言葉にならない気持ちってあるよね

文字数 554文字

物事を決断しなければいけない時、大堀は徹底的に考える。あらゆる可能性を考えつくし、その上で自分の心と相談して決める。真理子は案の定、「好きにしたら」と言った。だから、もう己でどうにかするしかないのだ。

 休日に近くのコンビニに行くと、自分の手掛けた最後の雑誌が出ていた。相変わらずの内容。どこへ行くか、何を食べるか、どんな映画を見るべきか。そんなことばかりが載っている。でも、一生懸命読者のことを考えて作っていたつもりだ。大人の事情は多々あったけれど。

 巻末に占いのページがあり、そこで目を留めた。このページは大堀が新人の時に担当していた。花形ではない地味なページだったが、張り切って作っていた。

 彼は山羊座の箇所を見た。大方の予想通り、彼の誕生日は12月24日、クリスマスイブだ。その日でなければ、「大堀騎士」という風変わりな名にはならなかったに違いないだろう。

 山羊座の文はこう締めくくられていた。「大切なことは、愛することを忘れないこと」。

 愛することを忘れない。その言葉は彼の心を包み込んだ。愛していた仕事。愛する恋人、家族、友人たち。彼らのために何ができるのか。そして自分のために、何をすべきなのか。

 雑誌を買って、大堀は家へと戻った。彼の眼は澄んでいて、もう迷いはなかった。
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