3 部長はペンをとる
文字数 827文字
オフィスに戻ると、古参のスタッフが午後の業務を始めよう、と周囲に声をかけていた。あちこちでPCがスリープ状態から立戻りキーボードを叩く音が聞こえ始めた。
疋嶋丸も席に着く。
デスクにはチェック待ちの書類の束が提出した順に積まれている。
何となく居心地の悪い空気を感じた。
今まで和気あいあいとお昼休憩の談笑を楽しんでいたのに、自分がここに入って来た瞬間に慌ただしく雑談を打ち切り仕事に取り掛かった、というような…。
部長がオフィスに戻るまで、が昼休みと皆の中で決まっているというような…。
確かに同じ空間に管理職がいるというだけで緊張するかもしれない。分け隔てなく、とまではいかなくてももっと和やかな空気の職場もあるだろうが、そういう雰囲気を作る事も、またその中で働く事も自分には向いていないのだろう。
デスクの書類の束を解き並べて素早く目を通す。
視界に捉えた文字や数字の端から端にサーチライトを当てるように彼女の視線が紙面を滑る。
彼女の眼光に磨かれた書類は迅速にトレイに分類されてゆく。
疋嶋丸にとって大切な事は整然としていることなのだ。
作成物が整然と規格の中にあり、整然と規範を護り、整然と基準に立っていること。その整然を作るのは、正確な数字と適切な文章と厳守すべき時間であり、ここでは奇抜なアイデアも独創性も不要である。
そうしていつものように、彼女はその歪みを一瞬で発見できた。
ミスを見つけた。書類の隅に目をやり、その名を目にした瞬間血流が倍速に跳ね上がった。
即座に担当者を呼びつけようとしたが逡巡した。午前中激しく叱責したばかりである。
彼女は深呼吸してから何度も彼の作成した書類を見返し、ミスが本当にミスかを熟考した。
だが何度見返してもやはり間違えている。あまつさえ誤字を3か所発見してしまった。
「緒川くん、ちょっといいかな。」
叱る事が務めなのではない。育むことが役目なのだ。
はい、という躊躇うような怯えた緒川の返事があった。
疋嶋丸はポケットの胸からペンをとる。
疋嶋丸も席に着く。
デスクにはチェック待ちの書類の束が提出した順に積まれている。
何となく居心地の悪い空気を感じた。
今まで和気あいあいとお昼休憩の談笑を楽しんでいたのに、自分がここに入って来た瞬間に慌ただしく雑談を打ち切り仕事に取り掛かった、というような…。
部長がオフィスに戻るまで、が昼休みと皆の中で決まっているというような…。
確かに同じ空間に管理職がいるというだけで緊張するかもしれない。分け隔てなく、とまではいかなくてももっと和やかな空気の職場もあるだろうが、そういう雰囲気を作る事も、またその中で働く事も自分には向いていないのだろう。
デスクの書類の束を解き並べて素早く目を通す。
視界に捉えた文字や数字の端から端にサーチライトを当てるように彼女の視線が紙面を滑る。
彼女の眼光に磨かれた書類は迅速にトレイに分類されてゆく。
疋嶋丸にとって大切な事は整然としていることなのだ。
作成物が整然と規格の中にあり、整然と規範を護り、整然と基準に立っていること。その整然を作るのは、正確な数字と適切な文章と厳守すべき時間であり、ここでは奇抜なアイデアも独創性も不要である。
そうしていつものように、彼女はその歪みを一瞬で発見できた。
ミスを見つけた。書類の隅に目をやり、その名を目にした瞬間血流が倍速に跳ね上がった。
即座に担当者を呼びつけようとしたが逡巡した。午前中激しく叱責したばかりである。
彼女は深呼吸してから何度も彼の作成した書類を見返し、ミスが本当にミスかを熟考した。
だが何度見返してもやはり間違えている。あまつさえ誤字を3か所発見してしまった。
「緒川くん、ちょっといいかな。」
叱る事が務めなのではない。育むことが役目なのだ。
はい、という躊躇うような怯えた緒川の返事があった。
疋嶋丸はポケットの胸からペンをとる。