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文字数 2,541文字

「うわ、クレーターみたいになっちゃってるよ」

「他の女の子達は大丈夫かしら?」

美少女ペアはゆっくりマシンホースを安全地帯へ降下させた。

「あぁぁぁぁん!?」

「突然なに喘ぎ声あげてるの?」

「フロンティアネットがオフラインになりましたわ!」

「げ。あいつ、公共DTSステーションごと爆破しちゃったわけ!? バレたら極刑だよ?」

「たぶんブッシーの仕業にするのですわ。もしかしたらこのクエスト、最初からガセだったんじゃ……」

ジト目で相方を見つめるオッパイオニア。

「アタシはいつも通り、パイオニア御用達の朝のフロンティアチャンネル見てエントリーしただけだし!」

「貴方はいつもいつも、TVショッピング感覚でクエストを請け負って! チョロいにも程がありますわっ!」

「だって”分からない”から調査対象になってたんだし、信憑性まで分かるわけないじゃない!」

言いながらクエスト受注画面をホロウィンドウで表示させるパイナイア。

「何ですの、この”今なら参加賞で若くて可愛いビギナー女子に豚肉1年分”って!」

「まさにアタシ達の事じゃない! 貰えるもの貰って何が悪い! 謎肉じゃなくて豚の肉だぞ!? アタシはまだ育ちざかりなんだっ!」

「胸が貧しい女は心も卑しいですわね! そもそも常識的に考えて、ビギナーはランク外パイオニアの事でしょう!」

「……えっ!? 貰えないの? こんなに若くて可愛いのに?」

「まったく。誰かさんのせいでとんだタダ働きでしたわっ! だからいつまで経ってもDTSの定期契約が出来ないんですっ!」

「うっさい! だいたいお金に困ってるのはあんたの浪費癖のせいじゃない!」

「見栄を失ったら女として負けですわ! そもそも誰のおかげで美少女パイオニアなんて呼ばれるようになったと思ってるんですのっ!」

「いくら外見や装備にお金かけたってお腹は膨れない! 胸も膨れないのよっ!! いいじゃない、たまにはご馳走を食べさせたいなぁと思ったって!」

うわーんと泣き始めた相棒を見て、サクナは質素な食生活をシャトラの料理スキルで誤魔化させてきた事を思い出した。

「べ、別に高級食材じゃなくたって、シャトラの料理は美味しいですわ……」

欲望に忠実で真っ直ぐなシャトラを時々妬ましく思う。
見栄っ張りな自分には、こんなに幼稚で醜く、鼻水を垂らしながらワイルドに泣く事は出来ない。

「とにかく、ホームに戻って傷を治しましょう? その背中、とても痛々しくて見てられませんわ」

怪トンボとの戦いで怪我をしたシャトラの背中は赤く滲んでおり、自分を庇ってこうなったんだと責められているようでとても辛かった。

『ブヒャヒャヒャ! 見つけたで、ピギーエンジェル!』

美少女達に巨大な影が落ちる。
見上げると巨大な航空機が頭上でホバリングしていた。

「ピチピチ☆エンジェルですわ!」

『そんなキラキラネーム、どうでもええ! 今からオイトンが直々に身の程知らずな子豚を調教したる! せいぜい醜く泣き叫んで、銀河の支配者を喜ばせながら食用になれぇ!』

「食用……ですって?」

『ブヒッ!? なんやそっちのペチャパイ、中々醜い姿になっとるやないか! 30ピギーポイント進呈や!』

「……醜くないですわ! そう思っていいのは、宇宙一エレガントなワタクシだけですのっ!」

『それが身の程知らず、言うトンねんっ!』

航空機が変形を始める。

「戦闘用のマシンフォート!? 今、ステーションからのダークエナジー供給は止まっているはず……」

『見さらせっ! これが開拓王の力や!!』

巨大人型ロボットに変形した航空機が大地へ立つ。

「……貴方、自分で立つ事も出来るのですね。てっきり醜く太り過ぎて、自分で歩く事すら出来ない豚だと思っていましたわ」

人型になったという事はマスタースレイヴ方式という事。
パイロットの動きを装置が増幅してトレースするシステムだ。

『戦えン豚はただの豚や』

両者にマシンホースによるデュエル申請通知が送信された。
パイオニアにランキング制を導入した以上、パイオニア同士の争いも避けられない。
しかし潰し合う事になれば、惑星開拓が進まず本末転倒になる。
そこで暗殺等を防止するためマシンホースによるデュエル申請式が採用されているのだ。

『形だけや。知っての通りフロンティアネットは今、オフラインや。だが後で監査が入っても困るンでなぁ。改竄するにも元データは必要や。オイトンは1臆クレジット賭けたる』

「そもそも貴方、規格がマシンホースじゃなくてマシンフォートじゃありませんの」

『ブヒャヒャヒャ! ちゃんとマシンホースに乗っ取ンで! オイトンが着ているこのピッグアーマー自体がマシンホースや。金の力で何でも解決できる、それが開拓王や』

「……ほんとに着ぐるみでしたのね。それはもうマシンホースじゃなくてマシンポーク……」

この申請を受理すれば勝ち目のない決闘が始まる。
通常であれば命まで取られないようジャッジシステムが働くのだが、オフライン戦闘にルールはないのと同じだ。
これがこのシステムの最大の欠点だが、”ルールがない事がルールである”事を利用する闇デュエルの存在は、ランカーにとって周知の事実である。
しかし、これを承認しなければ戦闘記録を調べられた時、摘発される恐れがある。
トンドールは証拠を機体ごと叩き潰す事が出来るだろうが、こちとらローンが残っているためそんな事は出来ない。

「迷う必要ないでしょ! アタシは裸踊りを賭ける!」

デュエル成立と同時に相棒が先制攻撃を叩き込んだ。
巨体ゆえにマシンガンは全弾命中したが、相手は傷一つ付かなかった。

「シャトラ、何勝手に承認してますのっ! って言うか、豚王もよく裸踊りで承認してくれましたわね!?」

「アタシの裸踊りは1臆クレジットの価値があるのよ!」

「勝てるわけないですわ! バリアの出力が違い過ぎますっ!」

「じゃあ逃げればいいじゃん。あの燃費悪そうなデカブツのエナジーカートリッジが尽きるまで」

「……あ、なるほど」
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