脱出1

文字数 1,136文字

「・・地下の人間を集めてどうするのさ?」
「力を合わせて地上に出るんだよ。ここの夢の邦じゃない地上に。」
「夢じゃなければ、希望の邦ってところか?」
「邦じゃない、所属とか関係ない場所、そうだ、希望の園だ。」

脱出

計画は時間をかけた。書くものもないし、教えてもらったことがないから書くことができないので、タイゾウとの話し合いで頭の中に地下の地図を描いていく。薄暗い中を数ヶ月生活していると、目が慣れてくるし、見たことは頭の中に蓄積されていく。タイゾウは俺より数週間早く来ただけだったが、俺がくる前のパートナーに色々教えてもらったらしい。そのパートナーはタイゾウに教えたいことを一通り教えると、死んだ。死んだら海へ続く真っ暗な水槽に放り投げるように寝場所のスピーカーより音声指示が出る。声は関しドローンと同じような丁寧な男の声を模した電子音。たまに「通路の海藻が溜まっている」とか聞くこともある。誰かが見ているわけではなくて、センサーに反応して、それに応じたセリフが再生されている。
タイゾウと俺は、この点でもしかしたら、ここの管理はただのセンサーだけではないか?と仮定に至った。安定した状態を正としたセンサーが、質量、置き場所などが違えば感知して、元に戻すように働く。それだけのセンサーが管理をしているのではないかという推理だ。
海藻が想定より多かったら邪魔になるので駆除。作業員が死んだら安定してないので廃棄。
その管理思想に対して、ただ、とにかく、ここから逃げたいとしか思わなかった。
安定の中に閉じ込められて、ただ、死んでいく。
安定という何も動かない状態は、死んでいるのと変わりないのではないか?
地上でもそうだった。不安定な存在と弥太郎に判断されたら、排除される。街の安定と個人の不安定なら、町の安定が重要である。これが、夢の邦の正体だった。眠って、食って、争うことなく、つつがなく暮らす。それが争いの時代から移行するのに、重要なことになっていたようだ。タイゾウにそのことを話すと
「どうだっていいじゃないか。俺は賢い、安定している奴らには理解できない。だから外に出された。それだけだと思うよ。でもさ、人は個人になろうとすると、集団から弾かれるんだ。でも個人になろうとする人は、集団から認められている個人になりたいんだ。それが自立ってもんだろう?別に一人でなんでもできるから自立じゃないんだ。集団が「あいつは一人でなんでもできる」と評価しないと自立したことにならない。しかしな、街は個人の自立を拒否したんだ。個人の自立は安定を欠くからな。」
タイゾウは自信ありげに言い放つ。俺は少しイラっとしたのでタイゾウに緩めのローキックを入れる。
「痛てーじゃねーか!お前は、やっぱりそういう奴か!」
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