第1話 遺影

文字数 717文字

 うちには仏間があって、ご先祖さまの写真が壁にずらりと飾られている。遺影というやつだ。
 ぼくが小さいころに亡くなったおばあちゃん。おばあちゃんのお父さん。軍服の男の人は白黒写真で、ぼくが生まれるずーっと前に死んだ人だ。
 小学6年生にもなってと笑われそうだけど、ぼくはこの仏間が苦手だ。
 いや、正直に言うと、めちゃくちゃ怖い。
 写真の人が、じろっとにらんでくるような気がするから。もし、死んだ人の写真とばっちり目が合っちゃったら……考えただけでゾーッとする。
 いつもだったら絶対に入りたくない部屋だけど、今日はお盆だ。お坊さんが仏壇にお経をあげにきたので、みんなで仏間に正座しなくちゃいけない。ぼくも、しぶしぶ一番うしろに座った。
 いやだなあ……写真に見下ろされているような気がして、頭のてっぺんがざわざわする。
 そんなわけない。気のせいだ。見なければいいんだ。でもそう思えば思うほど、気になってしまう。
 とうとう、チラッと壁の写真を見てしまった。
「うわーっ!」
 恐怖でひっくり返った。おばあちゃんの写真が、目がぐるんと動いて、ぼくを見たんだ。
「怖い! お母さん!」
 思わず抱きついたけど、お母さんは一生懸命に仏壇に手を合わせていて、相手にしてくれない。
「見て! お母さん、写真の目が動いたんだよ!」
 お母さんをゆさぶっていたら、お母さんの視線の先にある仏壇の写真とも、目が合ってしまった。
 ……そこにはぼくがいた。
 悲しそうな目で、ぼくがぼくを見ている。
 顔を上げると、ご先祖さまの写真もみんな気の毒そうな顔をして、ぼくを見ていた。
 あれ? ぼく、もう死んでるんだっけ……?
 気づいた瞬間、ぼくは、ぼくの遺影の中に引き込まれていった。

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