March,1989

文字数 509文字

 一ヶ月間の音信不通。彼が何を考え、どういうつもりでいるのか、わたしにはまったく見当もつかない。百二十キロの距離とはそういうことだ。毎週会っていたのが、月に三回になり、二回になり、電話すらかけて来なくなる。
 彼はもうわたしが住んでいる世界とは違う世界に住んでいる。彼が、今、何に興味を持っているのかさえ、わたしにはわからない。わたしのまったく知らない人たちに囲まれて、まったく知らない場所で、まったく知らない仕事をして生活している彼が、わたしにはわからない。
 わたしは彼の電話を待つ他、何もできない。それが、彼のやり方かも知れない。はっきり「ノー」が言えない人。
 先月のデートも、三週間の音信不通の後だった。「逢えなくても良いから、週に一回、電話ぐらいしてね。」別れ際に言ったわたしの言葉に彼は微笑んで頷いた。
 逢ってる時は、必要以上に優しかった。
 卒業したら大学近くの下宿を引き払って、自宅から通勤することになるわたしは、彼の安息の場とはならなくなるだろう。ゆっくりと眠れる部屋を、他に見つけたのかもしれない。

 わたしは待つことの不安に疲れ始めている。
 不安を紛らわすために、仲間と馬鹿騒ぎをしてますます不安になる。
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登場人物紹介

河相 語り手

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