第6話

文字数 458文字

虹彩に映る緑色の家
意識を置かないと気付かないマンホール
囀ずりが閑静な窓を鳴らす小路
車通りが多くて灌木が今日も薫(かお)る
次第に道が狭くなって
たらだらだった光で目をすがめる
知り合いの店も並んでいる
この道を、何度、歩いただろうか…

雨でアスファルトの砂の想いが
散らばる制服の心を融かし
重たい荷物を背負う日もあれば
朝焼けに向かって、腹を空かしながら
いや、とにかくもう走っていった
いや、とにかくもう走っていった

通いつめたバイト先が潰れて
星が自棄(やけ)に鉛のように降っているし
涙を拭いきれずに
いい歳こいて
母親に背中をさすられた日もあった

千鳥足になって
あの人を想ったのか
川に入って、裸足のまま町を歩き
あの人に貰った天の服(ヴェール)を着たまま
シャワーを浴びた

本当にあったことなのに
胸を失くすほど轟(とどろ)かしたことなのに
本・当・で・あ・っ・たのに
全てが幻のようだ
全てが幻のようだ

僕は、いま
晩秋の幻のなかを
気付けば歩いていた
ただ歩いていた
ショルダーが衣服に擦れる音や
靴の薬指が
小路を蹴り、礫(こいし)が散らかる
音やリズムを忘れて



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