第3話

文字数 2,313文字

そこから、ちょっとして、小田原について、私は沼津行きに乗り換える。米原まではずっと東海道本線に乗っていくのだが、その間で行き先をどんどん延長するように乗り換えをしていく。同じ路線だけど、なんだかちょっと違って、それが面白くなった。乗り換えても電車はそこそこ空いていて、ひきつづきボックス席を独り占めしていた。でも、七時を過ぎると、流石に街も起きて、人々が活動し始めるみたいだ。時間が経つにつれて、少しずつ人が増え始める。ボックス席を独り占めしているのも、徐々に人の目が怖くなってきて、縮こまって座っていたらあっという間に周りに人が座って、私はまたイヤホンをつけて、本を読み始めた。ふと景色を見るとそれはもう東京や神奈川のそれとは全く違って、新鮮な気持ちになった。駅の周りは、栄えてるなーと思うけれど、自分の家の近くの駅とは雰囲気が全く違って、と言うかこっちの方が過ごしやすそうだと思ってしまった。うちの家の近くにはお安いスーパーはないし、松屋しかない。あとはお弁当屋さんがあるけど。ここだったらマクドナルドもモスバーガーもある。パラダイスかなと思った。本当は体に悪いものとかいっぱい食べたいし、正直あのマクドナルドのポテトは人を虜にする麻薬が入っていると思う。東京から離れるにつれて、駅と駅の間がちょっと長いところが増えてきて、景色はより、大都市感をなくしている。

大学生になって、自分が昔思っていたよりもまだ自分自身が子供であると言うことと、それとともになんだか成長している自分がそこにいる現実に対する驚きと恐れを同時に感じている。高校生の頃にまさか自分が夜寝られなくて、朝に寝て、学校に全く行けなくなって、始発くらいの電車で岡山まで鈍行に乗って旅するなんて思わなかっただろうなと思う。私はどんな時も進級・進学することが楽しみでたまらなくて、その先には薔薇色の世界が待っていると信じて疑わなかった。だから、卒業式ではいつも笑顔だったし、ウキウキワクワクした表情を浮かべていたことだろう。友達がどんなに泣いていても何も感じなかった。それくらい卒業するころになるとその学校自体が、ある種の嫌悪感を持って認識されていた。担任教師は毎回ハズレだったし、嫌いだった。高校時代なんて最悪だった。3年間同じ担任教師で、大嫌いな英語の教師だった上に、私はなんだか目の敵にされていたようにしか思えない。クラスも最悪だった。上っ面だけすごく仲良さそうだけど内情にははっきりとしたクラスカーストがあって、可愛い女とかっこいい男が強くて、私みたいなヲタクに人権はなかった。私はただ少しだけ勉強ができただけで、それ以外なんの取り柄もなかった。しかし、よくよく思い出すと、私は高校時代も徐々に高校に行けなくなっていたような気がする。まあ、ある程度、話のできる友達はいたし、部活動がまだ心の拠り所だったこともあって、不登校にはならなかったけれど、年々遅刻の回数は増えたし、1時間目を丸々すっぽかしたこともあった。面談では毎度、もうちょっと早く家を出なさいと言われたけど、私はどう頑張っても早く起きることと家を出ることができなかった。間に合うと仲のいい友達は笑顔で「なんで朝からいるの」と言ったものだ。これは私が大学に行けなくなる兆候だったのかもしれないなと思った。

一人になるとこう言うようなことをうだうだと考えてしまうなと思っていると、また少しずつ人が少なくなってきて、私はボックス席をまた独り占めできた。

私は、小説を読むのが好きだ。それは私が、どことなく現実に嫌気がさして現実逃避を続けていたからかもしれないし、中学時代や高校時代に好きな本を好きなだけ読んでいい環境だったからかもしれない。図書館の蔵書が豊富で、好きな作家の本はほとんど置いてあったし、新刊も欲しいと言えばすぐに買ってくれた。これは大学に入ってからも変わらなくて、それに加えて、大学に入ったら漫画までも置いてあるようになって、より蔵書が豊富になった。

私は、静岡で電車を乗り換えたあと、少し、眠気を感じたので、スマートフォンでアラームをかけて、豊橋まで大体2時間くらい寝ることにした。豊橋に着く頃には、なんだかお腹が空いてきて、電車を乗り換えて席に座ったあと、私はあまりいいことではないとわかっていながらも、電車の中で池袋駅で買った朝ご飯とも昼ご飯ともわからないおにぎりを頬張った。いつの間にか全く東京の匂いはしなくなっていて、私は、全く知らない土地に来てしまったと、地に足がつかない感覚に陥って、少し不安になった。そこから先の道では、誰にも話しかけられることはなかった。列車はいつの間にか名古屋を超えて、大阪を超えて、神戸を超えて、岡山へと何も起こらずに、粛々と私を運んで、私も粛々と乗り換えをした。岡山に着く頃にはもうすっかり夕方になって、私は、とりあえず岡山駅に降りたてたことに満足して、そこから先の予定を全く考えていなかったことに気がついた。そうだ、瀬戸内海を見よう。私はふと思いついた自分に大きな拍手を送った。私は今まで海という海はお台場で見られる東京湾と、あとは鎌倉江ノ島で見られる太平洋くらいしか見たことがなかった。そこで、私はまた宇野という地名を思い出した。私はそこに港があることを知っていた。それ以上のことを得意のネットサーフィンで調べることを私はしなかった。とりあえず乗り換え方法を調べて急いで、列車に飛び乗った。そこでお腹がなって、そういえば朝おにぎりを食べたあと特に食事をしていないことを思い出した。宇野に着いたら海を見ながら何か食べようと決意した。
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