第一話 お空の上のずっとずっと高くから

文字数 1,043文字

 僕は、産まれる前の「いのち」です。

 僕たち「いのち」は、自分でお母さんを見つけないと、産まれることは出来ません。でも、どうしても必要な「理由」がある場合は、特別に神様が認めてくれることもあるのです。
 と言うのも、実は、僕が産まれた時も、まさにそんな感じだったのです。



 お空の上の、ずっとずっと高くにある世界から、僕はその日も一人の少女を見ていました。彼女のことが気になるようになって、もう二ヶ月になります。本当は、自分のお母さんになるべき人を探さないといけないのに、僕は毎日少女のことばかり見守っていました。

 少女は、小学四年生です。今は、不幸のどん底にいました。学校ではイジメられ、家に帰ってもひとりぼっち。
 お父さんは、ずっといないようです。お母さんと二人きりで、吹けば飛びそうなボロボロの平屋に住んでいました。

 少女は、毎日学校から帰ると、縁側に座り、本を読みました。
 台所のテーブルには、お母さんからの手紙と、オヤツと夕食が置いてあります。手紙には、いつも同じようなことしか書いていません。








 




 少女のお母さんは、お昼過ぎから仕事に出掛けるので、少女とは滅多に会えません。
「飲み屋」というところで働いているそうで、毎日午後の三時半頃に出掛け、次の日の朝早く、まだ夜みたいに暗い時間に帰ってくるのです。

 手紙を読んだ少女は、この日も本を片手に縁側へ向かいました。そこは、少女にとって、唯一の心が休まる場所でした。ほとんど手入れされていない猫の額ほどの庭と向き合い、自然に触れ、季節の移ろいを感じました。
 小さな世界ですが、彼女はそこを愛していました。虫や花や鳥達も、風や雨や土さえも、少女は縁側から見える全てを慈しみ、本能的に接し方を知っていたのです。

 少女は、このお気に入りの場所で、本の世界に生きようとしていました。本の中は、縁側よりも、もっともっとステキな夢と愛に満ち溢れた大きな世界なのです。
 空想と現実の区別が付かなくなるぐらい、少女は本に熱中しました。魔法を使い、お姫様になり、動物とお喋りをして、外国に出掛け、時には宇宙まで旅をしたのです。

 しかし、空想の世界はいつまでも続きません。ふと気付くと、いつも淋しい日常の中にひとりぼっちです。
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