第15話 マリア様、お願いです。私たちをお救い下さい!
文字数 2,531文字
私たちがアジトへの潜入方法を話し合っていたら、ルッツがやってきた。女の人を連れている。
「その人はルッツのお母さん?」と私が聞いたら、「違う」とぶっきらぼうにルッツは答えた。
あぁそうだ。ルッツは孤児だったのを忘れていた。変なことを聞いちゃったな……
少し反省する私。
私は気を取り直して「その人は?」とルッツに尋ねる。
「あの建物で働いている女の人なんだけど、困ってるみたいでさ……連れてきた」
女性は私のところへ歩いてきて、手を握った。
「マリア様、お願いです。私たちをお救い下さい!」と女性は言った。
「マリア様……私は女神ではないわ」
「いえ、あなたはマリア様の生き写しです!」
既に何度もこの展開になっているのだが、この女性はマンデル共和国で信仰されている女性神マリアのことを言っている。
「マリア様ではなくて、私はマーガレットよ。あなたは?」
「ヴァレリアです」
「ヴァレリア、困ったことというのは?」
ヴァレリアは深呼吸して呼吸を整えた。
「実は……私は詐欺に加担してしまったのです」
「国際ロマンス詐欺ですね。知ってるわよ」
私が詐欺のことを知っていたことにヴァレリアは驚いたようだ。
「ご存じでしたか、さすが女神様です」
「だから、女神じゃないってば。それで、どうしたの?」
「私はヘイズ王国に住む貴族夫人や貴族令嬢に手紙を書いています。まさか、詐欺に加担することになるとは思いもよらず……」
「そうよね」
「最初は、人助けをするために手紙を書くのが仕事だと聞いていたのです」
「人助け?」
「ええ、そうです。夫を失った未亡人に生きる活力を与える。これが当初聞いていた手紙を書く理由でした」
「未亡人の生きる活力ね……」
「亡くなった夫を忘れて、新しい恋に踏み出せるように。そして、男性のふりをして手紙を書くように言われたのです」
「おかしいとは思わなかったの?」
ヴァレリアは恥ずかしそうにしながら「その時は信じていました」と言った。
「私が手紙で演じる男性は、ある本の登場人物に似せるように言われました」
「その本は『禁じられた逃避行』ですね?」
「そうです。マンデル共和国では発売していません。私はリーダーから『禁じられた逃避行』を渡されて読みました」
「どうだった?」
「感動的な話でした。特にジャネットがトムを助けるために命がけで国境を超えるところが……」
「あのシーンはいいわね! 『禁じられた逃避行』はヘイズ王国ですごい人気なの。女性はみんな読んでいるんじゃないかな」
ヴァレリアは嬉しそうに話している。
「私はトムを演じながら、手紙で何人かの女性とやり取りしました。やり取りをして女性が信頼してくれたころ、リーダーから指示がありました」
「お金を送金させろと?」
「そうです。『戦場から抜け出すためにエージェントにお金を送金してほしい』と手紙に書くように指示されました」
ヴァレリアは目を逸らした。罪悪感からだろう。
「それで、お金を送るように書いたの?」
「書き……ました。私が詐欺だと分かった時には、断れない状況になっていました。リーダープは私の家のことや交友関係を全て調べ上げていて、『誰かに話したら、家族や友人に詐欺に加担していることをバラす』と脅されました」
ヴァレリアは私の目を見て「助けて下さい!」と小さく言った。
「脅迫されたのね」
「……はい」
「仕方なかったのね」
「……うぅぅぅ」
ヴァレリアは私に抱き着いて泣き始めた。詐欺に加担している罪悪感を持ちながらも、脅迫で組織から抜けられない。彼女は辛かったのだ。
ヴァレリアを助けてあげる方法はないだろうか?
「辛かったのね……よく頑張ったわ」
「マリア様……うぅぅぅ」
しばらくしたらヴァレリアは落ち着いた。
彼女たちを救うためにも、詐欺集団の内情を聞き出さないといけない。
「他の女性も同じように脅迫されて働いているのかしら?」
「そうです。あの建物は『ロマンス工場』と呼ばれていて、100人以上の女性が詐欺組織から抜け出せずにいます」
「詐欺集団のメンバーはロマンス工場にいるのかしら?」
「メンバーは二人だけです。ロマンス工場を管理しているリーダーとその部下の女性です」
二人しかいないのに100人以上の女性を従えている。反乱を起こされたら二人では対応しようがないはずなのに、どういうことだろう?
「二人だけで100人をどうやって抑えるの?」
「えぇっと、正確には詐欺集団がマフィアの男たちを雇って警備をさせています」
「あぁ、そういうことね。そのマフィアも詐欺集団の仲間なのね」
「マフィアは警備をしているだけで詐欺集団の仕事をしていません。だから、メンバーではないと思います」
「二人以外のメンバーのことは知らない?」
「ロマンス工場では見たことがありません。ただ……」
「ただ、どうしたの?」
「リーダーは2週間に一度、ヘイズ王国に行きます。幹部に会っているようなのです」
「ヘイズ王国に?」
「はい。ヘイズ王国のガランという幹部に会いに行っているはずです」
「ガラン……幹部の名前はガランなのね」
「多分、そうだと思います。リーダーが『このままだと、ガランさんに怒られる』と言っているのを聞いたことがありますから」
「そう」
詐欺集団の幹部がヘイズ王国にいるのであれば、ロマンス工場のリーダーが会いに行くときに尾行するしかない。私はリーダーの予定をヴァレリアに確認する。
「リーダーがヘイズ王国に行くのはいつか分かりますか?」
「えぇっと、水曜日ですから、今日の午後ですね」
修学旅行は明日までだから、この機会を逃すことはできない。今日の午後リーダーを尾行すれば詐欺集団の幹部の居場所が特定できる。
ただ、私たちは修学旅行に来ているのだから、学校行事に全く参加しない訳にいかない。
「エレーヌ、ルッツを連れて尾行してくれるかしら」と私はエレーヌに指示した。
「いいですよ」とエレーヌが言って部屋を出ていこうとしたら、「私も一緒に行きます」とヴァレリアが言った。リーダーの顔を知っているヴァレリアが協力してくれるのは有難い。
これで、捜査は進展するだろう。
――それにしても、ガラン……どこかで聞いた名前ね
私は記憶を辿ったが思い出せなかった。誰だったっけ?
「その人はルッツのお母さん?」と私が聞いたら、「違う」とぶっきらぼうにルッツは答えた。
あぁそうだ。ルッツは孤児だったのを忘れていた。変なことを聞いちゃったな……
少し反省する私。
私は気を取り直して「その人は?」とルッツに尋ねる。
「あの建物で働いている女の人なんだけど、困ってるみたいでさ……連れてきた」
女性は私のところへ歩いてきて、手を握った。
「マリア様、お願いです。私たちをお救い下さい!」と女性は言った。
「マリア様……私は女神ではないわ」
「いえ、あなたはマリア様の生き写しです!」
既に何度もこの展開になっているのだが、この女性はマンデル共和国で信仰されている女性神マリアのことを言っている。
「マリア様ではなくて、私はマーガレットよ。あなたは?」
「ヴァレリアです」
「ヴァレリア、困ったことというのは?」
ヴァレリアは深呼吸して呼吸を整えた。
「実は……私は詐欺に加担してしまったのです」
「国際ロマンス詐欺ですね。知ってるわよ」
私が詐欺のことを知っていたことにヴァレリアは驚いたようだ。
「ご存じでしたか、さすが女神様です」
「だから、女神じゃないってば。それで、どうしたの?」
「私はヘイズ王国に住む貴族夫人や貴族令嬢に手紙を書いています。まさか、詐欺に加担することになるとは思いもよらず……」
「そうよね」
「最初は、人助けをするために手紙を書くのが仕事だと聞いていたのです」
「人助け?」
「ええ、そうです。夫を失った未亡人に生きる活力を与える。これが当初聞いていた手紙を書く理由でした」
「未亡人の生きる活力ね……」
「亡くなった夫を忘れて、新しい恋に踏み出せるように。そして、男性のふりをして手紙を書くように言われたのです」
「おかしいとは思わなかったの?」
ヴァレリアは恥ずかしそうにしながら「その時は信じていました」と言った。
「私が手紙で演じる男性は、ある本の登場人物に似せるように言われました」
「その本は『禁じられた逃避行』ですね?」
「そうです。マンデル共和国では発売していません。私はリーダーから『禁じられた逃避行』を渡されて読みました」
「どうだった?」
「感動的な話でした。特にジャネットがトムを助けるために命がけで国境を超えるところが……」
「あのシーンはいいわね! 『禁じられた逃避行』はヘイズ王国ですごい人気なの。女性はみんな読んでいるんじゃないかな」
ヴァレリアは嬉しそうに話している。
「私はトムを演じながら、手紙で何人かの女性とやり取りしました。やり取りをして女性が信頼してくれたころ、リーダーから指示がありました」
「お金を送金させろと?」
「そうです。『戦場から抜け出すためにエージェントにお金を送金してほしい』と手紙に書くように指示されました」
ヴァレリアは目を逸らした。罪悪感からだろう。
「それで、お金を送るように書いたの?」
「書き……ました。私が詐欺だと分かった時には、断れない状況になっていました。リーダープは私の家のことや交友関係を全て調べ上げていて、『誰かに話したら、家族や友人に詐欺に加担していることをバラす』と脅されました」
ヴァレリアは私の目を見て「助けて下さい!」と小さく言った。
「脅迫されたのね」
「……はい」
「仕方なかったのね」
「……うぅぅぅ」
ヴァレリアは私に抱き着いて泣き始めた。詐欺に加担している罪悪感を持ちながらも、脅迫で組織から抜けられない。彼女は辛かったのだ。
ヴァレリアを助けてあげる方法はないだろうか?
「辛かったのね……よく頑張ったわ」
「マリア様……うぅぅぅ」
しばらくしたらヴァレリアは落ち着いた。
彼女たちを救うためにも、詐欺集団の内情を聞き出さないといけない。
「他の女性も同じように脅迫されて働いているのかしら?」
「そうです。あの建物は『ロマンス工場』と呼ばれていて、100人以上の女性が詐欺組織から抜け出せずにいます」
「詐欺集団のメンバーはロマンス工場にいるのかしら?」
「メンバーは二人だけです。ロマンス工場を管理しているリーダーとその部下の女性です」
二人しかいないのに100人以上の女性を従えている。反乱を起こされたら二人では対応しようがないはずなのに、どういうことだろう?
「二人だけで100人をどうやって抑えるの?」
「えぇっと、正確には詐欺集団がマフィアの男たちを雇って警備をさせています」
「あぁ、そういうことね。そのマフィアも詐欺集団の仲間なのね」
「マフィアは警備をしているだけで詐欺集団の仕事をしていません。だから、メンバーではないと思います」
「二人以外のメンバーのことは知らない?」
「ロマンス工場では見たことがありません。ただ……」
「ただ、どうしたの?」
「リーダーは2週間に一度、ヘイズ王国に行きます。幹部に会っているようなのです」
「ヘイズ王国に?」
「はい。ヘイズ王国のガランという幹部に会いに行っているはずです」
「ガラン……幹部の名前はガランなのね」
「多分、そうだと思います。リーダーが『このままだと、ガランさんに怒られる』と言っているのを聞いたことがありますから」
「そう」
詐欺集団の幹部がヘイズ王国にいるのであれば、ロマンス工場のリーダーが会いに行くときに尾行するしかない。私はリーダーの予定をヴァレリアに確認する。
「リーダーがヘイズ王国に行くのはいつか分かりますか?」
「えぇっと、水曜日ですから、今日の午後ですね」
修学旅行は明日までだから、この機会を逃すことはできない。今日の午後リーダーを尾行すれば詐欺集団の幹部の居場所が特定できる。
ただ、私たちは修学旅行に来ているのだから、学校行事に全く参加しない訳にいかない。
「エレーヌ、ルッツを連れて尾行してくれるかしら」と私はエレーヌに指示した。
「いいですよ」とエレーヌが言って部屋を出ていこうとしたら、「私も一緒に行きます」とヴァレリアが言った。リーダーの顔を知っているヴァレリアが協力してくれるのは有難い。
これで、捜査は進展するだろう。
――それにしても、ガラン……どこかで聞いた名前ね
私は記憶を辿ったが思い出せなかった。誰だったっけ?