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文字数 2,033文字

「あ、熱い……」

「そのセリフ……聞き飽きましたわ」

陽炎揺らめく未開の荒野に、エンストした愛馬(マシンホース)を押し歩く美少女二人。
名を『シャトラ・グランセ』、『サクナ・キャメルライン』と言う。

「オンラインエリアまで辿り着けるかな……。まったく、誰のせいでこんな目に……」

「ワタクシのせいだと仰りたいの? シャトラが補給は現地ですればいいって急かしたからでしょう」

「普通、DTS利用契約更新を忘れる?」

「普通、あの言い方は近場だと思うでしょう?」

「おいしい話は競争なの! フツー!!」

「のし上がるには計画性が大事ですの! フツー!!」

「これだから元お嬢様はゆとりだって言うのよ! たるむのはその胸だけにしろ!!」

「これだから元貧民は頭が足りないのですわ! 貧しいのはその胸だけにしなさい!!」

「やんのか、クソビッチ!」

「望むところですわ、まな板女!」

二人は取っ組み合いを始め……られなかった。
お互いの肩を鷲掴んだままズルズルと腰を落とし、うつ伏せになって動かなくなった。

「水……。なんでもいいから水分を……」

「ピチピチのお肌が干からびてしまいますわ……」

「今こそ、その無駄なオッパイを使う時じゃない? 出ないの?」

「出たとしてもワタクシはどうすれば? お小水でもくだささるの?」

「いよいよ頭がイカレ始めたようね……」

荒野が3割も占める惑星『アマリリス』の夏は、容赦なく照り付ける二つの太陽が重なる地域がある。
ここはまさにその地域だった。

「ねぇ、死ぬ前にお願いがあるんだけど……」

「ワタクシは慈悲深き女神へと次元上昇(アセンション)するところなのです。何でも仰って」

「一度ファーストキスを体験してみたかったんだけど……いいかな?」

「すでに全裸待機中ですわ。唇を奪うなり、オッパイをしゃぶるなり、お好きになさって……」

荒野に一凛の百合が花開こうとしていたまさにその時、上空を一機の航空機が通りすがった。
水平線に着陸していく一部始終が二人の眼に焼き付けられる。

「アレって……オアシスじゃない?」

「……蜃気楼じゃありませんわね?」

「わーい! 水だぁぁぁぁ!!」

「あははは! お待ちになって~!」

脳をオーバーキルされた全裸の美少女達は、最後の楽園を目指して荒野を駆け抜けていった。



「キャッキャッ♪」
「ウフフ♪」

若きリビドーが力を与えたのか、美少女達は無事、オアシスへと辿り着けてしまっていた。
濁りのない澄み切った泉で、美少女が水浴びしてはしゃぎ合う光景は、まさにこの世のヘブンだった。

「まさかワタクシ達、死んでませんわよね?」

「試してみる?」

お互いの胸のスイッチをつねり合う美少女達。
現実のスイッチがオンになり、二人は悶絶して水柱を立てながらひっくり返った。

「何すんのよ! もげるかと思ったわ!!」

「それはこっちのセリフですわ! 貴方は最初から陥没しているでしょう!!」

「やんのか、クソビッチ!」

「望むところですわ、まな板女!」

今度こそ取っ組み合いが始まる。
しかしその様子を止めるでもなく、見とれている集団が居た。

「どこからともなくやって来たと思ったら……ハイアッパーでもキメてやがるのか?」

ハイアッパーとはアウトローな開拓者(パイオニア)の間で流行っている合成麻薬である。

「貧乳の方も巨乳の方も、顔はレベル高いな……」

「あぁ。しかしトンドール様の目の前で……」

黒服の男達がプライベートビーチを設営している目の前で、恥ずかしげもなく繰り広げられている痴態(ちたい)
その後方から水着美女を(はべ)らせた、3メートルはありそうな丸い大男が現れる。

「ブヒャヒャヒャヒャ! なかなか元気でめンこい子豚やないか。オイトンのワイフ・コレクションに加わる挑戦権を与えたろ」

丸男の合図で黒服達が一斉にティーザーガンを構える。
貧乳女が巨乳女の両胸を鷲掴み、巨乳女が貧乳女のツインテールを引っ張り上げたところで、ようやく二人は周囲の状況に気付いた。

「ななな……何? ヤバくない!?」

「両手を離さないでくださる? お嫁にいけなくなってしまいますわ」 

「そんな事言ってる場合っ!?」

慌てて岸へ上がろうとした二人だが、水面を電流が(ほとば)り瞬く間に気を失ってしまった。
伸びきって泉に浮かぶ美少女達を黒服達が回収する。

「バーベキューは中止や。予定早めて目的地へ向かうでぇ。こいつらをピギータイムに参加させる準備をさせるンや」

「かしこまりました、トンドール様」

撤収を始め、航空機への搭乗を始める一団。
その一部始終を岩場の影から観測する者あり。
機械仕掛けの白馬に跨ったタキシード紳士が、長銃を航空機に向けマーカー弾を発射した。

「……見つけたよ」
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