第18話

文字数 2,199文字

 喜多島由利子の死体が発見されたのは、翌朝の事だった。

 朝食に集まった中で由利子と古金沢の姿が無かった。古金沢は毎度の事だから誰も気に留めないが、いつもきちんとしている彼女がいないのは、さすがに問題だった。
 高財の件があったので誰からともなく喜多島を心配する声が上がり、食事を手早く済ませると、石河が「ちょっと部屋を見てきます」と言いながら腰を上げた。ダーツの矢が頭をよぎり、戸羽もついていくことにした。すると伊月秋絵が手を挙げて一緒に行くと言い出した。
「じゃあ、わしは一階を探してみることにしよう。宮古くんは表を見てくれないか」
 三空の指示に宮古は首を振った。
「嫌だね。どうしてあんなオバサンの事なんか心配しなくちゃならねえんだ。どうせ寝坊でもしてるんだろ? 放っときゃいいんだよ」
 どうやら昨日の件で腹を立てているらしい。そこで矢代友香が代打をかってでた。
「わたしが行きます。ちょうど散歩でもしたかったし」
 すると三空が心配の声を上げた。
「一人では危険かもしれないな。誰か一緒についていって差し上げなさい」
 そこで杜和香奈が「じゃあ、私が」と、名乗りを上げる。
 結局宮古一人を残したまま、それぞれ探索に入った。宮古はふて腐れるように舌打ちするのが聞こえた。

 二階に上がった戸羽と石河、それに秋絵。ノックするも返事が来ない。地獄の座敷わらしの事が頭をよぎり、最悪の事態を想定せざるを得なかった。
 思い切ってノブを捻ってみると鍵はかかっておらず、何の抵抗もなく開くことが出来た。そこに由利子の姿は無く、荷物は残されたままであった。
「きっと、トイレか何かだろう。心配することは無いさ」石河は平然と言いのけたが、その顔は不安に満ちていた。
「きっとそうよ。今頃はきっとダイニングに行っているはず」秋絵も自らの不安を打ち消すがごとく、石河の腕を掴み、退室を促している。
 それに同意した戸羽は部屋を出て、三人そろって階段へ足を向けようとしていた時に、外から矢代の悲鳴が鳴り響いた。
 慌てて階段を駆け降り、戸羽たちは玄関へと向かう。そこで悲鳴を聞きつけたであろう三空と合流し、四人そろって玄関の扉を開けた。

 北側にある物置小屋の手前で和香奈が茫然と立ち尽くしている。その横には矢代友香がうずくまりながら肩を震わせていた。
 四人が駆け寄ると、彼女たちの前には喜多島由利子が仰向けで倒れており、左胸には棒が突き刺さっていた。よく見るとそれはボウガンの矢であり、ダーツのそれではなかった。きっとリビングに飾られていたやつだろう。
「畜生。誰が殺しやがったんだ」石河は膝を付いてこぶしを握り締める。
 伊月秋絵は友香を立たせ、寄り添いながらその手を握り、屋敷へと導いていった。
「……やっぱり地獄の座敷わらしは存在したんだ。おそらくは自分たちの中にいるのだろう。こうなったら絶対に正体を暴いていみせる。このまま全員が殺されるのを黙って見過ごすわけにはいかないからな!」
 興奮状態の石河は力説しながら立ち上がった。
 それから戸羽と石河はしゃがみ込んで死体を調べてみた。犯行のあった時間はハッキリしないが、少なくとも夜のうちに死亡したのではないかと石河は述べた。死体の向きから物置小屋の方角から撃たれたのは確実で、中を調べるとボウガンが落ちていた。昨日まではリビングにあったから昨夜のうちに持ち去られただろうことは間違いない。石河はそれを勢いよく地面に叩きつけ、二度と使えないよう、二つに折った。
「なんだ。オバサンが殺られたんか。いい気味だ。俺を犯人扱いした罰が当たったんだな」
 場違いな言葉を投げかけられ、声のした方を向くと宮古が口を不敵に歪ませながらゆっくりと歩み寄ってくるのが目に入った。
 興奮した石河は、宮古に掴みかかると首元を締め上げた。
「あんたが殺したんだろう! 昨日あんなに罵られた腹いせで」
「そんな訳ねえだろう。そんなんでいちいち殺していたんじゃキリがねえぜ。それより提案があるんだが、聞いてもらえねえか?」
「何だ!」石河は声をさらに荒げた。
「おっと、その前にこの手を放してくれねえかな。正義感を振りかざす偽善者野郎」
「何だと!」石河はさらに締め上げると、何かを言いたそうに口を動かしたが、やがて諦めたのか宮古を押し放した。尻もちを突いた宮古は咳き込みながら立ち上がると、ズボンについた土を両手で払う。
 そこで戸羽が口を出した。
「宮古さん。その提案というのはなんですか?」
 宮古はかしこまった風に咳払いをすると、ちらりと石河の方を睨んだ後でこう言い放った。
「これから全員の部屋を調べるのさ。地獄の座敷わらしは俺たち八人の中にいるのは間違いねえ。だったら何かしらの証拠が出て来るかもかもしれないじゃねえか」
 そう言われて息を呑んだ。確かにその手があった。ボウガンは二度と使えないが、別の何かが出てくるかもしれない。
 ふと屋敷を見上げると、一番端の窓のカーテンが動くのが目に付いた。確かあそこは一号室で、古金沢の部屋であることを思い出す。どうやら彼はこちらを伺っているように感じた。
 そこで石河の声が聞こえた。
「自分は賛成です。皆さんはどうですか? コイツの意見に従うのは正直言って癪ですが、それぞれが座敷わらしでないと証明するためにも、ここは彼の意見を採用しようと思います」
 その言葉に反対する者は誰もいなかった。
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