1-6 蝘蜓[カメレオン]の眼孔

文字数 682文字

 火炎に焼かれ、肉体の再生限界を超えた俺は、業魔化を保てなくなり人間の状態に戻ってしまった。

「ぢぐじょお! なんでだよぉ! あとすごじだったのにぃ!」

 俺は吠えた。
 クソ異端審問官が取り抑えようと近づいてくるのが見える。
 
「クッソ! クソクソクソクソ!」
 
 材料として使ってやった女が、一瞬人の形に戻るがすぐにドロドロに溶ける。業魔化のために使った人間は、どいつもこいつもこうなる。
 まぁ、二度と俺を視界に入れない点に関しては最高だが、この状況は最悪だった。
 
「こっち見るんじゃねぇ! こっちに来るんじゃねぇ!」
 
 いくら叫ぼうと容赦なくこのクソ共は近づき、この俺を捕まえようとしてくる。だが俺は叫ぶ。1つの可能性に賭けて…
 
「"黒ヤギ"! 近くにいるんだろ! 倍額はらう! 助けろ! 俺が死んだら仕事全部の報酬は無くなるぞ!」
 
 虚しい叫びが無人の街にこだまする。誰もが無意味な行為、異常な行動だと思っただろう。
 だがその叫びに呼応するかのように、少し離れた場所で巨大な肉風船が膨れ上がった。
 巨大な肉風船は一瞬で、形を作り出した。
 漆黒の毛で覆われた二足歩行の巨人。その顔はヤギを連想させ、漆黒の角が渦を巻いていた。腰からは丸太のように太い尾が生え、胸と背中には円錐状の黒い骨が突き出ていた。
 
「 "黒ヤギィ!”」
 
 俺は叫ぶ。呼ばれた業魔は躊躇いなく突っ込み、迷わず俺を掴み上げる。

 周りにいた異端審問官は突然のことに驚き、避けることに全力を尽くす。
 業魔は外壁を軽々飛び越え森の中へと消えていく。誰もが満身創痍だった。

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