私は田舎の静物だよ
文字数 894文字
私の弱い視力でも細部の装飾まで手に取るようにわかる絢爛たるお城もある
一部が全部である草原 林 湖……
ただひたすら美しさに絡めとられるので
頭の中でうれしさが沸騰して
詩を読む旅はやめられないな、という気分に打たれる
でも、これ
この詩を書いた作者の頭の中の風景とは
まるで違う、という場合もあるんだよね
悲しいけれど
旅は経験でするものなのかもしれない
私の詩が皆に結ばせる景色はどんなのだろうと気になりはじめる
「墓地と工場が一つあるだけの場所に立っている、意味がよくわからないカタカナ四文字のバス停」だろうか(福岡県
「駐車場にずっと鎖が張ってあって、いつ開いているのかわからない、と皆が噂している『日本の独楽資料館』」だろうか(福岡県飯塚市に存在)
「近づくと『炭坑節』の歌が流れてくる案内端末がある、石炭記念公園」だろうか(福岡県田川市に存在)
「遠くから見ると黒い水の染みで、近づくと無数の羽虫の死骸だった田んぼの横の電柱の下」だろうか
「車の前に飛び出してきた後ろ脚の長い影が、ドーベルマンかと思ったら鹿だった国道◯号線」だろうか
「生活習慣病の心配があるので血液検査がしたい、と言ったら、『会社の健康診断があるでしょう?』と、ベテラン看護師さんが二人も出てきて『金額が高いからもったいないよ』『そうそう』と説き伏せられ結局帰るように勧められた隣町の病院」だろうか
「無断で仏像を置いて、支障やたたりが出ても責任は負いません、と木の板に書かれてある穴場の観光名所」だろうか
「数羽のカラスが必死で奪い合っているが、どこにそれほど魅力があるのか今一つわからない鉄塔の腕部分」だろうか
「夢の中に出てくる石の建造物がなぜか懐かしくて、古代遺跡と思い込むと幸せな気持ちになった河川敷駐車場の止め石と
これら私の詩の中に見える景色とは
まるで違うものをあなたが見ていてもいい
あなたが隠れている屋根を見つけられるのは
どうあっても
空を区切らず飛んでいける鳥や種だけ
その目になろうという空想に苦心する
私は田舎に
孤独にならないために平易でいることにした
デザインを持つ静物だよ