6章 第19話 刺客

文字数 2,518文字

「なんで、俺がまたこいつと……」
 ルベルは地面に手をついて絶望していた。

「ちょっとルベル、もうそろそろ……」

「分かっている! 助けを求めてる女の子がいるからな」
 ルベルはそう言いながら立ち上がった。

「あの一応聞くけど、ちゃんと女の子以外も助けるんだよね?」

「分かっている! 当然だ!」
 ルベルは星辰に向かって怒鳴った。

(大丈夫かなぁ)
 星辰は不安げにルベルを見た。
 そんな中、二人は何かを感じた。

「ルベル!」

「分かっていると言っている!」
 星辰とルベルは背中合わせに武器を構えた。

「もうすでに攻撃されている……」
 星辰が小さい声で呟いた。

「ち、ファミリアの攻撃か……。どんな能力だ?」

「多分、目」

「目?」

「目で見てる情報。視覚をおかしくする能力とか……」

「ち、また、それ系の能力か。そのファミリアの能力で不意打ちとは、クスカの部下らしいな……」

「多分、その能力で、僕たち近くまで来ていたんだ……」

「それで、人数が半分になったから襲ってきたと言う訳か。面白い……。サモンファミリア」
 ルベルが自分のファミリア、デネブを呼び出した。

「デネブ。シャボンミスト!」

「イエス。マスター」
 ルベルの命令を受けたデネブが周辺にシャボン玉の霧を産み出す。あっという間に星辰とルベルの周辺が霧に包まれた。

(なんだと……)
 霧で星辰とルベルを見失った刺客はかすかに動揺した。

(所詮は相手も視覚で俺達を確認している。見えなければしばらくの間は何もできまい。おい星辰)
 ルベルは小声で星辰に呼びかけた。

(何?)

(今はごまかしているが、いずれは俺達の場所を把握される。その前に、この視覚をおかしくしている敵の本体を見つけてぶちのめせ)

(いきなり、そんな……)

(できないのか?)

(……。いや、ちょっと待って……)
 星辰がそう言って、目を静かにつぶる。

(見えた!)
 星辰はそう言う目を開きとテレポーテーションを使用して消えた。

「そこ!」
 次に姿を現した星辰は、一見すると何もないところに拳を突き出した。思ったより遠い距離に刺客はいた。テレポーテーションしたことにより、星辰とルベルの距離は思ったより離れていた。

「ぐはあ!」
 殴ったときの打撃音と共に何者かの悲鳴に似た声が聞こえた。
 この拳には、サイコキネシスの力をこめており、威力と衝撃は見かけ以上である。

「ぐ、ぐううう。ま、まさか見つかるとは」
 刺客とその刺客が操るファミリアは殴られた衝撃で姿が見える様になった。見えたと言うより正常な状態に戻ったと言うべきだろうか。

「サモン・ファミリア! レグルス。熱血モード」
 星辰は人型のレグルスを呼び出し、そのままレグルスを熱血モードにモードチェンジした。

「ま、待て、待った!」
 星辰を狙った刺客は、その様子を見て取り乱している。

「レグルス、視覚をおかしくしているファミリアを破壊しろ!」
 星辰は刺客を無視してレグルスに命令を下す。そして、レグルスはその拳で視覚ファミリアを殴った。あっという間に視覚を狂わせたファミリアは破壊された。

「う、うそ、俺のオルクスがあっさり……」
 その様子に刺客は呆然としている。

「君を逮捕する」
 星辰はそう言って、銀河連邦警察の手錠を刺客の手首にかけた。

「……」
 刺客は呆然としているのか何もしゃべらない。さっきまで動揺していた割には冷静な雰囲気だった。

「!」
 その時、不意に星辰の右腕を掴む者がいた。

「こいつアルブスAIのファミリアを使う方の奴か?」
 星辰の右腕を掴んだのは、外見で言えば星辰より少し上の年齢の少年だった。

「な、しまった……。もう一人いたなんて」

「仕方ない。タナトス。こいつを殺せ」
 右腕を掴んだ少年が自身のファミリアに命令を下す。

「イエス。マスター」

「な、あ……」
 少年のファミリア・タナトスが返事をしたと思えば星辰が、まるで糸の切れた操り人形の様にぐったりと倒れた。

「悪いな。俺のファミリアは相手を即死させる能力。俺かファミリアが触れていないと効果が無いが」
 少年はそう言うと、掴んでいた星辰の腕を投げ捨てる様に手を離した。

「クスカ様の命令ではなるべくその小僧を生かして連れてこいとの命令だったが……。まあ、このアルブスAIのファミリアさえあればとりあえずは良いだろう」
 タナトスのマスターの少年はレグルスを見ながらそうつぶやいた。

「おい。この手錠を取れるか?」
 手錠をはめられている刺客が少年に話しかけた。

「ああ、手錠はちょっと待て……」
 少年が刺客に近づきながら答えた。 

「それと、もう一人の小僧はどうする?」
 刺客が少年に尋ねた。

「あの赤頭はほっといてもいいだろう……。やはり銀河連邦警察の手錠は鍵が無いと開かないか……」
 少年が相棒の手錠を見ながら言った。

「そうだな。ん。お、おい、ああああ!!!」
 手錠をはめられている方が、急に慌てた様に叫んだ。少年の後ろに何かいるらしい。

「なんだ、急に。な、なんだと」
 少年が後ろを見ると死んだと思っていた星辰が立っている。

「ば、馬鹿な。なんで死んでいない!」
 動揺し困惑する少年。

「デネブ。シャボン発射!」
 その時、どこからかルベルの声が聞こえた。しかし、周辺は霧で包まれルベルもデネブも場所はつかめない。

「イエス。マスター」
 デネブからシャボン玉が発射されタナトスに着弾して爆発、タナトスを破壊した。

「な、なんだと。俺のタナトスが……」
 この情景にタナトスとオルクスのマスターの少年たち二人は呆然とした。

「残念だったな。こいつはあらゆる即死攻撃を無効にする能力を赤ん坊の時から発動されているそうだ。都合が良いことにな」

「な、なんだと、そんなものが……」
 少年はへなへなとその場にへたり込んだ。

「あるんだからしょうがないな」
 少年に手錠をかけるルベル。

「ルベル」
 歩きながらルベルに声をかける星辰。

「死んだふりか? お前にしては頭を働かせたな。おかげでこいつらが油断して近づきやすくなった。少しだけ褒めてやる」

「はは、なんか、褒められている様な気がしないけど……」
 ルベルの言葉に星辰は苦笑いした。
 
「ふん。クスカの奴、部下に恵まれていない様だな。そこだけは同情してやる」
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