第1話

文字数 1,735文字

私は、自分で言うのもなんだけれど、それはもう幸せな生活を送ってきたと思う。私の家庭には全く問題がなく、至って普通だと思う。四人家族で、父親がある程度の給料を得られる大企業に勤めているから、母親はほぼ専業主婦で、自分の楽しみのために時々パートに行って、みたいな生活をしている。弟は料理人になるんだと言って専門学校に行き、私よりも二つ年下だけれど、とても将来が見えていて頼もしい。そして私は、四年制大学の最終学年に、四月から進級する。でも、就活とか進学とかいろいろな道があって選ばなきゃいけない時なのはわかっているのに、まだ何がしたいのかとかが全然わからなくて、思考停止している。


世間は春休みだけど、私に遊びに行く友達はいない。それに、学校で話して一緒に授業を受けていた数少ない友達はみんな、私が一年間家に引きこもっていた間に卒業してしまった。入学した頃に知ったS N Sアカウントを見ながら、あー就職決まったんだなとか、院に行くんだなとかをこっそり確認した。

私は、大学に入学して、一年生の頃は、それはもう意識の高い系の大学生だったと思う。できること、やった方がいいことはなんでもしたし、貯金もしたし、自炊もできないなりに頑張っていた。将来につながると思ってアルバイトもめちゃくちゃにやった。でも、どう言うことか、少し経ってから、大体、大学二年生になってから、がんばるということがよくわからなくなってしまって、大学二年の終わり頃に頑張っていたアルバイトを辞めてしまった。大学へ行くことができなくなってしまって、引きこもってネットサーフィンしたり、家の近くのコンビニでアルバイトをしたりして生活していた。だから、友達はほとんど離れて行ったし、でも、それが逆に私には都合がよかった。そして、一年たって、なんとなく大学にいく気分になってきて、私は復学する予定なわけだけれども、元々そんなにアルバイトをしているわけでもないし、そもそも、なんとも言えないほど、暇とともに生きているのである。だから、こうしてボーッと、本を読んだり、映画を見たりしながら、寝るのは朝五時みたいな過ごし方をしていた。いい加減鬱になるかなと思った時にふと、なぜか旅行に出かけてみたいような気がしてきた。三月上旬の朝四時くらい、私は寝ずにボーッと本を片手にネットサーフィンをしていたわけなんだけど、ふとそんなことを思い立ってしまった。「行くか」と久しぶりに声を発して呟いて、私はさっとシャワーを浴びて、服を着替え、最低限の準備をした。最低限の荷物を持って、私はとりあえず西へと、鈍行で、電車の旅をすることに決めた。幸い、時間はあるし 、青春18きっぷという切符を使ってみたかったのもあって、これは良い機会だと思った。今はスマートフォンがあれば多分なんとかなるし、とりあえず、いつもだったら布団に入って寝ようとする頃の、朝五時前には準備を終えて、家を出た。ボーっと家から駅まで大体十分くらいの道のりを歩いて、駅に着いた頃には始発がもう直ぐ到着するところだった。エスカレーターを駆け上るとちょうど電車がホームに到着するところで、私は急いで電車に乗り込んだ。まだほとんど人が乗っていない電車で、有り余る席の中から三人がけの一番端の席を選んで座った。でも、あまり人はいないけど、こんな時間でも電車にはある程度の人が乗っているんだなと言うことを不思議に感じた。スーツをビシッと決めて、こんな朝なのに一つも眠そうな顔をしていない人、鞄を抱えてすやすや寝ている人、飲み会で朝帰りみたいな顔がパンパンの人、乗っている人を一人一人観察して、どう言う人なのか考えているとあっという間に終点の一駅前まで来ていた。終点は池袋駅である。ちょうどその時、ビシッとしているサラリーマンをじーっと見ていて訝しげな目をされたので、私は急いでスマートフォンを取り出し、とりあえず今後の乗り換えについて急いで調べた。大体十二時間くらいあれば岡山まで行けるようだ。途中で小田原とか熱海とか浜松とか観光スポットを通るみたいだけど、とりあえずは降りない方向性で、今から行けばとりあえず岡山で一泊かな、というところでとりあえず目的地は決まった。
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