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文字数 2,212文字

『ゴア警報発令! この先は非常に残酷なシーンが予想されます。苦手な視聴者はチャンネル移動をお願いします』

中継ドローンが非常灯を回転させて、周囲を赤く染め始めた。

「まさか爆発するの!? サクナ、急いで!」

「婚活と一緒。焦っても行き遅れるだけですわ」

覆面から奪った通信端末を改造して正規フロンティアネットに接続、DTS利用規約を更新して地上の愛馬(マシンホース)のエナジーロックを解除、オートでこっちへ来るよう慎重に操作するサクナ。

「バリューセットもつけましょうか? ワタクシ、そろそろ小腹が空きましたわ」

「バカっ! こんなところで爆発したらあっという間に生き埋めよ! 胸のタンクで我慢しろ!」

「貴方のように栄養不足になるのは……」

「危ないっ!」

サクナが突き飛ばされた空間を何かが猛スピードで駆け抜けた。

「……シャトラ?」

隣にいたはずの相棒の姿が消えている。

『あーっと、早速一人捕まったぁ! 食用にされたピギーは一体どんな食べられ方をされるのでしょうか!』

鍾乳洞の中を高速で巨大トンボのようなものが飛び回っている。
その先端には貧乳美少女がガッチリ捕らえられていた。

「巨乳だったら即死だった……」

巨大なアゴに引き裂かれないよう胸の前のスタンスティックを両手で支え、必死に粘り続けるシャトラ。
美少女の小さな背中にはトゲトゲしい脚が食い込んでおり、引き寄せる力は大した事ないものの、このままではジリ貧だ。

「原生生物を改造した違法生物兵器? ドローンの照明が届かなくても見えてるみたい……」

惑星開拓率が100%になるまで、無許可の生態系改造は禁止されている。
飼い慣らすために人工的に改造したのなら通報案件である。
障害物を避けながら高速で飛び回る怪トンボは痺れを切らしたのか、突然急降下を始めた。

「……これはアウトな感じ!」

激突を覚悟した瞬間、怪トンボは軌道を変えてジグザグな蛇行飛行に移行した。
落石だ。
頭上から次々襲い来る落盤を怪トンボは察知し、自衛を優先した行動に切り替えたのだ。
崩れた天井から外界の光が差し込み、二つの影が地底洞窟に降下して来る。

「これで貸しはチャラですわ。ワタクシのマシンホースは掘削するのにオーバーヒートしたから、後はご自身でなんとかなさって!」

「そういう事ね! ほら、ご主人様はこっちよ!」

シャトラのエアトライク———マシンホースが怪トンボに突撃する。
拘束が緩んだ隙を狙って得意の金的蹴り(メルヘンキック)を腹部に叩き込むと、彼女は怪トンボを踏み台にして愛馬へ飛び移った。

「よーしよしよし、いい子ね」

腰を浮かせたまま操縦席に跨ると、手綱のレバーを両サイドへ引き伸ばす。
連動して各部が変形し、マシンホースは二足歩行の近距離戦闘モードへ移行した。

「嫁入り前の可憐な美少女を傷つけるなんて……、きっちり落とし前をつけさせて貰うわ!」

両サイドにマウントしたマシンガンが怪トンボの羽を穿つ。
間髪入れず、飛行性能が低下した目標に向かってブーストジャンプし、頭上でクルリと一回転して踵落としを脳天に叩き込んだ。

「昇天直撃! エンジェルストライクぅぅぅ!!」

シールドバリアに包まれた急降下キックで、怪トンボはバラバラに粉砕された。

「アーメン」

静かに合掌するシャトラ。

『……な、何という事でしょう! 番組始まって以来のアクシデントです! しかしご安心ください。第二、第三のハンターが次々と彼女達を襲う! 果たして……』

ドローンが再び赤い警報灯を発光させる———と同時に、対象は粉々に粉砕された。

「間に合わなかったかしら?」

四足歩行型に変形したマシンホースの上で、スナイパーライフルを構えたサクナが苦虫を潰したような表情を浮かべている。

「サンキュー、サクナ!」

「お喜びになられるのはまだ早くてよ。アレが多分引き寄せる合図になってたのですわ」

ちょいちょいと地底湖の奥を指差すサクナ。
無数の影がこちらへ向かって来るのが見える。

「キモ……」

「ワタクシ、虫は苦手ですの」

エアトライクモードに変形させ、一足先に天井に拓けた穴へ向かうサクナ。

「待ちなさい! アタシだって好きじゃないわよ!」

続いてシャトラもエアトライクモードに変形させ彼女を追った。



「トンドール様。このままではハンターが他のピギーまで襲う危険性が……」

モニタリングルームの黒服が生物兵器の暴走を示唆した。

「……ブギギギ、稼ぎ頭のワイフを失うわけにはイカん! あン区画を爆破や!」

「か、かしこまりました!」

———ドゥン!!

二人が脱出してすぐ、地表が地響きを立てて陥没した。

「低辺ランカーが調子に乗り腐って……」

「あの二人のチャンネルはなくなりましたが、他のチャンネルは通常通り続行出来ます!」

「ただちに処刑チームを派遣します!」

豚王の機嫌を直そうと黒服達がなだめる。

「そそるやないか、ピギーエンジェル! オイトンが直々に可愛がったる。あの可愛い顔がどんなに醜く引き裂かれるか楽しみやっ! オイトンのマシンフォートを出せぇ!!」

「やばい、トンドール様がキレた……!」

「開拓王との格の違い、解体しながらたっぷり見せつけたるわっ!!」
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