第3話

文字数 574文字

 エレベーターのボタンを押し、しばらく待つと扉が開いた。入れ違いでゴミを持った住民が出ていく。小夜のマンションには大きなゴミ置き場があり、住民ならいつでもゴミを捨てることができるのだ。小夜は、きれいな物が好きで、汚いものは嫌いだ。家にゴミを置いておかなくて済むので、小夜も重宝している設備だ。

 小夜は最上階までエレベーターで上がった。上昇するスピードがデパートのエレベーターなどに比べてもとても早いので、24階まですぐに着く。エレベーターにつきものの浮遊感もほとんど感じない。

 小夜はエレベーターから降りたものの、その場で足を止めた。ハードロックというのだろうか? ボーカルがシャウトしている音楽が、小夜の部屋の隣室から廊下に漏れ出ているのだ。

 小夜は赤い唇をキュッと閉じた。これだから、嫌だったのよ、と思う。やはりどこかのホテルに泊まって、帰って来なければよかった。

 小夜が玄関の鍵を開けるために虹彩認証カメラに瞳を映していると、隣の部屋のドアが大きく開いた。廊下に爆音が響く。とつぜんの大きな音に、小夜はキャッと小さな悲鳴をあげて、耳を塞いだ。小夜は耳がいいのだ。

「おい、やっぱ、美人だぜ!」とドアから男が顔をのぞかせた男が、部屋の中に向かって叫ぶ。部屋の中からは「もういいでしょ、ドアを閉めてよ。音が漏れちゃうから」と家主の男が注意している。
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