【4日目】残された時間

文字数 1,187文字

「な・・・なんで?」

震える声で真斗が奈央に尋ねた。

「なんでって?」

怪訝な顔で奈央が応じる。

「何でだよ!
何で来るんだよ!
何で来れるんだよ!
俺は、俺は今、奈央を襲ったんだぞ!
こ・・・こんなに良くしてくれて、生きる希望を与えてくれた奈央を、襲ったんだ!
俺は、今までの奈央の良心の全てを裏切ったんだ!
それなのに、何故なんだよ!!」

訳が分からず、真斗は喚いた。

「・・・だって・・・真斗くんは、友達だから・・・」

(友達?
この人は、こんなことをされて、まだ俺のことを、友達と言ってくれるのか?)

「友達が悩んでいるなら、友達が困っているなら、私は、力になりたい」

「なんでだよ、なんでそんなに優しくなれるんだよ!おかしいだろ!!
道端で倒れていた見ず知らずの俺を介抱したり、何の見返りもなく命懸けで俺が自殺するのを止めたり、さらに俺に酷い乱暴されても友達を続けてくれるなんて!!
どうなってんだよ!!
俺が君に、これまで一体、何をしてあげたっていうんだよ!!!」

奈央は少し考えた。

「教えてくれよ・・・
君は、一体、誰なんだよ・・・
聖人か?天使か?神なのか?
何がどうなってんだよ・・・
理解が、出来ないんだよ・・・」

奈央は瞳を閉じると、意を決して、今まで真斗に言わずに黙っていたことを、今、話すことに決めた。

「・・・私、もう、永くないから・・・」

奈央が目を瞑ったまま、静かに言った。

「・・・えっ!」

真斗が聞き返す。奈央が目を開いた。

「私、もうすぐ、死ぬの。だから、生きているうちに、最期に、真斗くんの、何か力になりたい。私が居なくなった後も、この世界を生きる人たちに、私が生きれなかった分まで、幸せに生きてほしい」

(奈央が・・・死ぬ・・・?)

(・・・この世界には、生きたいのに、生きていけなかった人だっているのに!
あなたは、この世界で、まだ生きているんでしょう!!)

あの裏山の丘で言った、奈央のセリフ、
あれは、他でも無い、奈央自身のこと?

すると、奈央が、震える真斗をやさしく抱きしめた。

「だから、私が生きられなかった分まで、真斗くんに、生きて欲しい。
そして、この世界の素晴らしさを感じて、幸せになって欲しい。
たくさんの希望を見つけて、育てて欲しい。
それが、残されたわずかな時間で、私がこの世界で出来る、最後のことだから」

そう言って奈央は真斗の頭を撫でた。

この人は・・・強い・・・!
・・・そして、誰よりも優しい・・・!
自分の身に降りかかる不幸に負けず、ここまで人に優しくなれるなんて・・・!

・・・聖女・・・

真斗は奈央の中に、聖女を見つけた。

真斗の両目から涙が溢れた。



奈央はコートからハンカチを取り出すと、血と涙と鼻水でくしゃくしゃになった真斗の顔を拭った。

「さ、部屋に戻ろう。額の傷も手当しないと」

そして、奈央は真斗の右手を取って立ち上がらせた。

二人は手を繋ぎながら、自分達のホテルの部屋に戻って行った。
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