100点満点の3点です」

 横でミシェルが「ぷっ……」と失笑している。

「なんで……ですか?」と食い下がるエレーヌ。

 採用担当者はエレーヌに説明を始めた。

「まず、これは恋文ではありません。果たし状ですね」
「果たし状……」

「例えばここです。『私の右フックで折れたお前の奥歯』って……なぜ恋した相手に暴力を振るうのです?」
「いいだろ、強い男が好きなんだよ!」

「まあ、いいです。それに『私と戦って、勝ったら付き合ってやってもいい』って書いてあります。何でそんな上からなんですか?」
「照れ隠しかな……」

「それに、『首を洗って待っていろ!』と書いてあります。もはや恋愛する気がありませんよね?」
「そう……かな?」
「だから、エレーヌさんが提出した文章は恋文ではなく果たし状、と当方は判断しました。恋文ではありませんから3点です」

 項垂れるエレーヌの隣でニヤニヤしながら笑っているミシェル。

 この時点でエレーヌの恋愛マスター決定戦の敗退が決定した。
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