6章 第13話 殺し合う人々

文字数 2,424文字

 紅鏡家の守りのため護衛メイド四人を残した星辰、ルベル、ニーナ、月影、ロカの五人が、外にでるとすでに多くの人間が暴れていた。
 彼らは殺し合いをしており、すでに倒れて動かくなっている者もいた。

「もう、こんなことに……」
 暴力と殺戮渦巻く惨状にニーナは愕然(がくぜん)とした。
 しかも暴徒の内の何人かが、星辰たちを見てまるで亡者かゾンビの様に襲い掛かって来た。ただ、普通の人間である以上は星辰達の相手にはならない。全員、あっと言う間に襲い掛かって来た人間たちを鎮圧した。

「! ニーナ危ない!」
 その時、星辰が叫んだ。後ろから暴徒の一人がバットの様なものでニーナに殴りかかって来たのだ。

「あ……」
 ニーナが後ろを振り向いた瞬間、暴徒はバットを振り上げていた。当たれば、ニーナといえども大けがになる可能性がある。

「ふん」
 だが、その瞬間ルベルがニーナを殴ろうとしていた暴徒を殴り倒した。

「こいつらは普通の人間だが、君と言えども油断したら死ぬぞ」
 ルベルは顔をニーナの方に向けて言った。

「そうだね。ありがとう。ルベル君」
 ルベルに礼を言うニーナ。その間にルベルは自身の短槍を取り寄せた。

「ルベル、どうするんだ?」
 その様子に星辰がルベルに聞いた。

「片っ端から、沈黙させる」
 どうやら、暴れている人間を力づくで片付けるつもりだ。

「沈黙させるって、この全員を殺すつもりなの?」

「クスカの言う通りなら犯罪者なんだろう? 別に構うまい」

「いくらなんでも、無茶だよ」

「お前が言うか?」

「星辰君の言う通りだ。よせ、ルベル。全員倒すのは物理的に無理だ」
 だが、父親のロカが止める。

「しかし、父さん……」

「やりかたはある。サモン、ファミリア」
 ロカはファミリアを呼び出した。岩石を思わせる無骨なデザインのファミリアだ。

「そう、やり方はあります」
 月影そばに来てルベルを諭す様に言った。すでにファミリア・ツバンを呼び寄せている。

「テラ、大地を生み出せ」

「イエス。マスター」
 ロカのファミリア・テラから大量の土が生み出され、暴れている人間を飲み込んでいく。

「ツバン。植物を産み出せ」

「イエス。マスター」
 ツバンがそう言うと、テラの創った大地から植物が急速に生えてきた。植物は殺し合いをしている人間たちに絡みつき、がんじがらめにして動けなくしていった。

「すごい……」
 あっという間に暴れていた人間が動けなくなっていく様に、星辰が驚きの声を上げる。

「クスカは殺し合いをしている地球人を見て楽しんでいる。我々が、それに参加したら、奴の思うつぼだ」

「そうです。まずは、この乱闘を少しでも止めましょう」

「なるほど。お二人のファミリアなら、暴動を止められますね」
 ニーナは、そう言って二人を見た。

「星辰君。こちらへ……」
 月影が星辰を呼んだ。

「どうしたの? 先生」
 星辰が月影へと駆け寄る。

「これを」
 月影がアポーツで一振りの日本刀の様な物を取り寄せ星辰へと渡した。

「先生。これは?」
 星辰は月影から日本刀を受け取る。

「君専用の武器です。成長した君なら使えるでしょう」

「この状況下ではエバンも俺も、君を守り切れないからな」
 ロカが月影の横に来て星辰に向かってニカっと笑った。
 
「自分の身は自分で守れってことだ」
 ルベルも星辰にそばに来た。

「分かったよ。自分の身は自分で守ってみせる」
 星辰がそう言って、うなずくと月影もうなずいた。

「クスカは部下か本人かが、必ずを君を狙ってきます」

「僕がクスカを呼び寄せるおとりになるんだね」

「そう。ゲーム感覚で攻めてきてるクスカは必ず来るでしょう。奴を叩けば、この暴動は収まります」

「奴は俺らをなめてるだろうからな。本人が来る可能性は充分ある。ルベル、星辰君を頼む」
 ロカがルベルを見ると、ルベルが少し頷いた。

「私とロカは暴動を止めてきます。私とロカが離れた瞬間に襲われるかも知れない。ニーナさんも、星辰君をよろしくお願いします」

「はい」
 ニーナが月影に頭を下げた。

「ロカ」

「おお。じゃあ、俺達は銀河警察官としての責務を果たしてくるとするか」
 月影に声を掛けられたロカは、そう言って走りだした。

「星辰君。くれぐれも気を付けて」
 月影もロカについて行く様に走り出した。

「うん。二人も気をつけて」
 月影とロカを見送る三人。

「ルベル。ニーナ」
 月影とロカの姿が見えなくなったところで星辰が二人の名を呼んだ。月影からもらった刀を左手にもって身構える。居合の構えだ。

「分かっている……。月影さんが言っていた通り、二人がいなくなるタイミングを見計らっていたな」
 ルベルも短槍を持って身構える。

「どこからか誰か見ていますね。でも、どこから……?」
 ニーナも自分の武器であるレイピアを持って、あたりを見渡した。しかし、誰もいない。

(この感じ、知ってる……)

「ニーナ、足元!」
 ルベルが不意に叫ぶ。

「え? きゃああああ!」
 ニーナの右足首をつかみながら一体のファミリアが出て来た。

「量産型のファミリア!?」
 ルベルが見たそのファミリアは、ニーナの足首を持ったままニーナを振り上げそのまま地面へと叩きつけ様としていた。

「させるか!」
 星辰はそう叫ぶと、ファミリアに突撃して刀を抜いた。あっという間に量産型のファミリアを一刀両断した。ニーナは空中に投げ出されたが、ルベルが抱き留めた。

「大丈夫か。ニーナ」
 ルベルはニーナの足だけ地面につける様に優しく下した。

「うん」
 ニーナが立ち上がる。

「影に隠れているだろう! 姿を現せ!」
 星辰が叫ぶ。

「ち、同じ手にひっかるとはな……。油断した」
 ルベルが悔しそうに舌打ちした。

「ふふ。さすがね」
 近くの壁の影から一人の少女が姿を現す。

「お久しぶりね星辰君。ルベル君。そちらのお嬢さんは初めまして」
 影から現れた少女は微笑みながらぺこりと挨拶した。まるで、旧友に会ったかのような雰囲気が逆に不気味だった。

「ラートル……」
 星辰が、その少女を睨みつけた。
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