6章 第1話 継承

文字数 2,230文字

 その星を支配していたアルゴルとの戦いはドロースが逮捕されたことで終結した。戦いを起こした深紅の秩序も無傷ではなく、死者も多数に上ったが、残った皆は勝利に歓喜した。
 捕まえられたドロースは、そのままユーラーに引き渡された。

「ふっ、ここまで見事に捕まえるとはね」
 アルゴルの塔の前で、ドロースを引き渡されたユーラーは感心した様に笑った。

「申し訳ないが、せっかくだがこの女は我らに引き渡してもらってもよろしいかな? 星辰どの」

「え、あ、はい」
 「星辰どの」と呼ばれ少し面食らった星辰がユーラーにうなずく。

「星辰どの?」
 アクイラがユーラーを見ながら驚いた様に聞いた。

「ここまでの結果を出したんだ。もう坊やとは呼べまい」
 そう言うとユーラーは立ち上がりドロースに近づく。

「私たちの決起には気づいていた様だが油断したな」

「……」
 膝を屈しているドロースは立っているユーラーを見上げる様に睨みつける。

「遊び半分で戦争するもんじゃない。その傲慢さがこうなる」
 ユーラーがドロースの顎をつかんでクイっと上げる。

「ちっ」

「ないか言いたいことは無いかい?」

「油断したのは、認めてやる。だが、それだけだ。不老不死の私からすれば、一瞬だけ失敗しただけに過ぎない」

「謝罪の言葉はないのか?」
 ユーラーが手を放す。

「謝罪?」

「この星の連中に対する謝罪だ?」

「なぜ私が、そんなことをしなくてはならない?」

「随分、この星の連中に迷惑かけた。お前らのお陰で死んだ者、家族が死んだ者が大勢いるんだ」

「知るか。お前らの様な虫けらがいくら死のうが私には関係ない。弱い者は強い者にただ従えっていればいいんだ」
 このドロースの言葉に周りにいる深紅の秩序の連中が気色ばむ。それをユーラーは右手を挙げて抑えた。

「本気で言ってるのか?」

「くっくっ、本気だよ。」

「そうかい。少しでも謝罪するなら考えても良かったが」
 ユーラーはそう言うと、右手でドロースの頭をつかんだ。

「?」
 ユーラーのその行動に怪訝な顔をする星辰達。

「な、なにを……。まさか、まさかああ!」
 ドロース急に人が変わった様に取り乱した。

「や、やめろ、やめろおお!!」
 叫ぶドロースを無視し続けるユーラー。ドロースの頭をつかんでいる手が光り始めた。

「なんだ? ユーラーの奴は何をやっている?」

「さ、さあ?」
 アクイラも星辰もユーラーが何をやっているのか分からなった。

「銀河の魔女がドロースからユーラーに継承されているんだ」
 ルベルだけ状況を知っている様だった。

「え、それじゃあ……」

「俺も初めて見る。継承には、互いの了承はいらんらしいからな。しかし、ユーラーにも魔女を継承する素養があったのか……」

「……」
 ユーラーの手の光が収まった。

「はあ、はあ……」
 ドロースはたったそれだけのことで随分疲労した様に方で息をしていた。外見は全く変わらない。
 ユーラーはドロース頭から手を離した。
 
「魔女の力なんぞ興味はなかったが、お前が反省しないのなら私が貰う事にしたよ。海賊らしくな」

「こ、このくそアマぁ。……はッ!」
 ドロースはユーラーの手に剣が握られていることに気づいた。

「魔女だと首を切っても再生してしまうが、もう人間だ。分かるよな?」

「ま、待て、待って。ゆるし……」
 ドロースが命乞いの途中で、ユーラーはドロースの首をはねた。

「……」
 ユーラーは無言で剣を振って剣についている血を払った。
 周りの深紅の秩序の連中が一斉に歓声を上げた。

「ユーラーさん……」
 星辰は驚いた様にユーラーを見ている。

「星辰どのが、血を見るのが嫌いなのは理解している。だが、こうでもしないと、この星の連中は前に進めない」

「……」
 星辰は周りを見て。少しうつむいた。

「悪いな。最後においしいところを持って行ってしまって」
 ユーラーがルベルとアクイラを見て言った。

「いや、アタシは別に……」

「あなたにも魔女の素養があったんですね?」
 ルベルがユーラーに聞いた。

「まあな。なんとなくだが、相性は悪くないと思っていた。継承できると確信できたのは、ドロースを見た瞬間にだが。ただ、さすがに戦闘中だと、その隙がない。連れてきてもらわんとな」

「……もしドロースを、銀河連邦警察に渡していたらどうなってたでしょう?」
 不意に星辰がユーラーに聞いてきた。

「それは……。おそらく、内々で処理されたでしょう」
 ユーラーが星辰の問いに答えた。

「それは、たらればの話だ。星辰」

「ああ、うん。そうだね……」
 ルベルに諭され、うなずく星辰。
 だが、次の瞬間。星辰はその場で倒れた。

「星辰!」
 アクイラが、倒れた星辰に駆け寄った。

「星辰! 大丈夫か!」
 アクイラは倒れた星辰を抱きおこした。しかし、星辰は答えなかった。ルベル、ニーナ、ユーラーも彼の顔を見た。

「レグルスが進化した反動だ。進化した分、エナジーの消費量も増えてガス欠を起こしたんだろう」

「まず医務室のある飛空艇に運びましょう」
 ルベルとニーナは目を合わせてうなずいた。

「アタシが運ぶどこだ?」
 アクイラは星辰を抱えて立ち上がった。

「おい、誰か案内しな!」
 ユーラーが部下の一人に命じた。

「こちらです」
 虎のような部下の一人が答えて走り出した。

「分かった」
 アクイラが、その部下の一人についていく。

「ルベル。私たちもついていきましょう」

「……しょうがないな」
 ニーナにうながされて、ルベルは渋々うなずいた。二人ともアクイラの後を追う様に走り出した。
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