【5日目】故郷巡り
文字数 1,986文字
自分がもうじき確実に死ぬ・・・
強い衝撃を受けたであろう奈央を思うと、真斗は心が傷んだが、淡々と続けた。
「でも、人間としての生命は死ぬけれど、人間に感染している妖化ウイルスにとっては、それからが始まりだ。ウイルスに完全に乗っ取られた人間の身体は、大きく膨れ上がり、異形の怪物となって、人々を襲いはじめ、数多の妖化ウイルスをばら撒くようになる。そうなる前に、俺たち妖化ウイルス対策本部の実働部隊が、ターゲットの元人間を殺処分するんだ」
そう言って、真斗は話を終えた。
※
奈央は真斗のその話を全て理解し、信用した。
そして、そっか、と呟いて、何度か頷くと、真斗を見て微笑んだ。
「ありがとう。包み隠さず、全部話してくれて」
奈央は立ち上がって伸びをすると、窓から外の景色を眺めた。
「ねぇ、真斗くん」
「・・・うん?」
奈央は、真斗を振り返り、真斗の目を正面から真っ直ぐに見て、言った。
「真斗くんが明日香ちゃんと昔よく行った場所、私も行ってみたい」
「明日香と?」
「うん、この街が、真斗くんと明日香ちゃんの故郷、思い出の街なんだよね?
私も、真斗くんと明日香ちゃんが、どんな風にして一緒に暮らし、生きてきたのか、知りたいんだ。
だから・・・」
真斗は奈央の意図を理解して、奈央の手を握った。
「よし、行こう!」
「・・・ほんと?」
「ああ、どこでも全部、案内してあげるよ!
さ、早くしないと日が暮れちゃうぜ?」
真斗は奈央の手を握ったまま、奈央の家を飛び出した。
※
二人は河原、野山、小道、さまざまなところを散歩した。
二人の間に、話は尽きなかった。
奈央は、真斗の仕事の話や明日香との思い出話を熱心に聞いた。
お互い、たくさんの知らない世界があった。
※
日が暮れ始めた頃、二人は、真斗と明日香がよく一緒に遊んだ公園に入った。
紅葉が綺麗だった。
紅葉を見ながら、真斗が奈央に明日香との思い出を話し続けた。
奈央は、だんだんと口数が少なくなったが、相変わらずの微笑を絶やさず、真斗の話しを熱心に楽しそうに聞いていた。
真斗は、心の中に、かつて明日香と二人で歩き語りあった時と同じような温かさを感じた。
(俺は、もしかして、今、この世界に、もう一度、希望を感じているのだろうか?)
真斗はそんなことを漠然と考えた。
※
「・・・真斗くん、ちょっと、疲れちゃった。そこのベンチ座っていいかな?」
いつも元気な奈央が、唐突に、珍しい発言をした。
二人は公園のベンチに座った。
奈央はハアッ、ハアッと短い呼吸を繰り返していた。
「顔色悪そうだけど、大丈夫か?
向こうに自動販売機あるけど、何か飲み物買ってこようか?」
「う・・・うん、じゃあ、頼んじゃおうかな」
そう言って奈央は真斗に小銭を渡した。
真斗は渡された小銭を持って、ベンチから広場を挟んで反対側に設置されている自動販売機に向かった。
※
真斗が何を買おうか迷い、結局無糖のアイスティーを買った。ペットボトルを抱えてベンチに戻る。
「・・・奈央!!」
すると、奈央はベンチに上半身を突っ伏していた。
「奈央、大丈夫か!!」
真斗が必死に、上半身をベンチに横たえる奈央の肩を揺すった。
「う・・・ん・・・」
気が付いた奈央が、ゆっくり上半身を起き上がらせた。
「あ・・・りがと、アイスティー、買ってきてくれて」
真斗が奈央にペットボトルを渡した。
奈央がペットボトルのボディ部分を掴む。
真斗が奈央にペットボトルを渡して、手を離した。
すると、ペットボトルは奈央の手をするりとすり抜けて、地面に落下していった。
ボトッと、ペットボトルが音を立てて地面に落ちた。
「あ・・・あれ?
おかしいな・・・手に、力が、入らない・・・?」
奈央が虚な目で自身の右手を見た。右手がかすかに震えている。
「かなり調子が悪そうだ、一度、家に戻ろう!」
「ううん・・・大・・・丈夫・・・」
奈央は地面に落ちたペットボトルを、その右手でゆっくりと拾い上げた。
「キャップ・・・開けてくれる?」
真斗は奈央が差し出したペットボトルを受け取り、キャップを開けた。そして、そのままペットボトルの口を奈央の唇にあてがい、少しづつ飲ませた。
奈央が中の液体を飲み込んだ。
「・・・ふう、ありがとう。生き返った。
で、あとは、どこかな?
真斗くんと明日香ちゃんが、よく一緒に遊んだ場所」
「あとは、あの裏山の丘くらいだけど、もう帰ろう。大分、疲れているんだよ。奈央」
「ううん、行きたい。あの裏山の丘・・・」
「奈央、今日は、もうだめだって!」
「お願い、どうしても、今日行きたいの。
真斗くん、お願い・・・!」
奈央は真斗を真剣な目で見つめた。
しばらく考えて、真斗はため息をついた。
「分かったよ。でも次倒れそうになったら、縄括りつけてでも、家に連れて帰るからね」
「・・・ふふっ、了解」
奈央は立ち上がった。そして、二人は、真斗と明日香の秘密基地であり、奈央にとっても特別な場所、あの裏山の丘を目指した。
強い衝撃を受けたであろう奈央を思うと、真斗は心が傷んだが、淡々と続けた。
「でも、人間としての生命は死ぬけれど、人間に感染している妖化ウイルスにとっては、それからが始まりだ。ウイルスに完全に乗っ取られた人間の身体は、大きく膨れ上がり、異形の怪物となって、人々を襲いはじめ、数多の妖化ウイルスをばら撒くようになる。そうなる前に、俺たち妖化ウイルス対策本部の実働部隊が、ターゲットの元人間を殺処分するんだ」
そう言って、真斗は話を終えた。
※
奈央は真斗のその話を全て理解し、信用した。
そして、そっか、と呟いて、何度か頷くと、真斗を見て微笑んだ。
「ありがとう。包み隠さず、全部話してくれて」
奈央は立ち上がって伸びをすると、窓から外の景色を眺めた。
「ねぇ、真斗くん」
「・・・うん?」
奈央は、真斗を振り返り、真斗の目を正面から真っ直ぐに見て、言った。
「真斗くんが明日香ちゃんと昔よく行った場所、私も行ってみたい」
「明日香と?」
「うん、この街が、真斗くんと明日香ちゃんの故郷、思い出の街なんだよね?
私も、真斗くんと明日香ちゃんが、どんな風にして一緒に暮らし、生きてきたのか、知りたいんだ。
だから・・・」
真斗は奈央の意図を理解して、奈央の手を握った。
「よし、行こう!」
「・・・ほんと?」
「ああ、どこでも全部、案内してあげるよ!
さ、早くしないと日が暮れちゃうぜ?」
真斗は奈央の手を握ったまま、奈央の家を飛び出した。
※
二人は河原、野山、小道、さまざまなところを散歩した。
二人の間に、話は尽きなかった。
奈央は、真斗の仕事の話や明日香との思い出話を熱心に聞いた。
お互い、たくさんの知らない世界があった。
※
日が暮れ始めた頃、二人は、真斗と明日香がよく一緒に遊んだ公園に入った。
紅葉が綺麗だった。
紅葉を見ながら、真斗が奈央に明日香との思い出を話し続けた。
奈央は、だんだんと口数が少なくなったが、相変わらずの微笑を絶やさず、真斗の話しを熱心に楽しそうに聞いていた。
真斗は、心の中に、かつて明日香と二人で歩き語りあった時と同じような温かさを感じた。
(俺は、もしかして、今、この世界に、もう一度、希望を感じているのだろうか?)
真斗はそんなことを漠然と考えた。
※
「・・・真斗くん、ちょっと、疲れちゃった。そこのベンチ座っていいかな?」
いつも元気な奈央が、唐突に、珍しい発言をした。
二人は公園のベンチに座った。
奈央はハアッ、ハアッと短い呼吸を繰り返していた。
「顔色悪そうだけど、大丈夫か?
向こうに自動販売機あるけど、何か飲み物買ってこようか?」
「う・・・うん、じゃあ、頼んじゃおうかな」
そう言って奈央は真斗に小銭を渡した。
真斗は渡された小銭を持って、ベンチから広場を挟んで反対側に設置されている自動販売機に向かった。
※
真斗が何を買おうか迷い、結局無糖のアイスティーを買った。ペットボトルを抱えてベンチに戻る。
「・・・奈央!!」
すると、奈央はベンチに上半身を突っ伏していた。
「奈央、大丈夫か!!」
真斗が必死に、上半身をベンチに横たえる奈央の肩を揺すった。
「う・・・ん・・・」
気が付いた奈央が、ゆっくり上半身を起き上がらせた。
「あ・・・りがと、アイスティー、買ってきてくれて」
真斗が奈央にペットボトルを渡した。
奈央がペットボトルのボディ部分を掴む。
真斗が奈央にペットボトルを渡して、手を離した。
すると、ペットボトルは奈央の手をするりとすり抜けて、地面に落下していった。
ボトッと、ペットボトルが音を立てて地面に落ちた。
「あ・・・あれ?
おかしいな・・・手に、力が、入らない・・・?」
奈央が虚な目で自身の右手を見た。右手がかすかに震えている。
「かなり調子が悪そうだ、一度、家に戻ろう!」
「ううん・・・大・・・丈夫・・・」
奈央は地面に落ちたペットボトルを、その右手でゆっくりと拾い上げた。
「キャップ・・・開けてくれる?」
真斗は奈央が差し出したペットボトルを受け取り、キャップを開けた。そして、そのままペットボトルの口を奈央の唇にあてがい、少しづつ飲ませた。
奈央が中の液体を飲み込んだ。
「・・・ふう、ありがとう。生き返った。
で、あとは、どこかな?
真斗くんと明日香ちゃんが、よく一緒に遊んだ場所」
「あとは、あの裏山の丘くらいだけど、もう帰ろう。大分、疲れているんだよ。奈央」
「ううん、行きたい。あの裏山の丘・・・」
「奈央、今日は、もうだめだって!」
「お願い、どうしても、今日行きたいの。
真斗くん、お願い・・・!」
奈央は真斗を真剣な目で見つめた。
しばらく考えて、真斗はため息をついた。
「分かったよ。でも次倒れそうになったら、縄括りつけてでも、家に連れて帰るからね」
「・・・ふふっ、了解」
奈央は立ち上がった。そして、二人は、真斗と明日香の秘密基地であり、奈央にとっても特別な場所、あの裏山の丘を目指した。