第三話 ちっぽけなシャム猫でした

文字数 759文字

 僕は、少女の笑顔が見たくて、少女に心から笑って欲しくて、その為に何か出来ることはないだろうかと常に考えていました。もっとも、何も思い浮かびませんし、何も出来ることはないのですが。
 そんなある日のことです。学校から帰宅した少女は、その日も図書室で借りた本を手に縁側に直行しました。何時もの場所に腰掛けて、本を読み始めました。普段通りの行動で、何も変わりはありません。

 しかし、その時です。
 お庭の隅っこに植えてある金柑の木の根元から、仔猫がひょっこりと顔を出したのです。おそらく、生後三ヶ月にも満たない、何とも頼りない仔猫です。全身白色を基調としつつも、耳と尻尾、そして後脚が黒く、お顔も鼻の周りから目に掛けて、薄っすらと黒味掛かっています。
 スラリとした体型の、ちっぽけなシャム猫でした。

 飼い猫の子どもが逃げ出してしまったのでしょうか、或いは、お母さんや兄弟達とはぐれてしまった野良猫でしょうか、オドオドと警戒しながら、少女の様子を見ているようです。心ない人に捨てられた可能性も含めて、この子が何故ここにいるのか、何処からやって来たのか、真相は僕には分かりません。

 少女は、直ぐに仔猫に気付いたようです。大好きな読書を中断し、裸足のままお庭にそっと降り、小さく屈んで「こっちにおいで」と呼び掛けています。
 仔猫は、恐る恐る歩みを進めます。そして、少女がニコッと笑うと、不思議と仔猫の警戒心が解けたようです。
 ソロソロと、少女のすぐ側まで来ました。少女がそっと仔猫の顎を撫ぜると、ウットリと気持ち良さそうに目を閉じました。
「こんにちは、シロちゃん」
 もう、仔猫はすっかり少女を信用したようです。少女の足元に、身体を擦り付けています。
「喉乾いてるでしょ? ちょっと待っててね!」
 そう言うと、少女は台所へ向かいました。
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