第22話 学級閉鎖

文字数 1,465文字

 インフルエンザが流行し、おれのクラスは学級閉鎖になった。
 学校も部活も休みだし、両親は仕事でいないし、最高だ。
 3日間の休み中、おれは気兼ねなくゲームに熱中できた。
 ちなみに、おれの母親は看護師で、手洗いうがいマスクに関してはとにかく口うるさい。
 そのおかげで予防は完璧、体調は万全。
 夢のような3日間を過ごしたあとの学校は、かったるくてつまらなかった。
 もう一度学級閉鎖になればいいのに。
 心底そう願った。 
 
 まだまだ寒いある日。後ろの席の田中がせきをした。
「ゲホッ、ゲホッ」
「きたねーな、やめろよ」
「ご、ごめん……なんだか寒気がして、具合が悪いんだ。保健室に行ってくる」
 なに? 
「マジか? おい田中、インフルエンザじゃねえの?」
「まさか。この間、インフルエンザにはかかったから、違うよ」
「インフルエンザA型だろ? B型にかかったのかもよ」
 前回、学級閉鎖になった時は、ほとんどA型だったと先生が言っていた。
 もし、インフルエンザB型だったら。
「またインフルだなんて、いやだな。ああ、頭が痛くなってきた」
「待てよ」
 立ち上がって保健室に行こうとする田中を、むりやり座らせた。
「おまえ、今日1日、ここで座ってろよ」
「な、なんで?」
「B型が流行れば、また学級閉鎖になるかもしれないじゃん」
 田中のマスクをむりやりはぐ。
「だ、だめだよ。それに本当に具合が悪いんだ」
「おれのいうことが聞けないのかよ」
 にらみつけると、暗い顔をしてまた座り直した。
 その日、ずっと田中はせきをしていた。
 熱が上がってきたらしく、最初は赤い顔をしていたが、下校の時は真っ白い顔でガタガタと震えていた。
(あれは絶対にインフルだな。ばっちり流行らせて、学級閉鎖にしてやろう)
 おれは予防接種もしているし、マスクも一度もはずさなかった。
 田中は足を引きずるようにして、帰って行った。
 
 翌日、田中が自宅マンションから転落し、死んだと聞かされた。
 突然、ふらふらと立ち上がって、窓の外にダイブしたらしい。
 インフルエンザ脳症らしいとのことだった。
 インフルエンザ脳症というのは、高熱のせいで脳に障害が起こり、けいれんしたり、異常な行動をとったりすることだ。
 熱のせいで頭がおかしくなって、発作的に飛び降りたと先生が説明した。
(おれのせいだ)
 そう思ったが、だまっていれば誰にもバレることはない。
 おれは何食わぬ顔で田中の葬式に出席した。
 
 そして、目論見通り、田中の葬式が終わったあたりからチラホラと発熱するやつらが出始めた。
 インフルエンザB型だった。
 それはあっという間にクラス全体に感染し、学級閉鎖になった。
 おれはまた、ゲーム三昧の3日間を過ごすことができた。
 
 日に日に暖かくなり、「インフルエンザの流行は収束」というニュースが出た。
 おれはつい、気がゆるんでマスクを外した。
 それがよくなかった。
 せきが出始めたと思ったら、突然高熱が出て、身体中の関節が痛くなった。
 そして今、病院のベッドに横になり、高熱にうなされている。
 流行遅れのインフルエンザにかかったのだ。
 しかも、A型でもB型でもない、新型だ。
 新型だから、予防接種も効かない。
 インフルエンザには似た型があって、この新型の場合、前回のインフルにかかったやつらは耐性ができているらしい。
 だからクラスのやつらは、ほとんど無事だった。

 病院で解熱剤と点滴を受けたが、熱は下がらず意識が遠のいていく。
 おれはもう、助からないだろう。

 田中がベッドの横で、ニヤニヤ笑いながら待っているから。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み