１６．悪魔界のカレーライス

「カレーライスか、カレーライスは我輩も好きだ、悪魔界のカレーライス？　いや、実を言うと悪魔界にカレーライスは存在しなかったのだ。　カレー粉と言えば人間界ではカイエンペッパーの辛味、クミンの香り、サフランの色味などが主な材料になるわけだが、残念ながらそれらの香辛料は悪魔界には存在しなかった、だが、布教活動の傍ら我輩がそれらを悪魔界にもたらし、今では悪魔界独自のレシピによる悪魔カレー粉が製造・販売されておる。　むろん、悪魔の好みに合わせてアレンジは加えられておるぞ、クミンは共通だがカイエンペッパーの代わりにより辛味の強いハバネロペッパーを使用する、色味に関しては血のような赤が好まれるのでサフランは使用せず、ハバネロの赤味がそのまま悪魔カレーの赤になるのだ。　それを地獄の業火でから炒りするので当然辛い、人間界のものとは比べ物にならぬであろうな、人間界では強い辛味を『口から日が出る』などと表現するが、悪魔はもともと火を吐けるのでな、誤って実際に火を吹いてしまう者も多いのだ。　我々悪魔は地獄の業火の中から生まれ出でるので口から吹く炎を浴びた程度ではなんともないが、火事が多発するのは少々悪魔社会問題化しておる、悪魔界政府はカレーをもたらした我輩に改善を求めてきておるのだが、いささか困惑していないこともない、しかも10万60歳までにと期限を切られておるのだ、何か良いアイデアがあれば教えてほしい、その際には世を忍ぶ仮の姿で訪問することもやぶさかではないのだが……」