第12話 絶対集中力システム
文字数 1,439文字
「体温、呼吸、脈拍をチェックすることで、授業に集中しているかどうかわかるんですよ。そして集中していない人間には軽い電流を流して、罰を与えます」
校長先生の話に、新任教師の私は耳を疑った。
最新設備の私立高校。私は採用試験を受け、順調に進んで最後の面接にきていた。
薄化粧に紺色のスーツと黒いパンプス。地味なスタイルは面接用に作った外見だが、おおむね好感を持ってもらえたらしい。
「ぜひうちで働いていただきたい」のあとに伝えられたのが、「絶対集中力システム」だった。
「我が校の特徴でしてね。高校生の本分は勉強です。この学園にいる3年間は無為にすごすことなく、充実した時間にしたい。1分1秒でも無駄にしたくない。そんな声に応えて開発されました」
なんとこの学校では、教室すべてにセンサーがついていて、体温・呼吸・脈拍をリアルタイムで監視。そのデータから集中しているかどうかを判定し、していない人間にはネームプレートに仕込まれた小型のスタンガンでショックを与えるという。
「人権問題になりませんか……?」
おそるおそる聞くと、校長はにっこり笑った。
「生徒の保護者の了解はとっており、問題ありません。ただ、あなたが教師として賛成できなければ、採用は見送っていただいてけっこうですよ」
「いえ、そういうわけでは……」
そう言われれば私の答えは明白だった。
私立の高校だけあって、給料は公立より格段にいい。
就職難のこの時代、教師というそこそこ安定した職業につけるなら多少のことには目をつぶる。絶対集中力システムが非人道的であろうと管理社会の闇だろうと、私は働かなければ生活が成り立たないのだから。
そして、初めての授業。
校章の入ったストラップ型の名札を首から下げ、私は1年生の教室に立っていた。
この学校の生徒たちは、進学校だからなのか少し大人びていて、落ち着きがあった。
だが、落ち着きの裏に大人を見下すような、さぐるようなイヤな視線も感じる。
いや、考えすぎだろうか?
私が新任新卒の女性教師だから、奇異の目で見ているだけかもしれない。
簡単な自己紹介を終え、「では、4ページを開いてください」とおもむろに授業を始めた。
英語の教科書を読み上げながら、ひとりひとりの顔を見つめた。
集中している……のだろうか?
集中しないと罰を与えられるから、授業を聞いているのだろうか?
そんなのマウスの実験と同じだと、嫌悪感を覚える。
レバーを押すと快感が流れる電気針を脳にしこまれたマウスは、死ぬまでレバーを押し続ける。
教育的に考えて、いやどの観点から考えてもこのやり方は完全にアウトだろう。
教育委員会は認めてるのか?
いや、そもそも絶対集中力システムだなんて、そんなことが現実に可能なのだろうのか?
いくらなんでも呼吸と体温と脈拍をモニタリングして電流を流すなんて。
もしかしたら校長の悪い冗談?
「ぐあっ!」
胸元から脳天と下半身に突き抜けるような衝撃が走り、足元から崩れ落ちた。
痛みとショックで腰が抜けたようになり、膝下のスカートが太ももまでめくれあがる。
「先生、困るんですけど」
一番前に座っていた、メガネの男子生徒が表情ひとつ崩さずに言った。
「授業に集中してくださいよ。ぼくらは勉強したくてこの学校にきたんですから。」
よろよろと立ち上がりながら、私はようやく、時間を「1分1秒でも無駄にしたくない」のは生徒たちで、システムが適用されるのは私たち教師であることをあることを理解した。
校長先生の話に、新任教師の私は耳を疑った。
最新設備の私立高校。私は採用試験を受け、順調に進んで最後の面接にきていた。
薄化粧に紺色のスーツと黒いパンプス。地味なスタイルは面接用に作った外見だが、おおむね好感を持ってもらえたらしい。
「ぜひうちで働いていただきたい」のあとに伝えられたのが、「絶対集中力システム」だった。
「我が校の特徴でしてね。高校生の本分は勉強です。この学園にいる3年間は無為にすごすことなく、充実した時間にしたい。1分1秒でも無駄にしたくない。そんな声に応えて開発されました」
なんとこの学校では、教室すべてにセンサーがついていて、体温・呼吸・脈拍をリアルタイムで監視。そのデータから集中しているかどうかを判定し、していない人間にはネームプレートに仕込まれた小型のスタンガンでショックを与えるという。
「人権問題になりませんか……?」
おそるおそる聞くと、校長はにっこり笑った。
「生徒の保護者の了解はとっており、問題ありません。ただ、あなたが教師として賛成できなければ、採用は見送っていただいてけっこうですよ」
「いえ、そういうわけでは……」
そう言われれば私の答えは明白だった。
私立の高校だけあって、給料は公立より格段にいい。
就職難のこの時代、教師というそこそこ安定した職業につけるなら多少のことには目をつぶる。絶対集中力システムが非人道的であろうと管理社会の闇だろうと、私は働かなければ生活が成り立たないのだから。
そして、初めての授業。
校章の入ったストラップ型の名札を首から下げ、私は1年生の教室に立っていた。
この学校の生徒たちは、進学校だからなのか少し大人びていて、落ち着きがあった。
だが、落ち着きの裏に大人を見下すような、さぐるようなイヤな視線も感じる。
いや、考えすぎだろうか?
私が新任新卒の女性教師だから、奇異の目で見ているだけかもしれない。
簡単な自己紹介を終え、「では、4ページを開いてください」とおもむろに授業を始めた。
英語の教科書を読み上げながら、ひとりひとりの顔を見つめた。
集中している……のだろうか?
集中しないと罰を与えられるから、授業を聞いているのだろうか?
そんなのマウスの実験と同じだと、嫌悪感を覚える。
レバーを押すと快感が流れる電気針を脳にしこまれたマウスは、死ぬまでレバーを押し続ける。
教育的に考えて、いやどの観点から考えてもこのやり方は完全にアウトだろう。
教育委員会は認めてるのか?
いや、そもそも絶対集中力システムだなんて、そんなことが現実に可能なのだろうのか?
いくらなんでも呼吸と体温と脈拍をモニタリングして電流を流すなんて。
もしかしたら校長の悪い冗談?
「ぐあっ!」
胸元から脳天と下半身に突き抜けるような衝撃が走り、足元から崩れ落ちた。
痛みとショックで腰が抜けたようになり、膝下のスカートが太ももまでめくれあがる。
「先生、困るんですけど」
一番前に座っていた、メガネの男子生徒が表情ひとつ崩さずに言った。
「授業に集中してくださいよ。ぼくらは勉強したくてこの学校にきたんですから。」
よろよろと立ち上がりながら、私はようやく、時間を「1分1秒でも無駄にしたくない」のは生徒たちで、システムが適用されるのは私たち教師であることをあることを理解した。