第6話
文字数 1,053文字
小夜はキッと男の血走った目をにらんだ。小夜の目が昏く光ると、唾を飛ばして喋っていた男は、口をだらしなくあけたまま動かなくなった。小夜は男の腕からするりと抜け出した。
「おい、スタンガンでも使いやがったのか?」
それまでニヤニヤしていた男達が、慌てた様子で立ち上がって、小夜に飛びかかってきた。いや、正確には、飛びかかろうとしたのだが、小夜の昏い瞳ににらまれると、電池の切れたおもちゃみたいに、動かなくなった。
小夜は満足そうにうなずくと、棒のように突っ立っている男達を、ひとりひとり吟味するように眺めた。小夜の口からはみ出した白い牙が首筋をかすめても、体が動かなくなった男達は、瞳だけを左右にキョロキョロと動かすことしか出来ない。
小夜は床に座り込んでいた家主の男を見つけると、やさしく微笑んだ。
「ねえ、カーテンを開けてくれない?」
「は、はいっ」
その瞬間、家主の男は自分の主人が、男達から小夜に変わったことを理解したようだ。そして粗野な男達に利用されるよりも、小夜にかしづくほうがずっといい、と思ったのか、まるで執事になったような身のこなしで、すばやくカーテンを開けた。
月明かりが部屋に満ちる。
ハードロックが停止し、かわりにバッハが小さな音量で流れ出した。家主の男が、小夜の気に入るように音楽を変えたのだ。
小夜はソファから動いていない少女の瞳をのぞきこんだ。少女はとろんとした目で小夜を見返した。
「家にお帰り。今日のことは忘れること。それからもう一つ……知らない男について行くなんてバカな事しちゃダメ」
少女はふらりと立ち上がると、おぼつかない足取りではあるが、迷いなく玄関を出て行った。
小夜は最初の男に、軽やかな足取りで近づいた。
「あーあ、放っておくつもりだったのに。でもこれはどちらかというと、公共事業とも言えるんじゃない? 騒音とゴミの片付け、そして犯罪を未然に予防したんだもん」
「ぼ、僕も救ってもらいました」
小夜は隣人を振りかえった。そしてしばらく考えていたが、「そうね。それじゃあ、あなた、お片付けしてくれる?」というとにっこり笑った。
小夜が話すたび、形のいい唇から、真っ赤な舌がちらちらとのぞいている。家主の男はゴクリと喉を鳴らしてうなずいた。
「ぼ、僕、月曜日が定休日なんですけど、第五日曜日は休みなんです」と早口で言った。
「第五日曜日と次の日の月曜日は、連休になるってことね。そっか。だからだったんだね」と小夜は納得した、というようにうなずいた。
「助かるわ。片付け、嫌いなのよ」
「おい、スタンガンでも使いやがったのか?」
それまでニヤニヤしていた男達が、慌てた様子で立ち上がって、小夜に飛びかかってきた。いや、正確には、飛びかかろうとしたのだが、小夜の昏い瞳ににらまれると、電池の切れたおもちゃみたいに、動かなくなった。
小夜は満足そうにうなずくと、棒のように突っ立っている男達を、ひとりひとり吟味するように眺めた。小夜の口からはみ出した白い牙が首筋をかすめても、体が動かなくなった男達は、瞳だけを左右にキョロキョロと動かすことしか出来ない。
小夜は床に座り込んでいた家主の男を見つけると、やさしく微笑んだ。
「ねえ、カーテンを開けてくれない?」
「は、はいっ」
その瞬間、家主の男は自分の主人が、男達から小夜に変わったことを理解したようだ。そして粗野な男達に利用されるよりも、小夜にかしづくほうがずっといい、と思ったのか、まるで執事になったような身のこなしで、すばやくカーテンを開けた。
月明かりが部屋に満ちる。
ハードロックが停止し、かわりにバッハが小さな音量で流れ出した。家主の男が、小夜の気に入るように音楽を変えたのだ。
小夜はソファから動いていない少女の瞳をのぞきこんだ。少女はとろんとした目で小夜を見返した。
「家にお帰り。今日のことは忘れること。それからもう一つ……知らない男について行くなんてバカな事しちゃダメ」
少女はふらりと立ち上がると、おぼつかない足取りではあるが、迷いなく玄関を出て行った。
小夜は最初の男に、軽やかな足取りで近づいた。
「あーあ、放っておくつもりだったのに。でもこれはどちらかというと、公共事業とも言えるんじゃない? 騒音とゴミの片付け、そして犯罪を未然に予防したんだもん」
「ぼ、僕も救ってもらいました」
小夜は隣人を振りかえった。そしてしばらく考えていたが、「そうね。それじゃあ、あなた、お片付けしてくれる?」というとにっこり笑った。
小夜が話すたび、形のいい唇から、真っ赤な舌がちらちらとのぞいている。家主の男はゴクリと喉を鳴らしてうなずいた。
「ぼ、僕、月曜日が定休日なんですけど、第五日曜日は休みなんです」と早口で言った。
「第五日曜日と次の日の月曜日は、連休になるってことね。そっか。だからだったんだね」と小夜は納得した、というようにうなずいた。
「助かるわ。片付け、嫌いなのよ」