第5話 少女たちとの出会い

文字数 3,564文字

 学校の校舎の屋上から見ていた二人組の女たちだ。星辰は二人に見られていることはさすがに知らない。

 二人ともパーカーを脱いでいるので顔は出しているが、日が暮れてきて暗くなったため、星辰たちの位置からだと少し顔が見ずらくなっていた。
 薄暗い中だが、二人とも十代の少女の様に見える。

「一戦終わってお疲れている時に悪いな」
 二人のうち、背が高い方の少女がしゃべった。先ほどの後ろから声をかけてきた声だ。

「こんなに簡単に後ろを取られるとは、少し驚きましたね」

「職業柄忍び足が得意なんだでね」

「その様ですね。どうやらあなたは、アクイラ・ロートスですね」
 月影話しかけてきた背の高い少女を見ながら言った。

「へえ」
 アクイラと呼ばれた少女は少し感心した様に声を出した。

「そちらの彼女はあなたの妹のウルラ・フラーグム」

「……」
 ウルラと呼ばれた背の小さい方の少女は黙っている。

「ふーん、あたしたちの事知ってるとは驚いたね。その眼鏡がタネかな。まあ、どっちでもいいけどさ」
 アクイラが、こちらに服のポケットに手を入れたまま数歩近づくように歩いてきた。ウルラもアクイラの後ろに続くように歩いてくる。

 二人が近づいてくれたおかげで少し顔が見える様になった。
 アクイラは黒い髪で頭に二つのお団子の様な塊がある。いわゆるお団子ヘアーだ。少しラフな格好だが普通と言っていい服装だった。

「あなたも目的は星辰君ですか」

「……」
 アクイラは少しだけ悲しそうな顔して黙っている。

「そうだよ」
 ウルラがアクイラの代わりに答えた。こちらは茶髪のポニーテールだ。
 また、二人ともどちらかと言えば整った顔をしている。

「そこでのびてる連中はあなたたちの差し金でしょうか?」

「さあね。組織があたしたち以外にも雇った連中だろ。まあ、この状況を利用させてもらったけどね」

(嘘はついてないようですね)
 月影が考察する。

「しかし妙ですね。あなたたちは悪い者から金品を盗んで貧しい人達に盗んだ物を分け与える義賊と聞いたことがあります。人さらいなど、あなたたちらしくないのでは?」

「こっちにも都合ってもんがあるんだよ。まあ主義じゃないのは確かだけどな」

「だったら、声をかけずに不意をつけば良かったのでは?」
 月影が思っていた疑問を言った。

「それに関してだけはわたしも同意かな。姉さま?」
 ウルラが月影に同意する。

「う、うるせーな。不意打ちなんて、なんか嫌だったんだよ」

「それだけの理由で?なんとう言うか律儀ですね」
 月影が聞いた。

「いいだろ。自分で言うのもなんだが、あたしたちは義賊で通ってるんだ。少しはかっこつけさせろよ。それにそっちの坊やとも、少し話をしたかったしね」

「坊やって、君だって僕と同じくらいじゃないか?」
 星辰が声をあげた。

「あたしはこの星の年齢でいったら、今年で十五歳くらいだっての」

「わたしは十三歳」
 アクイラに続いてウルラも答える。

「二人とも僕と一歳しか変わらないじゃないか」

「え、おまえそのなりで、十四歳なのか? 随分、チビだな。二、三こ下に見えるぞ」

「う、うるさいな。これから成長期で大きくなるんだ」
 星辰が強がる様に言った。

「ふーん、まあそれは、どうでも良いや。それよりお前、今日はいろいろあって混乱してるだろ。あたしが少しだけ説明してやろうか?」

「急になにを……あとで先生が説明してくれるって……」

「いいじゃねえか。あたしが説明しようが、そこの先生さんが説明しようが同じだろ」

「うーん、まあ、そうかもだけど。なんだか唐突すぎる……」
 星辰が首をかしげた。

「どういう魂胆でしょうか?」
 月影も眼鏡をあげながら質問する。

「なーに単純な親切心ってやつだよ。それに本当にそこの坊やがどんな奴か、話をしたかったって言うのも本心さ」

(罠?いや、だったらやはり不意をつけば良いか……この少女、思ったより人が良いのかも知れぬ)

「本当に話がしたかったようですね」
 月影が少し考えたのちに関心した様に言った。

「ま、好きな様にとらえてもらって構わないよ。いいじゃねえか、あんたが説明する手間が省けると思ってりゃ。エバンさん」
 アクイラは、そう言うと少し微笑んだ。十五歳にしては妙な妖艶さがある。

「……」
 月影はほんの少し驚いたようだ。だが黙っている。

「エバンって?」
 星辰が月影に聞いた。なんのことか分からない。

「その先生さんの本当の名前だよ。本当の名前はエバン・マギスト」
 ウルラが口をはさんできた。

「え、そうなの先生?」
 星辰が驚いて月影を見る。

「彼女の言った通りです。いままで黙っていて申し訳ない」
月影はふうと少しだけため息をついた。

「別に怒ってないけど、でも、結構びっくりだよ。でも、なんで偽名なんか?」

「それは……」

「その先生さんはお前らの概念でいうところの宇宙人ってやつなんだよ。今名乗ってる名前は、この星に住むための偽名だったのさ」
 アクイラが月影に変わって答えた。

「う、宇宙人。先生が? ほ、本当に?」

「ええ」
 月影が短く答える。

「し、信じられないよ。宇宙人なんて……」

「今、のびてる連中も宇宙人さ」

「た、たしかにこいつらは宇宙人て言われればそうかもだけど」

「まあ、あたしも後ろの妹もな」

「そ、そうなの? で、でも君と先生は日本人に見えるし、後ろの子はヨーロッパとアメリカとか欧米の人っぽいけど」

「宇宙人って言っても、いろいろいるんだよ」
 ウルラが答える。

「それに、あんたも厳密には宇宙人さ」

「!」
 アクイラの言葉に星辰が驚いて目を見開く。月影もアクイラの顔をみた。

「え、今なんて?」

「だから、あんたも宇宙人なのさ」

「そ、そんな。で、でも僕は地球の日本生まれで……」

「……」
 月影はやはり黙っている。

「先生さんは、事情を知っている様だね。まあ、坊やがこの星のこの国に生まれたのは間違いない。ただ両親は宇宙人さ。どういう事情であんたの両親が、この星に来たのかまでは知らないけども」

「僕の両親が宇宙人……」
 星辰は茫然としている。

「そこまで知ってるとは驚きました。ただ、唐突すぎてデリカシーにもかけてる気がしますが……」

 月影がアクイラを少したしなめる様に言った。

「まあ良いじゃねえか、実際説明するつもりだったんだろ」

「……」
 月影がやれやれと言う顔した。

「僕の両親が宇宙人なんて……。でも、否定できないって言うか……なんでだろ。妙に納得出来ちゃう様な気持ちだよ……」

「さあな、お前自身になんとなく腑に落ちるところがあるんだろ。さてと……」
 アクイラがポケットから手をだした。
 月影と星辰が少し身構える。

「ま、ざっくりとした説明はこんなもんでいいだろ」

「やっぱり少しまどろっこしいね。姉さま」

「そういうなよウルラ。こうでもしないとあたしの中ですっきりしないからよ。それに何がなんだか分からない状況じゃ、そいつもかわいそうだろ」

「まったく結構優しよね。まあ、姉さまのそこは嫌いじゃないけど」

「う、うるせーな」
 ウルラに褒められてアクイラは少し照れた。

「まあ、気がすすまねえが、悪いがさっきも言ったように事情があるんでな」
 そう言うとアクイラは少しだけ星辰達に近づいた。

「君たちもやっぱり僕をさらうつもりなの?」

「何をいまさら」
 ウルラが答える。いつの間にか西洋のサーベルの様な剣を出してそれを手にしているいる。空間から出し入れすることが出来る様だ。

「だって悪い人に見えないから」

「ふん、十分悪い奴だぜ。宇宙をまたにかける泥棒だからな」

「でも義賊なんでしょ?」

「それでもこの宇宙では犯罪者さ」
 アクイラが少しだけ悲しそうに答える。

「姉さま」

「分かってるって」
 そう言うとアクイラは空中を浮いた。地面から離れていき4、5メートルくらいまでの高さまで浮いた。

「そ、空を飛んでる?」
 星辰が驚きの声を出す。

「おそらく超能力で自分を浮かしているんです」
 月影が説明してくれた。

「や、やっぱり宇宙人なんだ。超能力が使えるなんて……」

「さっきから驚いてばっかりだな。お前」

「これで驚かない人いないよ」

「まだまだこれからさ」
 アクイラの周りに鉄骨や岩が出現した。

「な、あれって?」

「アポーツ。別の場所にある物体を取りよせる能力さ」
 アクイラが説明する。

「しかし、あれほどの数を」
 今度は月影が驚きの声を上げた。

(この少女、思っていたよりやっかいだ)
 先ほどの宇宙人よりも、たしかに厄介な相手だった。

「そして、これを」
 アクイラは右手を上げて。

「ふっ」
 右手を下した。
 次の瞬間、アクイラが出した鉄骨や岩がレグルスやツバンに向かって勢いよく向かってきた。

「危ない!」
 月影、星辰をかばうように星辰を抱えて飛んだ。

「……ああっ!?」
 星辰が目を開けると半壊した、レグルスとツバンの姿があった。
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