第2話 壁の街

文字数 544文字

壁の街
 ある漢が街を歩いていた。
 その街は、非常に奇妙な作りをしていた。
 道の両側に壁がそそり立っているのである。

 漢はふと、「この壁を攀じ登ってみよう」とある種不謹慎な想いにかられた。

 漢は、壁に手を掛けるのであるが、鋼鉄と分厚いコンクリートで出来た冷たい壁は、つるつると滑り、しかもどれもこれも最低でも三メートルはあり、攀じ登るのは不可能であることを悟った。

 冷たい街である。人の気配が全くない。
 しかし、耳を澄ますと、壁の中から何やら人の話し声の様なものが聴こえる。
 壁の中に、人が住んでいるらしいのだ。

 漢は、孤独であり空腹感にも駆られた。
「ああ、あすこにコンビニがある」
 漢は、空きっ腹を抱えてコンビニに駆け込み、幕の内弁当を買った。

 レジには、顔面と後頭部にクチがある、二口女が事務的に仕事をこなしていた。
 「お茶と幕内弁当で、650円になります。お弁当、温めますか?」
 女の前の口が応えた。

 「この街は、いつからこんなに壁がそそり立っているのですか?」
 弁当がチンする間に、漢が怪訝な猿のような表情で問うた。

 「はるか昔の…弥生式時代から…」
 遠い目をして、女は後ろの口で答えた。

チン!

 漢は、薄気味が悪くなり、弁当を受け取るとまた壁のそそり立つ街へと繰り出した。
 
 

 
 

 
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