第3話

文字数 1,962文字

翌朝。
クリスティーンはいつも通り学校に通い、いつも通り授業をこなした。
ただ時折眠気に襲われてはいたが。
午後の授業が始まる頃、クリスティーンのスマホが鳴った。
シュローセンからだった。
「学校が終わったら近くのコンサートホール内にある喫茶店にきてほしい」と書かれている。
クリスティーンはアンナを誘ってみたが、アンナは首を縦に降らなかった。
『本当に自分本位や奴め・・・』
クリスティーンは仕方なく、ステラさんに車の送り迎えの時間と場所を変更して欲しい旨を連絡した。
一方で、一人で行くのは、やはり気がひけるので赤毛のメアリーを誘うとメアリーは快諾してくれた。
クリスティーンはメアリーとその場所を訪れた。

コンサートホール内の喫茶店の前に着くと、シュローセンが待っていた。
「やあ、ごめんね。わざわざ足を運んでもらってしまって・・・まだこのあと練習もあってなかなか・・・」
「ああ、良いんです。そんなに気を遣わなくても・・・」
シュローセンはメアリーの存在に気づき、彼女を不思議そうにみた。
「あ!あと、こちらは私の友達のメアリーです」
メアリーはこういう社交に慣れていないのか、慌てた様子を見せた。
「は、初めましてメアリーです」
「やあ、初めまして。指揮者のシュローセンです」
「あ、あのよくコンサート雑誌で見かけてまして・・・サインを・・・」
意外にもメアリーはオーケストラが好きでよくコンサートに行ったり雑誌を見たりしているらしい。
『それで天然のメアリーがこんなに・・・』
とクリスティーンは彼女の困惑した理由を理解して一人で感心した。
「まあ、とりあえずお茶でも飲みましょうか」
シュローセンはクリスティーンたちをエスコートして席についた。
「それで、昨日の話の続きなんだけど・・・」
シュローセンは席に座ってものの数秒で表情を暗くした。
その時ウェイターがやってきた。
シュローセンは自分の恋話を聞かれたような気持ちになり、顔を赤て、
「僕はコーヒー、お二人は?」
と答えた。
「私、ココアにする。クリスティーンは?」
「わたしは、アッサムティーで」
と答えるとすぐにウェイターは後ろに下がった。
シュローセンは咳払いをして、
「それで昨日の話の続きなんだけど・・・」
と再びどんより沈んだ表情を見せた。

「最後に会った場所や何か手がかりとかないですか?」
メアリーがにこりとした表情でそう尋ねた。
天然と言われることの多いメアリーにしては上出来の質問だとクリスティーンは感心した。
「そうだね・・・やっぱり全然検討もつかない・・・」
そう言ってシュローセンはため息をついた。
メアリーが続けて質問する。
「最後に彼女と会った場所は?」
シュローセンは右上の方に目玉をギョロリ動かした。
「確か・・・僕の家だ・・・」
クリスティーンがようやくこの日初めて口を開く。
「彼女と連絡は取れたりしないですか?」
シュローセンは首を横に降った。
「連絡は何度も試みたが・・・やはり取れない・・・既読はつくけど・・・」
クリスティーンは、何かを感じたのか「ニヤリ」と片側の口角を上げた。
そこへウェイターが到着し、それぞれのドリンクをテーブルに置いて去っていった。
「それがどうかしたの?」
「既読が付くなら、まだ可能性あるんじゃないかしら?」
メアリーは身を乗り出してそう答えた。
クリスティーンは静かにうなづいた。
「可能性があるだけじゃなくて、まだなんとかなるかもしれませんね!」
「それは本当かい?」
シュローセンは勢いよく立ち上がった。
クリスティーンはまた静かにうなづいた。
「じゃ、じゃあ僕はどうすれば!」
「それを今から探っていきますね!」
少し落ち着いた顔をしてシュローセンは再び腰を下ろした。

「彼女のお名前は?」
「フランチェスカ」
「出身は?」
「ボルドーだったはず」
「裕福な感じでしたか?」
「ワイン農家の出身だから多分裕福だったと思うよ」
と言った矢先にシュローセンは首を傾げた。
「ただ、奨学金はもらっていたような・・・音大中退からは僕の部屋に住んでたけど・・・それは彼女が学生だからだしな・・・」
「ちなみにシュローセンさんは結構な資産家の出身ですよね?」
「ザクセン選帝侯時代からの貴族ではあるけど、父が彫金師として頑張ったから少しばかり裕福なだけさ。ただ僕の友達を見ると大して裕福とはいえないな・・・」
クリスティーンとメアリーは顔を見合わせて『あ、この人典型的なお金持ちタイプだ』と無言のアイコンタクトを互いに送った。
「でも、僕の祖父は戦後の東ドイツにあって非常にお金には困ったと常々言っていたよ・・・」
クリスティーンは紅茶をカップに移した。
そして紅茶のカップをすすりながら、
「じゃあ、あなたはフランチェスカさんの金銭状況は想像できるはずですよ」
と伝えた。
シュローセンは『何のこと?』というよく理解していない顔を見せた。
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