第5話

文字数 1,530文字

「ごめんなさい・・・私が提案した内容は世間をよくわかっていない子供じみた考えでした・・・ただ、彼女を見つけ出したとしても、言葉で説得できる可能性は低いでしょう。シュローセンさんもそれは理解できるはず・・・探偵なんて言われても、私もまだまだ子供で素人なんです。私がこのくらいのことしか出来なくて、あとは・・・本当に申し訳ないですが、ご自分で決断してもらうしかないです・・・本当のプロの探偵さんにお願いしてもらえると・・・」
クリスティーンはこの後の言葉もこの後どうしたのかも覚えていない。
この言葉を語っているとき、彼女は自分が無力だと悟った。
それが悔しくて悲しくて涙が洪水のようにクリスティーンに押し寄せた。
クリスティーンはそんな卑屈な自分が許せなかった。

気がつくと、家にいて、テーブルの隣にはメアリーがいた。
「ごめんね・・・私何もサポートしてあげられなくて・・・」
メアリーが優しくクリスティーンに語りかけた。
クリスティーンはまた涙が込み上げた。
「わたし・・・何も出来なかった・・・」
メアリーは首を横に強く振った。
「そんなことないよ。シュローセンさんは気に食わなかったのかもしれないけど、あなたはしっかりできることはやり遂げたと私は思う。シュローセンさんは何でも理屈で解決できると思っているけど、女の子ってそんなに単純じゃないし。私もあなたに賛成。いくら口で言ったって、行動しないと彼女さんの気持ちを動かすことはできないと思う」
クリスティーンは涙を拭った。
「でも、もっと良い方法があったかも・・・」
メアリーはクリスティーンの両方を優しく掴んだ。
「後悔はしてる?」
メアリーはそう尋ねた。
クリスティーンは数秒沈黙して、首を横に振った。
「じゃあ、良いじゃない。人間は神様じゃないんだから完璧にこなすことなんてできないんだから。やれることを精一杯やったらあとは胸を張っていれば良いのよ」
それを聞いて、クリスティーンはメアリーに抱きついた。


それから一週間が経った。
クリスティーンは喫茶店でシュローセンとあった翌日から3日間は失恋の時のような憂鬱な日々を過ごしたが、4日目以降は立ち直って、すでにいつもの日常に戻っていた。
その週末の朝、目を覚ますとやたらツイッターが騒いでいるをクリスティーンは感じた。
目を擦りながらスマホを手に取ると、
『天才指揮者、奇行に走る!』
という見出しが見えた。
クリスティーンは『何が起こっているんだろう?』と調べを進めると、
どうもシュローセンはクリスティーンの提唱した無謀なコンサートを決行すると発表したということのようだ。
あれだけ反対していたので、クリスティーンはそのニュースが信じられなかった。
ワッツアップを開くとメアリーから、
『だいぶ文句言っておきながら、やっぱりやるんだね、シュローセン(lol)』
とコメントが入っていた。
その少し後にシュローセンからも連絡が入った。
『あの時はごめん。あまり現実的ではないと思って反対したけど、そもそも失った彼女を取り戻すこと自体もファンタジーみたいなものだよね。だったらファンタジーを現実化しないといけないと思うから、君のいう通り一ヶ月後にパリでコンサートを開くことにしたよ。悪い思いをさせてしまい、申し訳ない。君と友人の分、あとご家族の分で5枚チケットと航空券を用意しておくから、よかったら観に来て』
クリスティーンは『調子の良いやつめ・・・』と思いながらも、自分の回答が何かしっかり役に立てたことを実感し、安堵を覚えた。
そして、クリスティーンは良い気分になり、またベッドに戻った。
普段はなかなかしない二度寝を彼女はすることにしたのだ。
小鳥のさえずりと優しい朝日が差し込む休日の午前に彼女は再び眠りについた。
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