第12話 詐欺組織に潜入しよう!
文字数 2,648文字
私は捜査会議を再開した。
「詐欺集団は手紙を書く人を一般募集している。だから、エレーヌは手紙を書いている女性は詐欺集団のメンバーじゃない、と考えているわけね?」と私はエレーヌに確認する。
「そうです。詐欺集団はいくらお金を払っても、優秀な人材を集めたいんですよ」
「国際ロマンス詐欺には高度な文章力が要求されるしね」
「その通りです。それに、『面接時に貴女の想う人への恋文をお持ち下さい』って書いてあります」
「へー、どれだけ相手に伝わる恋文を書けるか、審査するんだ……」
詐欺集団は外部から優秀な人材を募集している。
手紙だけで相手を信用させてお金を送金するわけだから、書き手は相当な技量が必要になる。つまり、この詐欺集団のアジトで働いている女性は才女だ。
本来であれば、こんな犯罪組織でその才能を発揮する必要はないはずなのに。
私は今まで経験したことのない詐欺集団の組織形態に戸惑っている。
「指揮命令系統がどうなってるか分からないし、実行部隊は外部から募集しているなんて……変な組織ね」
「そうですね。私もこんな犯罪組織を見たことがありません」
「それにしても……先にどういう組織か調べる必要がありそうね」
「組織を調べるんですか?」とエレーヌは不満そうだ。
面倒だから、全員逮捕すればいいと考えているのだろう。
「だって、本当にアジトに詐欺集団のメンバーがいるのか分からないでしょ。それに、アジトの女性を逮捕しても、その間に幹部が高飛びする可能性がある」
「確かに、ほとんどの組織の幹部はアジトにいないでしょうね」
「だから、詐欺集団の幹部を逮捕するためには、組織を調べないといけないでしょ?」
「そう……ですね」
エレーヌは荒っぽい考えを改めたようだ。そのエレーヌは少し考えてから私に提案した。
「室長、いいアイデアを思いつきました!」
「どういうアイデア?」
「この求人に申し込んで潜入するのはどうです?」
「えぇ? 私たちが詐欺集団の下で働くの?」
「潜入捜査というやつですよー。カッコイイでしょ」
詐欺集団の組織を探るために潜入捜査が必要なのは分かる。
だが、潜入するためには詐欺集団の採用試験を受けないといけない。それが気に食わない。
犯罪者に試されるのは屈辱的だし、それに、恋文を書かないといけないのも嫌だ。
「潜入捜査は分かる。分かるんだけど、恋文書かないといけないんでしょ。やだな……」
弱気な私を見たエレーヌは「フッ」と鼻で笑った。
イラっとした私。「何が可笑しいの?」とエレーヌに言った。
エレーヌは半笑いで「ひょっとして、自信がないんですか?」と私に言った。
――私には恋文が書けないと?
姉妹なんだろうけど、エレーヌの言い方はミシェルとそっくりだ。
私をイライラさせる。
「自信はあるわよ。そんなことを言うエレーヌは自信あるのかしら?」
「もちろん! 恋愛マスターの私にそれは愚問ですよ」
――恋愛マスター?
初耳だが、エレーヌは「恋愛に長けた者である!」と言いたいのだろう。
つまり、恋愛マスターとは……
恋愛の全てを知り、恋愛をこよなく愛し、恋愛と共に生きるもの。
多分、こんなイメージだ。あってるよね?
恋愛マスターは公爵令嬢である私にこそ相応しい称号。
とすると……エレーヌに負ける訳にはいかない。
「あら? あなたが恋愛マスターですって? そんなわけないでしょ!」
「ふっ、おかしなことを言いますね。じゃあ、誰が恋愛マスターなんですか?」
両手を広げて雄弁に語るエレーヌ。
しかし、これは公爵令嬢としてのプライドを賭けた戦いだ。エレーヌなんかに負ける訳にはいかない。
「当然、恋愛マスターは公爵令嬢の私です!」
「いやいや、私ですよ。ほらっ、この完璧なプロポーション、どうです?」
「恋愛マスターに胸の大きさは関係ない」
「関係ありますって!」
胸を鷲づかみにして語るエレーヌ。私よりもスタイルがいいと自慢したいのか?
「いいえ、関係ないわ! 恋愛マスターとは恋愛の全てを知り、恋愛をこよなく愛し、恋愛と共に生きるもの……」
「何を言ってるんですか? 頭大丈夫ですかー?」
本当にイライラする。消し炭に……ダメだ、ダメ。
こうなったらしかたない。
私とエレーヌのどちらが恋愛マスターなのか、犯罪組織の試験で勝負するしかない!
「そこまで言うのなら、勝負よ! 私とエレーヌ、どちらが恋愛マスターなのか、ハッキリさせようじゃないの!」
「いいですよ。室長が負けて悔し泣きする姿が想像できるわー」
私とエレーヌのやり取りを横でニヤニヤしながら見ていたミシェル。
ミシェルも恋愛マスター決定戦に興味があるようだ。
「私も! 私もやる!」とミシェル。
「あなたも恋愛マスター決定戦に参戦したいの?」と私はミシェルに尋ねる。
「当然! どう考えても私が恋愛マスターです」
「ミシェルが恋愛マスター?」
「そうです。なのに、私を差し置いて二人で恋愛マスターを決定するなんて……私が参加しない理由がありませんよね?」
「ミシェル、お前が入ってくると、話がややこしくなるだろ!」とエレーヌ。
半笑いのミシェルは私のところへやってきた。何か嫌なことを言う目をしている。
「お嬢様が恋愛マスター? ないない!」
「なんですって!」
「だって、お嬢様が恋愛マスターのわけがないでしょ」
「なんでよ?」
「まず、ロベール様に告らせようしたのに、自分から告ってしまった。これは恋愛マスターにあるまじき行為です」
「うるさいわね……たまたま……たまたまよ」
「たまたま、告ってしまった? ウケるわー」
「ミシェル、口を慎みなさい!」
忘れている人もいると思うが、さっきから一言も発しないロベール。
かなり気まずいのだろう。
ミシェルは次の標的を見つけた。ニヤニヤしながらエレーヌの方へ歩いていく。
「お姉が恋愛マスターというのもないなー」
「うるさい!」
「まず、センスがない」
「なんでセンスがないんだよ?」
「うーん、そうね。私の服ばっかり着てるよね?」
「それは……たまたまだな」
「それに、気になってる同僚の刑事をデートにどうやって誘うか、私に聞いてきたよね?」
「まぁ……そういうこともあったな」
ミシェルは私とエレーヌに向かって言った。
「恋愛マスターは私! 二人とも私が勝ったら私のことは『恋愛マスター』と呼んでくださいね」
「うっせー、死ねー!」
「侍女のくせに生意気なーー!」
こうして私たち3人の恋愛マスター決定戦が開始されることとなった。
これも潜入捜査の一環だ……多分。
「詐欺集団は手紙を書く人を一般募集している。だから、エレーヌは手紙を書いている女性は詐欺集団のメンバーじゃない、と考えているわけね?」と私はエレーヌに確認する。
「そうです。詐欺集団はいくらお金を払っても、優秀な人材を集めたいんですよ」
「国際ロマンス詐欺には高度な文章力が要求されるしね」
「その通りです。それに、『面接時に貴女の想う人への恋文をお持ち下さい』って書いてあります」
「へー、どれだけ相手に伝わる恋文を書けるか、審査するんだ……」
詐欺集団は外部から優秀な人材を募集している。
手紙だけで相手を信用させてお金を送金するわけだから、書き手は相当な技量が必要になる。つまり、この詐欺集団のアジトで働いている女性は才女だ。
本来であれば、こんな犯罪組織でその才能を発揮する必要はないはずなのに。
私は今まで経験したことのない詐欺集団の組織形態に戸惑っている。
「指揮命令系統がどうなってるか分からないし、実行部隊は外部から募集しているなんて……変な組織ね」
「そうですね。私もこんな犯罪組織を見たことがありません」
「それにしても……先にどういう組織か調べる必要がありそうね」
「組織を調べるんですか?」とエレーヌは不満そうだ。
面倒だから、全員逮捕すればいいと考えているのだろう。
「だって、本当にアジトに詐欺集団のメンバーがいるのか分からないでしょ。それに、アジトの女性を逮捕しても、その間に幹部が高飛びする可能性がある」
「確かに、ほとんどの組織の幹部はアジトにいないでしょうね」
「だから、詐欺集団の幹部を逮捕するためには、組織を調べないといけないでしょ?」
「そう……ですね」
エレーヌは荒っぽい考えを改めたようだ。そのエレーヌは少し考えてから私に提案した。
「室長、いいアイデアを思いつきました!」
「どういうアイデア?」
「この求人に申し込んで潜入するのはどうです?」
「えぇ? 私たちが詐欺集団の下で働くの?」
「潜入捜査というやつですよー。カッコイイでしょ」
詐欺集団の組織を探るために潜入捜査が必要なのは分かる。
だが、潜入するためには詐欺集団の採用試験を受けないといけない。それが気に食わない。
犯罪者に試されるのは屈辱的だし、それに、恋文を書かないといけないのも嫌だ。
「潜入捜査は分かる。分かるんだけど、恋文書かないといけないんでしょ。やだな……」
弱気な私を見たエレーヌは「フッ」と鼻で笑った。
イラっとした私。「何が可笑しいの?」とエレーヌに言った。
エレーヌは半笑いで「ひょっとして、自信がないんですか?」と私に言った。
――私には恋文が書けないと?
姉妹なんだろうけど、エレーヌの言い方はミシェルとそっくりだ。
私をイライラさせる。
「自信はあるわよ。そんなことを言うエレーヌは自信あるのかしら?」
「もちろん! 恋愛マスターの私にそれは愚問ですよ」
――恋愛マスター?
初耳だが、エレーヌは「恋愛に長けた者である!」と言いたいのだろう。
つまり、恋愛マスターとは……
恋愛の全てを知り、恋愛をこよなく愛し、恋愛と共に生きるもの。
多分、こんなイメージだ。あってるよね?
恋愛マスターは公爵令嬢である私にこそ相応しい称号。
とすると……エレーヌに負ける訳にはいかない。
「あら? あなたが恋愛マスターですって? そんなわけないでしょ!」
「ふっ、おかしなことを言いますね。じゃあ、誰が恋愛マスターなんですか?」
両手を広げて雄弁に語るエレーヌ。
しかし、これは公爵令嬢としてのプライドを賭けた戦いだ。エレーヌなんかに負ける訳にはいかない。
「当然、恋愛マスターは公爵令嬢の私です!」
「いやいや、私ですよ。ほらっ、この完璧なプロポーション、どうです?」
「恋愛マスターに胸の大きさは関係ない」
「関係ありますって!」
胸を鷲づかみにして語るエレーヌ。私よりもスタイルがいいと自慢したいのか?
「いいえ、関係ないわ! 恋愛マスターとは恋愛の全てを知り、恋愛をこよなく愛し、恋愛と共に生きるもの……」
「何を言ってるんですか? 頭大丈夫ですかー?」
本当にイライラする。消し炭に……ダメだ、ダメ。
こうなったらしかたない。
私とエレーヌのどちらが恋愛マスターなのか、犯罪組織の試験で勝負するしかない!
「そこまで言うのなら、勝負よ! 私とエレーヌ、どちらが恋愛マスターなのか、ハッキリさせようじゃないの!」
「いいですよ。室長が負けて悔し泣きする姿が想像できるわー」
私とエレーヌのやり取りを横でニヤニヤしながら見ていたミシェル。
ミシェルも恋愛マスター決定戦に興味があるようだ。
「私も! 私もやる!」とミシェル。
「あなたも恋愛マスター決定戦に参戦したいの?」と私はミシェルに尋ねる。
「当然! どう考えても私が恋愛マスターです」
「ミシェルが恋愛マスター?」
「そうです。なのに、私を差し置いて二人で恋愛マスターを決定するなんて……私が参加しない理由がありませんよね?」
「ミシェル、お前が入ってくると、話がややこしくなるだろ!」とエレーヌ。
半笑いのミシェルは私のところへやってきた。何か嫌なことを言う目をしている。
「お嬢様が恋愛マスター? ないない!」
「なんですって!」
「だって、お嬢様が恋愛マスターのわけがないでしょ」
「なんでよ?」
「まず、ロベール様に告らせようしたのに、自分から告ってしまった。これは恋愛マスターにあるまじき行為です」
「うるさいわね……たまたま……たまたまよ」
「たまたま、告ってしまった? ウケるわー」
「ミシェル、口を慎みなさい!」
忘れている人もいると思うが、さっきから一言も発しないロベール。
かなり気まずいのだろう。
ミシェルは次の標的を見つけた。ニヤニヤしながらエレーヌの方へ歩いていく。
「お姉が恋愛マスターというのもないなー」
「うるさい!」
「まず、センスがない」
「なんでセンスがないんだよ?」
「うーん、そうね。私の服ばっかり着てるよね?」
「それは……たまたまだな」
「それに、気になってる同僚の刑事をデートにどうやって誘うか、私に聞いてきたよね?」
「まぁ……そういうこともあったな」
ミシェルは私とエレーヌに向かって言った。
「恋愛マスターは私! 二人とも私が勝ったら私のことは『恋愛マスター』と呼んでくださいね」
「うっせー、死ねー!」
「侍女のくせに生意気なーー!」
こうして私たち3人の恋愛マスター決定戦が開始されることとなった。
これも潜入捜査の一環だ……多分。