【4日目】過去の追憶

文字数 1,900文字

奈央は気絶した真斗の頭を膝の上に載せて、どうして良いかも分からず、ただ、その頭を必死に撫でていた。

真斗の身体は冷や汗でじっとり濡れていた。



真斗は夢を見ていた。
いや、何が現実で、何が夢なのかも、もはや真斗には分からなかった。



元々身体の弱かった明日香。
どんなに治療を施しても、もう永くは生きられないと主治医から知らされていた。

しかし、どうしても、真斗は、明日香に生きていて欲しかった。

明日香を失い、この世界にたった一人残されるのが何よりも怖かった。

そんな折、妖化ウイルスの生みの親で、自身も妖化ウイルスの感染者でもある、大学教授を、抹殺するミッションが、本部から下された。

他3人の黒服達と共に、妖化しつつあったターゲットの教授を拳銃で撃ち殺害した。

真斗は、抹殺した教授の所有していた黒いアタッシュケースをリーダー格の黒服に渡すとき、こっそりと、一本の新型の妖化ウイルスの注射器を、奪い取った。

妖化ウイルスの新型は、人間としての正気を保ったまま、超人的に身体能力を向上させることもあるという。もしかしたら、これさえあれば、明日香は生き続けることができるかもしれない。

そして、その夜中、熱海の病院に忍び込んだ。そして、入院中の妹の病室に入った。病室のベッドにぐっすりと眠る明日香に、この妖化ウイルスの注射器を打った。



熱海の海辺だったと思う。

明日香に注射した後、帰路に着く途中、真斗は、組織の本部からターゲットの情報連絡を突然受けて、現場に急行した。

暗い夜空の中、黒いジャケットと黒いスラックスを着て、真斗は熱海の海岸を歩いていた。

真斗は、スマートフォンで本部と交信した。

本部から、そのまま海沿いをまっすぐ進めとの命令。

しばらく進んだ。そして、ターゲットまであと100mと告げられた。

すると、小さい人影が見えた。

おそらくあれがターゲット。

真斗は懐から銃を出して構え、そのまま小さい人影に向かって歩みを進めた。

ピーっと、所有していたスマートフォンがバイブレーションと共に電子音を発した。

【壊れはじめた者】を検証し、発見した際に知らせるスマートフォンアプリ。

ターゲットは【壊れはじめた者】であることは間違い無い。

恐ろしく冷徹に、真斗は銃口をターゲットに向ける。

と、同時に、その電子音に驚いたターゲットが、真斗の方向を向いた。

小さな人影が、首を傾げ真斗を見つめた。

見覚えのある、年齢の割に幼くみえる女性の顔が、最期に怪訝な表情をした。

「・・・お兄ちゃん?」

明日香は、身体が弱かった。

病院で寝たきりの状態であり、あと半年も生きられない身体だった。

だから、病院を抜け出して、このわずかな時間で、病院から離れたこの熱海の海辺にいることなど、出来るはずがなかった。

「今日は何か、すごく調子が良いんだ。身体がとても元気になって」

スマートフォンアプリの電子音が鳴り続けていた。

「何だか、すごく気持ち良くて・・・あっ・・・!」

ゴガッ!

明日香は、妖化ウイルスに犯されて、怪物化しつつあって、

人間じゃない、なにか別の、何かに・・・。

ゴガッ!ゴガガッ!

「おにい・・・ちゃん・・・くるし・・・い・・・」

だんだん、何か、別の何かに。

真斗は、怖くなって、どうしたらいいのか分からなくなり、

ゴガガガガッ!

「た・・・たすけて・・・おにいちゃ・・・」

化け物みたいに膨れ上がった明日香のその声を最期に聞いて、パンッと甲高い銃声がして、弾丸が明日香だった何かの額に突き刺さったんだ。

明日香だった何かの額から鮮血が飛び散って・・・。

(それで、撃ったのが俺だって、やっと気づいて)

(ソレデ、ウッタノガオレダッテ、ヤットキヅイテ)



「うおおおおおぉぉぉ!
うわああああぁぁぁ!」

「真斗くん!!」

真斗は奈央の膝の上からガバッと頭を上げて立ち上がった。

そして、両手で頭を抱えて転がり、叫んだ。

「俺が明日香にあの悪魔の注射ヲ!
妖化ウイルスを打ったァ!
俺が化け物になった明日香の頭を撃ったァ!」

「大丈夫!大丈夫だよ!真斗くん!」

「俺が明日香を殺したァ!
明日香を殺したのは、この世界じゃなかったァ!
他でもない、俺だったァ!!
俺が俺がオレガ!!」

「真斗くん!大丈夫!大丈夫だよ!!」

「オレがオレガ俺自身が明日香を化け物ニシタァ!そして、アスカを殺シタァァ!!」

「真斗くん!大丈夫だよ!落ち着けるよ!!」

真斗は気が狂ったように転がり続けた。

その真斗を奈央が必死に抱きしめる。

「真斗くん!大丈夫!落ち着いて!!」

「ウワアアあァああァァ!!」

「真斗くん!」

そして、そのまま真斗は、自身を落ち着けようと抱きしめる奈央を押し倒した。

「キャッ!!」

真斗に押し倒された奈央が叫ぶ。
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