第2話

文字数 481文字

 けれど泊まるつもりだったので、すでに時刻は終電ギリギリ。小夜が最寄り駅の高森(こうもり)駅に着いたときには、すでに深夜だった。

駅から小夜の住むタワーマンションまでは、直線距離なら500メートルほどだが、駅とマンションの間にある公園を迂回すると、1キロほどの距離になる。お泊りグッズの入った大きなバッグを持って1キロの距離を歩くのは面倒だ。
 それに小夜は自分の名前に夜が入っているせいもあって、夜の闇は嫌いじゃなかった。小夜は迷わず公園の散歩道に足を踏み入れた。

 街灯は消えてしまったが、大きな満月が小夜の足元を照らしてくれている。月明かりは、街灯の灯りよりも小夜に力を与えてくれた。重い荷物も先程よりもぐんと軽く感じる。

 とはいえ、7月も終りとなると夜中でもまだかなり暑い。むっとするような濃厚な空気が体にまとわりつく。

「きっと家に帰っても、休まらないんだろうな……」

 小夜は小さくため息をついて眉をひそめた。しかし蒸し暑さもゆがめた眉も、月明かりに浮かび上がる小夜の美しさを損なうことはまったくない。十分後には、小夜は汗の一滴も浮かべることなく、マンションに着いていた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み