1-7 業を背負う者

文字数 1,354文字

 太陽が紅染まりながら、地平へと消えていく中、僕はただ泣きながら素手で穴を掘っていた。
  近くには、座ったまま何もしない半裸の男、背中には気味の悪いトカゲの模様。そいつはだるそうに俺に話しかけてくる。
 
「"黒ヤギ"くんさぁ、もう良くない?適当に捨てておけばいいじゃん、そんなゴミなんてさ」
 
  俺はそいつを睨みつける。その男はこっちを見んじゃねぇ!と叫びながら手で自分の顔を覆う。まともに取り合うのも馬鹿らしい。俺は土で汚れていた手でも構わず、涙を拭い作業を続ける。

「でも本当に初めだったのか? 業魔化したの」
 
  無視して作業を続ける。
 
「人殺して罪悪感に苛まれて泣くとか、ハハッ、マジで面白いね。ほんとに業魔? 君」
 
「むしろお前らが異常なんだよ! なんの躊躇いもなく他人の命を踏みにじり! 自分の快楽に浸るお前ら業魔が!」
 
  憤りが頂点に達し思わず反論する。
 
「俺の仕事は、遺体処理の手伝いだけのはずだったろ!それなのに報酬は無いだのほざきやがって……」

  「そもそも異端審問官に見つかった時、お前の能力なら逃げきれただろ!何故逃げなかった!そうすれば俺が……俺が」
 
  ドロドロに溶けた肉塊に目をやる。覚悟は出来ているつもりだった。父を救うためにはどんなこともすると、人も殺すと……
 だがこんなにも ……苦しい、ただ苦しい。罪悪感に押し潰されそうだった。
 
「俺が人を殺める必要もなかったのに!」
 
  心からの叫びだった。そいつを睨みつける。そいつは顔を隠しながら悪びれる様子もなくこう答える。
 
「いやぁ、せっかく業魔化したのに勿体ないしそれに……あいつらの目玉を潰せるチャンスだって考えたら……ねぇ?」
 
  俺は呆れる。どこまでもバカで愚かで自己中だ、業魔ってやつは。 どいつも こいつも、他者の命を玩具としか認知していない。強烈な嫌悪感が湧き出る。
  そう思いつつも俺は感じていた……
 背中に刻まれた決して消えることのない、呪いの模様。血の涙を流す不気味な黒いヤギの存在を…… 俺は両手で溶けた肉塊をすくい上げ、墓に入れていく。
 
「じゃあ俺そろそろ行くから、同じ業魔同士、これからも仲良くしようね」
 
  おちゃらけた言い方が、逆鱗に触れた。
 
「お前らと同じにするな! 俺はお前ら業魔とは違う! 自分のために他人を好き好んで傷つけたりしない!」
 
  返事は無い。男の方をチラリと見ると、バカにしたように墓を指さす。
 
「これは! これは父さんを助けるためだ! 自分のためじゃない!」
 
「OK、OK分かった。悪かったって」
 
  ニヤニヤしながらそう言うと男は立ち上がり
 
「あっ、そうそう。報酬は後日ちゃんと送るから」
 
  そう言い、歩き出そうとするが少し止まって言葉をつけ加える。
 
「あとね。パパのため~とか理由付けしたり、墓作ったりしても、お前の罪が赦されることはないと思うよぉ。アハハハ! お互い業魔ライフを楽しもうね!」
 
  男を睨みつけようと振り返るが、もうそこにはいなかった。
 
  月夜に照らされる墓標と自分の汚れた手を呆然と眺める。 その右手の甲には、人の証たる人権印が刻まれていた。
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