脱出11

文字数 1,412文字

暗闇に浮かんでいると、どうなっているのか全くわからなかったが、水位は上がっているはずなので、俺は上昇しているはずだし、いつの間にか天井に近づいているのだろうと思っていたが、全くわからなかった。手を伸ばして水より上の何かをつかもうと考えたが、バランスを崩すとそのまま沈んでしまいそうな気がしたので、動くことはままならなかった。じっとしておくと、災難が過ぎて元に戻るはずだ。だが、元に戻ったとしても閉じ込められたままだ。閉じ込められたのが普通であれば、それしか知ってないのであれば、別に恐れることも嫌がることもない。だが、俺は知っているんだ。光溢れる地上の世界があって、自由に動き回ることができる。そこに住んでいたことがある。風が吹いて、潮騒が聞こえて、太陽が地上を熱して、雲が流れていく。あの静かな光溢れる生活を俺は、愛していてた。本当に好きだったんだと、改めて思った。また、戻りたい。でも、俺は知ってしまったんだ。自由に考えられることを。地上にいる頃は愛すべき世界で、何も自分で考えることができていなかった。ここでは、自由に考えることができる。真っ暗闇でも、好きなことを好きなように考えて、それを話すことができる。城の支配から地下に追放されることによって、それを取り戻したのならば、それは手放したくない。自由な意思は、頭の中に新しい世界を描くことができる。これも愛すべきものだろう。決して手放してはいけない。
本当に大事なものが分かったのなら、それを手に入れるべきだし、それを守るべきだ。地上に、自分の思想を持って、誰にも支配されずに生活できるのであれば、それは歓迎すべきことだろう。だが、本当にそれは可能なのだろうか?
大勢の人間がいるのならば、好き勝手にすると、欲しいものを奪い、気に入らない奴を殺すから、じきに滅びる。だから秩序がどうしても必要になる。だが、秩序を作る奴が正しいとは限らないし、どうしても差が出てくる。小さな支配ができてしまう。それは暴力によるものだ。強いものが残り、弱いものが滅びる。数が減るようになっている。すると、だれかが止めようとする。弱きものが集まって、強い奴を閉じ込めようとする。その弱い連中が集団になって、大きな力を持つようになる。地上の街は、城という強いものが、弱い連中の意思を奪い、支配している。だったら、弱い連中を集めて、城をぶっ壊せば、自由を取り戻すことができるのではないか?あいつらは俺たちの頭の中に装置を入れて、思想を制限しているが、城の地下ではそれができない。好きなことを考えることができる。つまり、あいつらの思想支配に、俺たちは完全に負けているわけではないんだ。だが、地上が城の所有物であり、地上の人間が生かされているだけなら、逆らうことによって、死ぬだけだろう。夢の邦で、夢を見ている方が、死なずに済むわけだ。
暗い中で考えていることは、何か同じことの繰り返しになっている。もう直ぐ暗闇に沈んで死ぬかもしれないのに、生きた上での選択技の枝伸ばしに必死になって集中している。だが、不思議と先のことを考えていると、水中でのバランスを体が勝手に取ってくれる。生きようとしているから、体も生き残るように勝手に動いてくれる。どうやって浮かぶか考え続けるよりずっと、楽だ。それに、仲間が生きているか確認さえしようとしてない。生き残ろうとするというのは、実際、そういうことなのかもしれない。
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