9 部長は遅めの昼食をとる
文字数 922文字
「はい、オムライスお待たせね。」
店長はオムライスの皿を置き、空になった器を一つ下げてゆく。
泣くだけ泣いてすっきりとした疋嶋丸は晴れやかな表情でナポリタンを平らげたところだった。
「あ、あとハンバーグカレー下さい!」
「はいよ。」
良かった、と店長は思った。部長になりました!と彼女が嬉しそうに報告してくれて、どこかの社長秘書みたいなカッコいいスーツがさらに似合うようになって、でもその頃から随分と小食になった。笑顔も無くなって口数も減った。でも今日の食べっぷりはどうだ!自分らしい事を、まるで恐れない食欲だ。
「世の中、別腹なんです!」店長の視線に気付いて彼が何かを言いたそうにしているように見えたのか彼女はそんな事を言った。
「良く分からないけど…、うん、いいね!」店長は上機嫌でキッチンへ消えて行った。
疋嶋丸は食後のミルクティを飲んでいた。
泣き喚いて、満腹になって、人心地がついて、そして頭がクリアーになって来た。
――よくよく考えてみると今の私は異常だ。
と疋嶋丸は冷静に自分を省みられる状態になっていた。
まず永井玲奈が緒川に贈ったライトブルーのシャツに他意はない。ただ汚損した物を補充してあげた、よしや緒川に対しての好意はあるのかもしれないが、そのシャツ自体は疋嶋丸に当て付けるような意味合いはないはずだ、私が過剰に反応してしまっただけなのだ、と考えた。
だいたい
地味だ、とか誰にも言われてないし、
このステレオタイプの昭和女上司め、とも
この部下いびりの小姑お局妖怪め、とも
誰も何も言っていないのに、全部私の妄想なのに実際にそう罵られたように勝手に疎外感を覚え勝手に心が乱れ憤りそれが行動になりかけた…。
ちょっと忙しくし過ぎたのかもしれないなぁ…。
と疋嶋丸は珍しくため息をついた。
これ以上は無理、という程ギューギュー詰めだったのだ。
でも今日やっと壊れる事が出来た。
誰かに当たり散らしたりせず、大切な人間関係に修復できない傷を負わせる事もなく、ここで水浸しになって乾いて食いまくってやっと笑えた。
キッチンではカチャカチャ、皿を洗う音がしている。
――店長には迷惑をかけたかも…。
よし今日は働くのやめよう、そう決めてスマホを取り出し、直帰する旨を伏島に伝えた。
店長はオムライスの皿を置き、空になった器を一つ下げてゆく。
泣くだけ泣いてすっきりとした疋嶋丸は晴れやかな表情でナポリタンを平らげたところだった。
「あ、あとハンバーグカレー下さい!」
「はいよ。」
良かった、と店長は思った。部長になりました!と彼女が嬉しそうに報告してくれて、どこかの社長秘書みたいなカッコいいスーツがさらに似合うようになって、でもその頃から随分と小食になった。笑顔も無くなって口数も減った。でも今日の食べっぷりはどうだ!自分らしい事を、まるで恐れない食欲だ。
「世の中、別腹なんです!」店長の視線に気付いて彼が何かを言いたそうにしているように見えたのか彼女はそんな事を言った。
「良く分からないけど…、うん、いいね!」店長は上機嫌でキッチンへ消えて行った。
疋嶋丸は食後のミルクティを飲んでいた。
泣き喚いて、満腹になって、人心地がついて、そして頭がクリアーになって来た。
――よくよく考えてみると今の私は異常だ。
と疋嶋丸は冷静に自分を省みられる状態になっていた。
まず永井玲奈が緒川に贈ったライトブルーのシャツに他意はない。ただ汚損した物を補充してあげた、よしや緒川に対しての好意はあるのかもしれないが、そのシャツ自体は疋嶋丸に当て付けるような意味合いはないはずだ、私が過剰に反応してしまっただけなのだ、と考えた。
だいたい
地味だ、とか誰にも言われてないし、
このステレオタイプの昭和女上司め、とも
この部下いびりの小姑お局妖怪め、とも
誰も何も言っていないのに、全部私の妄想なのに実際にそう罵られたように勝手に疎外感を覚え勝手に心が乱れ憤りそれが行動になりかけた…。
ちょっと忙しくし過ぎたのかもしれないなぁ…。
と疋嶋丸は珍しくため息をついた。
これ以上は無理、という程ギューギュー詰めだったのだ。
でも今日やっと壊れる事が出来た。
誰かに当たり散らしたりせず、大切な人間関係に修復できない傷を負わせる事もなく、ここで水浸しになって乾いて食いまくってやっと笑えた。
キッチンではカチャカチャ、皿を洗う音がしている。
――店長には迷惑をかけたかも…。
よし今日は働くのやめよう、そう決めてスマホを取り出し、直帰する旨を伏島に伝えた。