17.3分間クッキング

文字数 1,699文字

「皆様こんにちは、3分間クッキングの時間がやってまいりました、先生、今日は何を作っていただけるんですか?」
「今日はカレーを作ってまいります」
「どうしてカレーなんですか?」
「……いけませんか?」
「他に作るべき料理はいくらもあるんじゃないでしょうか」
「例えば?」
「麻婆豆腐とか担々麺とか、辛い料理なら他にもいくつもありますよね?」
「でも、今日は食材を用意してませんよ」
「それは先生の怠慢なのでは?」
「な……いや、しかし、今日はカレーと決めておりましたので……日本人はカレー好きでしょう?」
「そこがそもそもおかしいと思います、日本人はカレー好きと言う根拠が不明確です、詳細な説明を求めます」
「いや、街へ出ればカレー専門店は沢山ありますし……」
「中華料理店も沢山あります、カレー専門店より多いですよね、違いますか?」
「まあ、確かにそうかも知れませんが、カレーは洋食店や定食屋さん、ファミレスにもありますよ」
「中華料理もそうですよ、説明にも何にもなっていない、ありえないありえない、却下します!」
「却下って……どんな説明をしたらいいんですか?」
「あたしが納得できる回答を出してくれればいいんです!」
「どんな回答なら納得するんですか?」
「ですから! 作る料理を中華に変更すればいいだけです!」
「……カレーを作っちゃいけないんですか?」
「もっと中華にも目を向けるべきなのではないかと言ってるんですっ! 日本は多様性を目指さなければいけません、そもそも日本在住のインド人より中国人の方がずっと多いじゃありませんかっ!」
「日本人の方がずっと多いでしょう?」
「そこがそもそもおかしいでしょう? 日本列島は日本人だけのものじゃないんですよ!」
「は?……日本列島は日本人のものでしょう?」
「日本人『だけ』のものではないと言っているんです、もっともっと移民を増やして多民族国家を目指さなければいけないんですっ!」
「あの……これは料理番組なんですけどね」
「ですからっ! 食事は大切なものですよ! 日本人におもねって日本人好みのものばかりを作る意味がわかりませんっ!」
「あのね……この番組でも中華料理は何度も取り上げてるでしょう? その時は何も言わずに今日はあれこれ言うのはおかしいでしょう?」
「あんなもの! あたしは日本人好みにアレンジされたものを中華料理とは認めません! あんなのはパクリです、劣化コピーですっ!」
「……言ったな? 『あんなもの』とは何だ! 君はそれでも番組アシスタントなのかっ!」
「逆切れしないでください!」
「逆切れとは何だ! そもそも突っかかって来たのはそっちじゃないか!」
「突っかかる? 誰が突っかかりましたか!」
「突っかかって来ただろうが!」
「噛みついたんですっ!」
「なお悪いわ! でかい声出せばこっちが怯むと思ったら大間違いだぞ!」
「大きい声は民族性ですよっ! 何よ! ぼそぼそ喋ってばかりで何を考えてるかわかったもんじゃないわ!」
「民族性だと? 君は何人だ!」
「そんなことを開示する必要はなりません! でもこれだけは言っておくわ! 華僑の精神こそがあたしのアイデンティティ、あたしの誇りなのっ!」
「アシスタントとしての仕事をするつもりがないならスタジオから出て行ってくれ!」
「言ったわね! あんたこそ退陣しなさいよっ!」
「なんだと!?」
「やる気? このあたしに手を上げたら承知しないわよっ!」

(あまりに聞き苦しいので放送中断)

「はぁ……はぁ……はぁ……お見苦しい所を……今日はカレーのつもりでしたが変更します」
「(遠くから)そうよ! 最初からそうしてれば良かったのよ!」
「黙れ! 牛肉、タマネギ、ジャガイモ、ニンジン……丁度いい、今日は日本の家庭の味の代表、肉じゃがにします」
「(遠くから)なんて横暴な! 職権乱用だわ! このファシスト!」
「誰かそいつをつまみ出してくれませんか?」
「(遠くから)何をするの!? 腕を離しなさい! 離さないと仕分けするわよ! 離しなさ………………」
 バタン。
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