ふたりはライバル

文字数 1,260文字

大堀騎士と天堂聖弥は二人とも私立のミッション系中高一貫校育ちである。ただし、大堀は男子校で、天堂は共学だった。そこが密かに大堀は気にしていた。6年間男子校というのは、何かと後でコンプレックスになりやすいものである。「本当に共学行けば良かった……」と大堀は方々にぼやいていた。



 ただ、大堀は成績トップクラス、スポーツも優秀で顔も中の上、ということで大学に入ってすぐモテるようになった。



 広告研究会というマスコミサークルで知り合ったのが今の彼女、坂上真理子である。お互いに気が合い、すぐ付き合うようになった。真理子の良さは、大堀のキラキラネームにひかず、男に媚びず、ネガティブでない所だった。大らかで、それに和まされたのは数知れずだ。



 そんな彼女から、思いもよらない一言が飛び出してきたのはいつだっただろうか。「おーちゃん、天堂くんの友達なんだね」。そう言われて、果てテンドウクンって誰だったっけ、と思ってその1秒後、あの完全無欠の美形が思い出され、大堀は梅干しを食べた時のような酸っぱい顔をした。



「あ、ああまあ知り合いだけど……」と返すと、「そっか。私天ちゃんと生徒会で一緒だったから、仲良かったんだよねー。」何の含みもない笑顔を向けられたので、大堀は曖昧に笑ってやり過ごした。心の中では、「なんだよ天ちゃんって。どんだけ仲良かったんだよ!もしかして元彼だったりしたら立ち直れない……」と嫉妬の嵐が吹き荒れまくっていた。



 その後、真理子と天堂は付き合っていないことがわかり、大学時代は平穏に過ぎていった。大堀は大手の出版社に入社し、主に情報誌の編集を手がけていった。真理子はオーガニックコスメの会社のPRとなり、お互い忙しかったが、奇跡的に1度も別れずここまできた。2人とも30歳。ぼちぼち結婚も考えなければいけない頃になってきた。



 そんな矢先、WEBの台頭、雑誌不況の影響で大堀の作っていた雑誌が休刊することになった。



「編集部は解散、辞令を待つように」そう上司に言われ、大堀は愕然とした。何より心血を注いできた雑誌がなくなってしまうのが辛かった。今までの過労と心労がたたったせいか、大堀は胃に多大なダメージを受け入院。復帰できるまで休職していた。



 編集部の仲間は、見事にばらばらになった。辞める者もいたし、異動して編集を続ける者もいた。自分はどうするべきか。まずは復帰後の辞令を見て判断すべきだろうと考えた。



 そんな矢先にひょっこり現れたのが、天堂である。彼らの学校は隣同士で、いつでも比べられるライバル校だった。そしてその学校のトップだったのは、他ならぬ大堀と天堂。隣同士故、体育祭が合同だったり、何かと交流が多かったため、彼らは完全にライバルだった。大堀は特に天堂をそのように見ていた。自分より顔も何もかも良くて、他に敵はいなかったから、唯一の存在だったのだ。



 天堂の頼みとはいったい何なのか。それが彼の心にずっとひっかかっていた。

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