第23話 恋をした公爵令嬢は……
文字数 2,131文字
逮捕されたガラン子爵とパオラへの取り調べによって事件の真相が明らかになった。
今回の国際ロマンス詐欺はガラン子爵とパオラが中心となって起こしたものだった。
ヘイズ王国で流行っている小説『禁じられた逃避行』の内容を模した詐欺を思い付いたのはパオラだ。ロマンス工場を作ったのもパオラだし、詐欺の手順を指示していたのもパオラだった。
さらに、警察での取り調べでガラン子爵とパオラの余罪が次々と明るみになった。ガラン子爵家は詐欺事件を主導した罪、その他の犯罪で取り潰しとなるはずだ。
ヘイズ王国の貴族夫人や貴族令嬢を騙していたのはヘイズ王国の貴族夫人だった。この事実は瞬く間にヘイズ王国に広まった。連日、貴族社会では国際ロマンス詐欺の話題で持ちきりだ。
一方、ガラン子爵と一緒に詐欺を首謀していたと思っていたハリス元侯爵は、証拠不十分で不起訴となった。
警察が捜査したところ、ハリス元侯爵はガラン子爵とパオラにマンデル共和国での活動拠点を紹介した事実しか出てこなかった。賃貸物件の紹介だけではハリス元侯爵を国際ロマンス詐欺の罪には問えない。
ただ、直接的な証拠がなかっただけで、私はハリス元侯爵が裏で関与していたと思っている。なかなかしぶとい奴だ。
さて、私とロベールは、国際ロマンス詐欺の首謀者であるガラン子爵とパオラを逮捕したことでヘイズ王に呼ばれた。
今回の逮捕は単純に罪を犯した子爵家を逮捕しただけではない。ヘイズ王国の貴族をターゲットにした詐欺事件だったから、ヘイズ王国の貴族社会を混乱させる国家的な犯罪だったといえる。
だから、今度こそロベールは子爵になるはず。
ちなみに、捜査を手伝ってもらったルッツには褒美に金貨をあげた。ヘイズ王国の孤児院で引取る案もあったのだが、安易にヘイズ王国に連れてくるべきではないと考えた。ルッツはマンデル共和国の国民だ。
褒美の金貨で生活できるから、ルッツは仲間とスラム街から出ていける。ルッツには、犯罪に巻き込まれずに立派に生きてほしいと願っている。
***
約1カ月ぶりに王宮にやってきた私とロベール。
1カ月前にヘイズ王から「あと1件逮捕したらロベールを子爵にする」と言質をとった。約束を反故にしないことを期待しながら、私は王との謁見の間に入った。
王との謁見の間に入った私とロベールは、ヘイズ王の前に跪(ひざまず)く。
目の前に座っているヘイズ王は「久しぶりだね、マーガレット」と私に声を掛ける。
私のウィリアムズ公爵家は王族から派生した家。だから、ヘイズ王と私は親戚関係にある。
私からすれば「親戚のおじさん」なのだが、王宮の関係者が同席しているから無礼な発言はできない。
「この度もご苦労であった」とヘイズ王は私とロベールに言った。
「有難きお言葉!」と私とロベールは返す。
「それにしても、詐欺被害者がこんなにいたとは……。この国の女性はロマンスに憧れているのだな」
「憧れもあるのでしょうけど……手紙の書き方が上手くて、心優しいヘイズ王国の女性は助けてあげたいと思ってしまったようです」
「ほう……そんなにか?」
「ええ。とはいえ、ロマンス詐欺は女心を弄ぶ卑劣な犯罪です」
「そうだな」
そんなこともより、ロベールが子爵になれるかどうかを確認しないといけない。
「ところで、ロベールはこの件で子爵になれますか?」
「相変わらずせっかちだな。この前、あと1件必要だと言ったのだから問題ない。今回は子爵にしよう」
「それでは」とヘイズ王は言うと、側使いに書類を持ってこさせた。
ヘイズ王は書類に目を通して言った。
「ロベール・ル・ヴァクト、そなたに子爵の爵位を授ける」
ヘイズ王はそう宣言すると書面をロベールに渡した。
「やったーーーーー!」
そう言いながら私はロベールに抱き着いた。
「ちょっと、デイジー」とロベールは困ったような声を出した。
「いいの。今はいいの!」と私はロベールに返す。
「うぉっほん! ちょっと、そういうのは後でやってもらえんかな……」
ヘイズ王は困ったように私に言った。
何はともあれ、これでロベールは子爵になった。
私たちはその後しばらく談笑した後、王宮を後にした。
***
王宮から出たところで黒猫マリオがやってきた。
「デジちゃん、うまくいったの?」
「ええ、バッチリよ!」
私は笑顔でマリオを抱き上げた。
二人と一匹は晴れやかな気分で帰り道を歩いている。
その時、王宮へ向かう馬車が猛スピードで私たちの至近距離を駆けていった。
「あぶない!」と私を庇うロベール。
相変わらずロベールは優しい。
私が振り向いたらロベールの顔が近くにあった。私の唇とロベールの唇が近づく。
30センチ……20センチ……10センチ……
「お腹減ったニャー!」
――また、お前か!
晩ご飯抜きだな……
とにかく、ロベールを子爵にすることができた。次は伯爵だ。
こうして、恋をした公爵令嬢 は貧乏男爵 を
<おわり>
【後書き】
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
この物語は『恋をした公爵令嬢は貧乏男爵を子爵に出世させたから、今度は伯爵に出世させることにした』に続くかもしれません。
今回の国際ロマンス詐欺はガラン子爵とパオラが中心となって起こしたものだった。
ヘイズ王国で流行っている小説『禁じられた逃避行』の内容を模した詐欺を思い付いたのはパオラだ。ロマンス工場を作ったのもパオラだし、詐欺の手順を指示していたのもパオラだった。
さらに、警察での取り調べでガラン子爵とパオラの余罪が次々と明るみになった。ガラン子爵家は詐欺事件を主導した罪、その他の犯罪で取り潰しとなるはずだ。
ヘイズ王国の貴族夫人や貴族令嬢を騙していたのはヘイズ王国の貴族夫人だった。この事実は瞬く間にヘイズ王国に広まった。連日、貴族社会では国際ロマンス詐欺の話題で持ちきりだ。
一方、ガラン子爵と一緒に詐欺を首謀していたと思っていたハリス元侯爵は、証拠不十分で不起訴となった。
警察が捜査したところ、ハリス元侯爵はガラン子爵とパオラにマンデル共和国での活動拠点を紹介した事実しか出てこなかった。賃貸物件の紹介だけではハリス元侯爵を国際ロマンス詐欺の罪には問えない。
ただ、直接的な証拠がなかっただけで、私はハリス元侯爵が裏で関与していたと思っている。なかなかしぶとい奴だ。
さて、私とロベールは、国際ロマンス詐欺の首謀者であるガラン子爵とパオラを逮捕したことでヘイズ王に呼ばれた。
今回の逮捕は単純に罪を犯した子爵家を逮捕しただけではない。ヘイズ王国の貴族をターゲットにした詐欺事件だったから、ヘイズ王国の貴族社会を混乱させる国家的な犯罪だったといえる。
だから、今度こそロベールは子爵になるはず。
ちなみに、捜査を手伝ってもらったルッツには褒美に金貨をあげた。ヘイズ王国の孤児院で引取る案もあったのだが、安易にヘイズ王国に連れてくるべきではないと考えた。ルッツはマンデル共和国の国民だ。
褒美の金貨で生活できるから、ルッツは仲間とスラム街から出ていける。ルッツには、犯罪に巻き込まれずに立派に生きてほしいと願っている。
***
約1カ月ぶりに王宮にやってきた私とロベール。
1カ月前にヘイズ王から「あと1件逮捕したらロベールを子爵にする」と言質をとった。約束を反故にしないことを期待しながら、私は王との謁見の間に入った。
王との謁見の間に入った私とロベールは、ヘイズ王の前に跪(ひざまず)く。
目の前に座っているヘイズ王は「久しぶりだね、マーガレット」と私に声を掛ける。
私のウィリアムズ公爵家は王族から派生した家。だから、ヘイズ王と私は親戚関係にある。
私からすれば「親戚のおじさん」なのだが、王宮の関係者が同席しているから無礼な発言はできない。
「この度もご苦労であった」とヘイズ王は私とロベールに言った。
「有難きお言葉!」と私とロベールは返す。
「それにしても、詐欺被害者がこんなにいたとは……。この国の女性はロマンスに憧れているのだな」
「憧れもあるのでしょうけど……手紙の書き方が上手くて、心優しいヘイズ王国の女性は助けてあげたいと思ってしまったようです」
「ほう……そんなにか?」
「ええ。とはいえ、ロマンス詐欺は女心を弄ぶ卑劣な犯罪です」
「そうだな」
そんなこともより、ロベールが子爵になれるかどうかを確認しないといけない。
「ところで、ロベールはこの件で子爵になれますか?」
「相変わらずせっかちだな。この前、あと1件必要だと言ったのだから問題ない。今回は子爵にしよう」
「それでは」とヘイズ王は言うと、側使いに書類を持ってこさせた。
ヘイズ王は書類に目を通して言った。
「ロベール・ル・ヴァクト、そなたに子爵の爵位を授ける」
ヘイズ王はそう宣言すると書面をロベールに渡した。
「やったーーーーー!」
そう言いながら私はロベールに抱き着いた。
「ちょっと、デイジー」とロベールは困ったような声を出した。
「いいの。今はいいの!」と私はロベールに返す。
「うぉっほん! ちょっと、そういうのは後でやってもらえんかな……」
ヘイズ王は困ったように私に言った。
何はともあれ、これでロベールは子爵になった。
私たちはその後しばらく談笑した後、王宮を後にした。
***
王宮から出たところで黒猫マリオがやってきた。
「デジちゃん、うまくいったの?」
「ええ、バッチリよ!」
私は笑顔でマリオを抱き上げた。
二人と一匹は晴れやかな気分で帰り道を歩いている。
その時、王宮へ向かう馬車が猛スピードで私たちの至近距離を駆けていった。
「あぶない!」と私を庇うロベール。
相変わらずロベールは優しい。
私が振り向いたらロベールの顔が近くにあった。私の唇とロベールの唇が近づく。
30センチ……20センチ……10センチ……
「お腹減ったニャー!」
――また、お前か!
晩ご飯抜きだな……
とにかく、ロベールを子爵にすることができた。次は伯爵だ。
こうして、恋をした
子爵に出世させたから、今度は伯爵に
出世させることにした。<おわり>
【後書き】
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
この物語は『恋をした公爵令嬢は貧乏男爵を子爵に出世させたから、今度は伯爵に出世させることにした』に続くかもしれません。