はじめてのおしごと

文字数 1,087文字

大堀の前に現れたのは、壮年の牧師だった。「北北西教会の難波です。よろしくお願いします」そう自己紹介した彼は、とても穏やかで深みのある声で、なおかつ彫りの深いイケメンだった。

「さっそくお話を伺えればと思います。この教会は、明治に建てられた由緒ある建築だということですが―」

趣ある建物の由来、どんな教会なのかの紹介など、インタビューは進んでいく。難波の話のうまさに大堀は感嘆した。さすが、人に伝える職業である。

話の終わりに、大堀は気になっていたことを聞いてみた。「難波さんは、とても姿勢が良くて健康そうなのですが、何かスポーツをやられてたんですか?」

そこでちょっとはにかむ難波。「いやあ、大学までボクシングをやっていて、その名残みたいなもんです」。

 「元ボクシング部の牧師、ですか。かっこいいですね」大堀はそう言いながら、ぜひ原稿に使わせてもらおう、と考えていた。



取材を引き受けてくれた教会はほとんど対応が良く、みんな嬉しそうに語ってくれた。教会もモダンなものから、重厚なものまでたくさんあり、本当に「インスタ映え」していた。他にも次回行われる説教のタイトルに妙にひねりがあったりするなど、突っ込みどころも多々あった。

収穫が多いのは良かった。さて、これからどう料理するかが編集の腕の見せ所だ。おいしく、おいしく、おいしくなあれ。



 完成した見本誌を、天堂は真剣に見た。もちろん最終チェックまで何回も見てきたわけだが、それでも出来上がった本を見るのは必要であるし、そして何より嬉しいことだ。巻頭インタビューは安定の出来。現役牧師のお悩み相談や、ミッション系の学校紹介もよくまとまっている。そして今回の特集。大堀の初仕事だ。「クリスマスに向けて―都内の美しい教会たち」という見出し。端正なフォントを使って、洗練された雰囲気に仕上げている。内容は、それぞれの教会の歴史からトリビア、知っていると得する情報まで載っており、記事として面白くできていた。さすが情報誌を長年専門でやってきただけある。

 第2特集は副編集長の荒木が、「冬にどう向き合うか」というテーマで、「心や体が弱りがちな冬に、どう信者に寄り添うか」や、「新年に向けてどのような運営を心がけるべきか」という本来の牧師応援マガジンに沿った良質な記事を手がけてくれた。

 「ボクシィ」はまだ6号目。これからどんどん育てていかなければならない。広告、タイアップ、WEB周り、とにかくやらなければならないことが山積みだ。

 「とにかく次の手を……」とひとりごちで、天堂は立ち上がった。
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