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文字数 1,824文字
町から出てすぐの小高い丘に座りながら、ぼーっと夕焼けを眺めている1人の青年がいた。
そいつはこちらに気がつくと、一際長い犬歯を見せながらニコッと笑った。
「どうも“黒ヤギ”くん。“黒ヤギ”くんは時間守ってくれるからありがたいよ。ほかのやつらじゃこうはいかないよね。この前なんて2時間も待たさr」
「“黒犬”、世間話はいいから」
話を遮る。こいつはしゃべりだすと延々としゃべり続ける。
「はいはい、冷たいなぁ君は。」
“黒犬”と呼んでいるこいつも、業魔だ。
俺に人権印を刻んだ野郎に仕事が欲しいと連絡した日から、こいつは現れるようになった。仕事とその報酬を携えて。
“黒犬”は左手で短い黒髪を触りながら立ち上がると、近くに置いてあった袋右手で掴み、俺に手渡す。
その右手の甲には当然のように人権印が刻まれている。
渡された袋から、ずっしりとした重みを感じる。中をのぞくと、いっぱいに金貨が詰め込まれていた。
「全額しっかり入ってるよ。俺、確認したんだ。」
それは本当のようで、追加の報酬も全額しっかりと入っていた。
(もうすぐだ。あと何回か仕事を受ければ……医療費まで届く! あと少し、あと少しなんだ)
父さんが望んでいようといまいと関係ない。治療さえ受けてくれればそれで……。俺の中から溢れ出そうとする罪の意識を、無理やり押さえつける。
「“パパ”も仕事熱心で嬉しいって、仕事をあげた甲斐があるって言ってたよ」
ニコニコと、首に下げている沢山の白い装飾のついたネックレスをいじりながら、話しかけてくる。
黒い服を着ていると白い装飾は、いやでも目立つ。その装飾品をよく見ると、それは“歯”だった。
「お!“黒ヤギ”くんも興味ある?これエミリアって子の下顎の歯なんだけど、その子とっても歯が綺麗d」
気色の悪い趣味だ。憤りを噛み殺し、話を遮る。
「仕事はあるのか?すぐ受けられるやつ」
“黒犬”はニコッと笑う。
「あるよ。今日の夜、この町のすぐ近くで、荷物の護衛だって。ほかの業魔もいるから楽だと思うよ」
「どうする?やる?」
迷ってる時間なんてなかった。俺のやっていることは、自己満足なのかもしれない、自己中的なのかもしれない。けどそれを苦悩する過程にもういないのだ。もう後戻りできないところまで来ているんだ。
自分に言い聞かせる。迷う暇を与えないように、
「…受ける。詳しい場所を教えろ」
「そう来なくちゃ」
夜まで適当に時間を潰し、黒犬の指定した場所へ向かう。家には一度も帰らなかった。次覚悟が揺らいだら、もう進めないような気がしたから。
町の門をくぐり、ひたすら道を進み続ける。しばらく歩くと平原が森へと変わり、もう少し進むと左右に道の分かれる場所につく。
(ここら辺のはずなんだけど……)
右左を見渡すと左の方に、馬車が止まっているのが見える。馬車につるされたランタンが、その馬車の近くに佇む二つの人影を映していた。一人は背が高く筋肉質な男、もう一人は俺より背が低く小太りな男だった。
その二人に近づく。二人はこちらを無言で見つめる。
「俺は“黒ヤギ”って呼ばれてる。仕事に来た」
そう、一言だけ言うと、背の高い男はニタニタと笑いながら返事をする。
「よろしくだ。俺は“鎧鼠”って呼ばれてるし、呼ばせてる。このデブのおっさんは…おっさんだ!」
小太りの男はため息をつく。
「いい加減名前覚えてくださいよ。私はティモと申します。」
「あぁ、そうだそうだキモだ!思い出した。」
「…ティモです。全然思い出せてないじゃないですか。まぁ、自己紹介はこんなところにしときましょう。早速出発しますので馬車に乗ってください」
ティモはそういうと御者台へ上り、馬の手綱を握る。“鎧鼠”と自称した男は、俺の前をズカズカと通り、荷車の幌をめくり、後ろからに乗り込む。俺もそれに続く。
幌馬車には、自分たちの他に人間が、9人ほど乗っていた。大人8人、子供1人。質素の服を着ていて、足枷や手錠で自由を奪われていた。荷物ってまさか!驚く俺に気がついた“鎧鼠”は笑う。
「これが俺たちの運ぶ“荷物”。つまみ食いは禁止だからな」
左右に分かれ真ん中に道を作る“荷物”たち、“鎧鼠”はその道をふざけたことを言いながら、容赦なく歩き、荷車の前、御者台のすぐ近くにドカッと腰を下ろすと、動けなくなっている俺に、
「何止まってんだ。早くここ座れよ。」
と自分の目の前の空いている場所を指さす。
最悪な夜が始まる。
そいつはこちらに気がつくと、一際長い犬歯を見せながらニコッと笑った。
「どうも“黒ヤギ”くん。“黒ヤギ”くんは時間守ってくれるからありがたいよ。ほかのやつらじゃこうはいかないよね。この前なんて2時間も待たさr」
「“黒犬”、世間話はいいから」
話を遮る。こいつはしゃべりだすと延々としゃべり続ける。
「はいはい、冷たいなぁ君は。」
“黒犬”と呼んでいるこいつも、業魔だ。
俺に人権印を刻んだ野郎に仕事が欲しいと連絡した日から、こいつは現れるようになった。仕事とその報酬を携えて。
“黒犬”は左手で短い黒髪を触りながら立ち上がると、近くに置いてあった袋右手で掴み、俺に手渡す。
その右手の甲には当然のように人権印が刻まれている。
渡された袋から、ずっしりとした重みを感じる。中をのぞくと、いっぱいに金貨が詰め込まれていた。
「全額しっかり入ってるよ。俺、確認したんだ。」
それは本当のようで、追加の報酬も全額しっかりと入っていた。
(もうすぐだ。あと何回か仕事を受ければ……医療費まで届く! あと少し、あと少しなんだ)
父さんが望んでいようといまいと関係ない。治療さえ受けてくれればそれで……。俺の中から溢れ出そうとする罪の意識を、無理やり押さえつける。
「“パパ”も仕事熱心で嬉しいって、仕事をあげた甲斐があるって言ってたよ」
ニコニコと、首に下げている沢山の白い装飾のついたネックレスをいじりながら、話しかけてくる。
黒い服を着ていると白い装飾は、いやでも目立つ。その装飾品をよく見ると、それは“歯”だった。
「お!“黒ヤギ”くんも興味ある?これエミリアって子の下顎の歯なんだけど、その子とっても歯が綺麗d」
気色の悪い趣味だ。憤りを噛み殺し、話を遮る。
「仕事はあるのか?すぐ受けられるやつ」
“黒犬”はニコッと笑う。
「あるよ。今日の夜、この町のすぐ近くで、荷物の護衛だって。ほかの業魔もいるから楽だと思うよ」
「どうする?やる?」
迷ってる時間なんてなかった。俺のやっていることは、自己満足なのかもしれない、自己中的なのかもしれない。けどそれを苦悩する過程にもういないのだ。もう後戻りできないところまで来ているんだ。
自分に言い聞かせる。迷う暇を与えないように、
「…受ける。詳しい場所を教えろ」
「そう来なくちゃ」
夜まで適当に時間を潰し、黒犬の指定した場所へ向かう。家には一度も帰らなかった。次覚悟が揺らいだら、もう進めないような気がしたから。
町の門をくぐり、ひたすら道を進み続ける。しばらく歩くと平原が森へと変わり、もう少し進むと左右に道の分かれる場所につく。
(ここら辺のはずなんだけど……)
右左を見渡すと左の方に、馬車が止まっているのが見える。馬車につるされたランタンが、その馬車の近くに佇む二つの人影を映していた。一人は背が高く筋肉質な男、もう一人は俺より背が低く小太りな男だった。
その二人に近づく。二人はこちらを無言で見つめる。
「俺は“黒ヤギ”って呼ばれてる。仕事に来た」
そう、一言だけ言うと、背の高い男はニタニタと笑いながら返事をする。
「よろしくだ。俺は“鎧鼠”って呼ばれてるし、呼ばせてる。このデブのおっさんは…おっさんだ!」
小太りの男はため息をつく。
「いい加減名前覚えてくださいよ。私はティモと申します。」
「あぁ、そうだそうだキモだ!思い出した。」
「…ティモです。全然思い出せてないじゃないですか。まぁ、自己紹介はこんなところにしときましょう。早速出発しますので馬車に乗ってください」
ティモはそういうと御者台へ上り、馬の手綱を握る。“鎧鼠”と自称した男は、俺の前をズカズカと通り、荷車の幌をめくり、後ろからに乗り込む。俺もそれに続く。
幌馬車には、自分たちの他に人間が、9人ほど乗っていた。大人8人、子供1人。質素の服を着ていて、足枷や手錠で自由を奪われていた。荷物ってまさか!驚く俺に気がついた“鎧鼠”は笑う。
「これが俺たちの運ぶ“荷物”。つまみ食いは禁止だからな」
左右に分かれ真ん中に道を作る“荷物”たち、“鎧鼠”はその道をふざけたことを言いながら、容赦なく歩き、荷車の前、御者台のすぐ近くにドカッと腰を下ろすと、動けなくなっている俺に、
「何止まってんだ。早くここ座れよ。」
と自分の目の前の空いている場所を指さす。
最悪な夜が始まる。