5章 第3話 アルゴルの塔の前にて

文字数 2,622文字

 ユーラーとの対面を終えた四人は飛空艇に乗りこんだ。
 飛空艇はアルゴルの塔へと向かっており、段々塔が近づいてくる。
 窓から下を見ると市街地になっているが、塔の周りだけは森になっている。
 
「……」
 星辰は緊張している様に押し黙っている。

「星辰さん。大丈夫ですか?」
 ニーナが星辰を心配した様に話かけてきた。話しかけると同時に星辰に飲み物を渡す。

「うん。大丈夫。ニーナ。ありがとう」
 ニーナから飲み物を受けとった星辰がニーナに微笑み返しながら言った。

「まあ、緊張してもしょうがないかもな。お前の住んでる国は平和だったから、こういうのは始めてだろ?」
 星辰の様子を見てアクイラも話かけてきた。

「緊張していないって言ったらウソだけど。でも、不思議とそこまで怖くないんだ」

「そうかよ。平和な国にいた割には、ネジが飛んでる奴だ」

「それってけなしてない?」

「褒めたつもりだけどな」

「それ、褒めてないよ」

「そうか?」

「そうだよ」

「そうですね。私が聞いても褒めてる様に聞こえませんね」
 星辰とアクイラの会話にニーナも加わる。

「ふん。もうどっちでもいいだろう」

「うーん。アクイラも結構適当だね」

「なんだと!」
 星辰の言葉に反応したアクイラが少し気色ばんで星辰を見る。

「全くですね」
 星辰に同意したニーナはそう言うとウフフと笑った。

「あはは」
 星辰もニーナにつられて笑う。

「ちぇ、笑うなっての……。相変わらず調子くるうな」
 アクイラもそう言うと二人につられた様に笑った。

「……」
 三人の様子をルベルは、やや離れたところで見ていた。

「ルベルさんも大丈夫ですか?」
 次にニーナはルベルに飲み物を渡しながら話しかけた。

「ああ、ありがとう」
 ルベルは気障な笑みで飲み物を受け取った。

「本当に大丈夫の様ですね」

「ふ。まあ、乗り掛かった舟だ。任せておいてくれ」

「はい。頼りにしてますよ」
 ニーナはにっこり笑うと離れて行く。

(星辰のやつ、初めてにしては思ったよりリラックスしてるな……)
 飲み物を飲みながら、ルベルは星辰の様子を見ていた。実際、星辰はかなりリラックスした様子でアクイラと話をしている。

(不自然なほどだ……。こいつ恐怖する心が薄いと言うか、あまり無いのか? かのティグリス警視の息子だからと言えば、そうかも知れんが……)
 星辰の様子を見てルベルは少し考えた。

(星辰には何か秘密があるのか? 父さんやエバンさん。ユーラーも何か知っている様だが……)
 色々と疑問が湧くが結論はでない。

「まあ、考えてもしょうがないか……」
 ルベルはそこで考えることを打ち切った。情報が少なくて結論はでない。

「何が考えてもしょうがないの?」
 いつの間にか星辰がルベルのそばに来ている。

「お前には関係ない」

「そう?」

「そうだ。面倒だ。あっちいけ」

「えぇ。ニーナと全然対応が違う……」

「当たり前だ」

「でも、大丈夫そうだね」

「ふん。男に心配されてもしょうがない」

「もう、相変わらずだなぁ……」
 星辰は呆れた様に、頭をかきながらルベルから離れていく。

「おい、塔が近くなってきたぜ」
 アクイラが窓を見ながら三人に話しかけてきた。
 乗っている飛空艇が着陸態勢に入りそうだ。四人は自分の席についた。ベルトをつける。

「いよいよだね」
 星辰がつぶやいた。
 他の飛空艇も着陸態勢に入っていく。星辰たちの飛空艇も陸へと近づいていった。

 数分後。
 星辰たちを乗せていた飛空艇が、塔の周りにある森と市街地の境目くらいで飛空艇が降りれそうな場所に着陸した。
 他の深紅の秩序の飛空艇も次々と同じ様な場所に続々に着陸している。
 深紅の秩序の飛空艇が地面に着陸するとその中から海賊たちが出てくる。そして、それが程度の数になるとその連中は一斉にアルゴルの塔へと突進していった。
 星辰たちの飛空艇より先に降りた飛空艇がすでに多数あり、星辰たち四人が陸に降り立つと、すでに戦闘が始まっていた。

「どうやら、こちらが優勢らしいな。ひとまず奇襲は成功だな」
 状況を見たルベルが言った。
 ルベルが言ったように、敵は不意をつかれて情勢は味方側がやや優勢だった。

「ふん。アルゴルの連中、油断しすぎだな。ざまあねえ」
 アクイラはそう言うと少しだが愉快そうに笑った。

「星辰さん、ここからはファミリアを召喚してください。少なくとも飛び道具の攻撃からは安全になります」

「分かったよ。サモンファミリア」
 ニーナに促されて星辰がレグルスを召喚した。
 他の三人もファミリアを召喚する。

「行くよ。グラキエース」
 ニーナが自分のファミリアに話かけたのち、その背中に乗った。

「イエス。マスター」
 ニーナのファミリアは青い人型のどことなく美しい女性を思わせる造形をしていた。
 他の三人も自分のファミリアに乗っている。

「星辰、レグルスを破壊されないようにしろよ。ファミリアを破壊されるとフィールドがなくなるからな」

「うん。分かった。ありがとう」
 ルベルの言葉に星辰は礼を言った。

「ふん。戦いなんだ、助けてやる余裕もないだろうからな」

「そういえば、ルベルって僕の護衛が任務だっけ?」
 星辰は喋りながらレグルスを空中に少しだけ浮かした。

「不本意ながらな」

「ふふ」
 星辰が少し笑った。
 
「何がおかしい?」
 ルベルが訝しい顔をする。

「ごめん。会ってまだ少ししか経って無いのに、こんなことになってると思うとなんだか……」

「それが、おかしいって言うのか? ふん。相変わらず変わった奴だ」

「全くだぜ」
 アクイラがそばに来て星辰に言った。

「アクイラとも、こうなるとは思ってなかった」

「まあな」
 アクイラはそう言うと少し笑った。

「おい、もう行くぞ」
 ルベルが星辰をうながす。

「そうだね」

「ふん。サングイストライアドとドロースか腕がなる。この際、捕まえて手柄にしてやる」

「上等。ドロースの野郎は正直ぶっ飛ばしてやりたかったからな。アタシの分も残しておけよ」
 アクイラがルベルに話しかける。

「あったらな」

「ふふ。では皆さん、いきましょう」
 ニーナも三人の会話に加わってきた。

「うん。アルゴルを倒して、この星を解放する」
 星辰が目の前の塔を見た。

「ふん。大きく出たな」
 ルベルは仕切るなと言わんばかりだ。

「はい」
 ニーナは屈託なく返事をする。

「へっ。ルベルじゃないが、乗り掛かった舟だ」
 アクイラは意外に愉快そうに言った。

「よし、行くぞ!」
 星辰はそう言うと乗っているレグルスを発進させた。
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