脱出14

文字数 1,298文字

体は鉛のように重く、冷え切っていた。服を脱ぐと、よーちゃんが服を持っていく。タオルと着替えが用意されていた。
 「シャワーもあるよ。お湯も出る。どうする?」
 「使う。」
 お湯が出るシャワールームなんて久しぶりだった。湯が雨のように降りかかる。冷え切った体が温められ、留まっていた血が通い始める。生き返るような気持ちで湯の雨に打たれている。地下での数ヶ月、暖かい湯で体を洗うなんてなかった。真っ暗でわからなかったが、肌が垢や汚れで黒ずんでいた。それを剥がすように洗う。髪の毛も指が通らないほどだったが、湯が汚れを溶かしてくれる。それに、ここには石鹸があった。湯で体を洗うのがこんなにも気持ちが良いものだったなんて!生き返るような気分だ。タイゾウも死ぬ前に湯のシャワーを浴びさせてやりたかった。あいつは真っ暗な地下で、冷たい水に溺れて死んだ。
 「出てけ、次は俺だ、お前のような弱者にはくつろぎの時間は必要ない。必要なのは反省するための僅かな知能だ。」
 ワッショイがシャワー室に入ってきて俺を追い出した。仕方なく体を拭いて着替えた。体を洗った後に新しい服を着ることが、幸せに感じる。当分こんなことがなかった。
 「よーちゃん、俺とワッショイは、また坑道に戻されるんだろうけど、それ、誰がするんだ?もしかして弥太郎が降りてくるのか?」
 「弥太郎は、来れないよ。地上でね、溺れて死んだ。街の人を洪水から逃がそうとして、茶色の川に飲み込まれたそうよ。」
 「弥太郎が、死んだ?人助けなんてするのか、あいつが!それより、なんで、そんなこと知ってる?城の地下の人間は、地上のことを見ることが出来るのか?」
 「出来ないよ。弥太郎の次の人が来て、言ってた。地下坑道の扉を開けて救助しろって命令したのもその人よ。もう少しで、ここに来て、杉山とワッショイに話をするって。」
 そこに女が四人入ってきた。よーちゃんと一緒に城の地下に閉じ込められた連中だろう。みんな白い服を着ている。髪が長く、同じような格好をしている。
 「みんなでね、あんたたちのこと、見てたの。杉山とタイゾウのエリアが一番高いところだから、二人だけ助かるのかな?って思ってたけど、タツオとワッショイが上がってくるとは思わなかった。開閉ボタン押さなきゃよかったのに、タイゾウってお人よしだったのね。私たちは、新司令から残り二人になったらドアを開けろって、言われてたの。弥太郎だったら、私たちに命令もしなかったと思う。今までは城の声だけで動いていたけど、今回は新司令からだったから、驚いたんだ。つまり、私らも城のことも、地下のことも詳しく知らない。」
 残りの女たちは二人ほどは、何も喋ろうとしないし、反応もない。おそらく、心が死んでしまった人たちだろうと思った。もう二人は頭に障害があるように見えた。会話ができるのはよーちゃんだけのようだ。城は、逆らう意思のない従順な人を地下の世話係においていたようだ。地下とは、地上の街からあぶれた人が、死ぬまで働かされる場所なのだろう。それを弥太郎が選んでいたのか?よーちゃんの話からすると、あいつは司令だったってことになる。
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